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言霊戦記  作者: 神山大可
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第八話

 翌日、俺はいつも通りスマートフォンのアラームで目を覚ました。

 画面を見ると七時四十五分。

 いつもなら遅刻の時間だが今日は日曜日、二度寝をしても誰にも文句は言われない朝だ。

 しかしもう一度目を瞑ろうとした時、スマートフォンが振動した。


「っだよ! 日曜の朝に!」


 イライラしながらも画面を見る。

 空からの着信だった。


「あ? なに?」


 まったく、二度寝を妨げるとは罪の重い奴だ。


『あ!? ごめん、まだ寝てた?』


 空の元気ないい声が頭に響く。


「そうだよ……なんだよこんな朝早くに……」

『ごめんごめん、急な用事でさ。二つあるんだけど良い方か悪い方どっちから聞きたい?』


 出た、このやり方、俺はこの聞き方をしてくるやつが一番嫌いだった。


「どっちも」


 イライラは最高潮に達している。


『もう! つれないなあ! じゃあ一個目はね、昨日のテスト合格だよ! おめでとう! これで晴れて君も』影』の仲間入りさ!』


 よくもまあ休日の朝にこんなテンションになれるなあ、感心するぜ。


「ああ、で? もう一つは?」

『早速任務だよ! 集合は午前九時に影本部ね!』


 そう聞こえると電話は切られた。

 俺はゆっくりとベッドから起き上がる。

 現在午前八時。

 急いで家を出る支度をした。



---



 都庁に着くと昨日とは打って変わって何やら騒がしく、受付にも一ノ瀬の姿は無かった。


 あれ? そういえばカードキーみたいなのとか貰ってないけどどうするんだ?


 そう思い、受付の前でウロウロしていると奥から空がやってきた。


「天! 結構早かったね」


 そう言うと空はポケットから何やら取り出した。


「はい、正式に捜査官になったからこれ渡しておくね」


 空が差し出してきたのは顔写真付きのカードだった。


「これは?」

「影の証明書。警察手帳のようなものだよ」


 カードには初級捜査官と書いてあった。


「そんなことより今大変な事になってるからさ、ついて来て」

「わかった」


 俺たちは地下へと向かった。



 地上の受付同様、影本部は多くの人が慌ただしく動いていた。


「空、どう言う事?」

「詳しい事は作戦司令部でな」


 そう言って足早に司令部に向かった。

 俺も遅れないようについて行く。

 中二階の作戦司令部には十人ほどの捜査官と思われる人物達がいた。

 皆同じ膝丈まである背中に影と刺繍された外套を着ていた。

 中にはこの前受付で会った一ノ瀬の姿もあった。


「手島准特捜只今参りました。こっちが森田初捜です」


 そう言うと空は俺の背中を押した。


「あっ……どうも。森田天です」


 俺は慌てて自己紹介をする。


「そうか! 君が天子さんと万事さんの! 君も影に所属する事になったんだね! よろしく!」


 岩のように体がデカく、頭にちょんまげのように髪を結んでる男が握手を求めて来た。


「あっ……よろしくお願い痛っ!」


 マッチョの予想以上に強い握手に思わず大きな声を出した。


「おい! 優秀な人材を壊すんじゃ無いよ?」


 そう言ったのはショートカットで眼光の鋭い女の捜査官だ。


「すまん、すまん。ついいつもの癖でな。大丈夫か?」

「はい……なんとか」

「まあまあ、天。とりあえず紹介するね。こちらの皆さんは影のエリート捜査官の皆さん。みんな准特級以上の階級だよ」


 そう言うと空は一ノ瀬の方へ向かっていった。


「天も前に会ったよね? 一ノ瀬知恵作戦司令長だよ」

「天くん。改めてよろしくね」


 そう言うと一ノ瀬は優しく微笑みながら握手を求めた。


「よろしくお願いします」


 先ほどのマッチョと違って優しい握手だ。

 そんなやりとりをしていると二人の男が階段を登って作戦司令部に登って来た。


「おう、天。昨日ぶりだな」


 そう言って来たのは父さんだった。


「父さん……そうか、父さんも捜査官だもんな」


 俺は父親よりも後ろの人物が気になった。


「あの……そちらの方は?」


 俺は恐る恐る聞いてみる。


「やあ、私は第十五代異能管理協会、総長の榊原だ。よろしく」

「総長!? じゃあトップって事ですか?」

「まあ、そう言う事になるな」


 まさかトップとこんなにも早く対面する事になるとは思ってもいなかった。


「なんでこんなところに?」

「ああ、その事なんだが、みんな聞いてくれ」


 そう言うと榊原は円卓の縁のボタンを押して3D映像を映し出した。


「昨日午後四時三十五分。埼玉県で新たな異能力者を発見した。今回はその調査兼、保護にあたってもらう。一ノ瀬司令長、データを」

「はい」


 そう言うと一ノ瀬は持っていたタブレットを円卓の上に乗せた。

 暫くすると機械音が鳴り、映像に同期完了と文字が出ると同時に一人の少年の写真が出て来た。


「こちらが昨日発見された新たな異能力者です。桂木啾、十五歳。言霊は『鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)』です」


 一ノ瀬が話し終わると空気が一気にピリついた。


 ん? なんだ?


 疑問に思っていると榊原が話し始めた。


「と言う事だ。ここにいる者の全員がこの言霊を知っている事だろう、そして殆どの者がその残酷さも知っているだろう。この言霊は何としても道化師には渡してはならない。そこで今回は天捜査官に行ってもらおうと思う」


 総長の言葉に一人の男が異議を唱えた。


「お言葉ですが総長。昨日今日入ったような新参者の捜査官にこの案件が務まる訳がございません。もう一度お考えなさった方が宜しいかと」


 髪は無造作に伸び、身長が高く、痩せ細った骨と皮しかないような男が言った。

 少しムッとしたがこの男の意見に賛成だ。

 俺自身も入ったばかりの自分に任せられるよりはベテランの人々に任せた方が何倍もいいと思っう。


「笹木よ、これは決定事項だ。なぜなら天くんの異能力は非常に戦力になる。なら今回の任務で任せた方がいいからな」


 笹木と呼ばれた男はまだ納得いかない様子だ。

 そうしていると一ノ瀬が口を開いた。


「皆さん、安心して下さい。今回は天くんとは手島准特捜とツーマンセルを組んでいただきます。これならば安心かと」


 えっ……空と?


 空の方をチラッと見る。

 ニヤニヤとこちらを見ていた。


 心許ない、どうせならあそこのマッチョな人か、とにかく空よりも適任がいるはずだ。

 そんな心の訴えも虚しく、会議はどんどんと進んでいった。


「手島なら大丈夫だろう。私は賛成だ」


 奥の方で黙っていた長髪の三白眼の男が言った。


「私も賛成だ」


 そう言うのは先ほどのショートカットの女性だ。


 待て待て、いくら何でも急すぎる。

 こういうのは何か訓練とかした後じゃないのか


「ちょっと待ってくださいよ! 僕まだ異能力を使ったことすらないんですよ!? 僕に任せていいんですか?」


 しかし俺の訴えは意味をなさなかった。


「大丈夫。僕も最初はそんな感じだったよ」


 空が不敵な笑みを浮かべながら肩に手を乗せて来た。


 不安だ……せめてこいつじゃない人と


「よし、ではすぐに準備をしてくれ!」


 総長のその言葉で会議は終わってしまった。

 捜査官達がゾロゾロと帰って行くなか父さんが近づいて来た。


「大丈夫。お前ならきちんとやって来れるはずだ。空くんもいるしな」


 そう言うと父さんも言ってしまった。


 何て無責任な父親なんだ。


 俺は父を呪った。



 会議の後、俺は空について行き、南の通路を通って科学技術科へ向かった。


「なあ、ほんとに俺でいいのか?」

「大丈夫だよ。僕がいる」


 移動中も不安で空にずっと聞いていたがそんな言葉しか返って来なかった。

 暫くして科学技術科に着いた。

 中は地上の受付のように人がいて、奥にはとてつもなく広い倉庫が広がっていた。

 注意して見てみると一つ一つが引き出しとなっており、名前が書いてあった。

 空は受付に行くとカードを提示した。


「いつもの装備と、あと、スナイパー用のライフルもお願いします」

「かしこまりました」


 ライフルって物騒すぎる!


 俺はもう口に出してツッこむのもやめた。

 すると御雷に囁かれた。


『天、武器は刀にしてくれ』

『え? なんか意味あるの?』

『そうでなければ私の力が発揮できない』


「空? これって俺のもあるの?」


 俺は空に聞いてみる。


「ああ、あるよ。けど、まだオーダーメイドの装備は無いから標準装備になるかな」

「刀とかって……」


 そう言うと空は閃いたように言った。


「そうだ! 天子さんの装備があるけどそれでもいいよね?」


 そう言うと空は受付の人に母さんの装備を持ってくるように伝えた。


『御雷? それでも大丈夫?』

『ああ、逆にそちらの方がしっくりくる』


 暫くして受付の人が装備の入った箱を持ってきた。

 中には捜査官が身につけている外套と二本の日本刀とハンドガンが一丁あった。

 俺は外套を着て刀を両腰に差し、ハンドガンを太腿につけた。


「いいねえ。似合ってるよ! じゃあ行こっか」


 そうして俺達は科学技術科を後にした。



 次に西側の通路に向かう。

 西側の通路には両脇に扉があり、その一つ一つに県名が書かれていた。


「よし、埼玉は……ここか」


 空が埼玉県と書かれたドアを開ける。

 中は縦十メートル横十メートル程の部屋だった。

 真ん中には何かの黒い穴のようなものがあった。


「空? これは?」


 恐る恐る聞く。


「ああ、ポータルだよここから埼玉県の新たに発見された異能力者のところに繋がってるんだ」


 身震いがした。


『大丈夫。恐るな』


 御雷に声をかけられる。


「大丈夫。あっちに着いたら色々と今回の作戦について教えるからさ。じゃあ行こう」

「……わかった」


 そう言って俺たちは黒い穴の中に入った。

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