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言霊戦記  作者: 神山大可
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第七話

 俺は先生の案内により、会議室を出て管制室に向かって長い通路を歩く。


 ざっと百メートルくらいだろうか。


 両脇の壁には一定の間隔で作戦会議室と書かれた部屋や、会議室と書かれた部屋があった。


「森田も見た事あるだろうが、管制室から四つの通路があってな、俺達が今いるのは北通路で主に作戦会議室などがある」

「へえ。じゃあ四方向それぞれ違う部屋があるって事ですか?」


「そうだ。南は科学技術科がある。そこでは捜査官の装備などを作ってる。さっきも話した通り、司令官の殆どは戦闘向きの異能力を持ってないからな、だけど大きな事件だと現場に出る事もあるからそんな時に使うんだ。もちろん、捜査官用の装備なども作っている」


 やはり国営機関なだけあってその辺の装備は充実してるのか。


「東は修練場って言ってな、異能力を使ってバーチャルでの戦闘も出来るようになっている。西は日本四十六道府県のどこにでも行ける移動用のポータルがある。まあ、これは正式に捜査官になった時に使うからな、それまではお預けだ」


 そんな話をしているうちに管制室についた。

 俺は工藤先生の説明である程度の事は理解することができたがひとつだけ心残りな事があった。


「先生、施設とか捜査官のことは色々分かりました。けど、実際影は何と戦っているんですか?」


 一瞬先生と空の顔が曇った。

 ん? まずいことでも聞いたか? 

 いや、でもそれがわからないと何にもならないからな。


 二人は顔を見合わせてしばらくした後、工藤先生が喋り始めた。


「これはまだお前に言うべきじゃなかったんだけどな。影の仕事は主に二つあるんだ。まず、言霊の継承についてなんだがな。継承者がいない場合どうなると思う?」


 確かに、子供がいない家庭だとすれば言霊は受け継がれない、その言霊は消滅してしまうのだろうか?


「後継者のいなくなった言霊はまた新たな人間に乗り移るんだ。その発見を捉え、異能力者を保護するのが第一の仕事だ。まあこっちは割と安全だから安心してくれ」

「そうですか。じゃあ、もう一つは?」


 先生は何やら言いにくそうだった。


「じゃあ、ついてきてくれ」


 そう言うと先生と空は管制室全体が見渡せる中二階に繋がる螺旋階段を登って行った。

 俺もついて行く。

 上に登ると真ん中に円卓があり、ちょうど父さんと話した部屋のような作りだった。


「ここは……?」

「ここは管制室の作戦司令部だ」


 先生はそう言うと円卓がの縁のボタンを押した。

 すると頂点に影のロゴ、下に正三角形を作り出すように二つのロゴが3D映像で映し出された。


「うわ……すげ……」


 映画のような世界の光景に息を呑んだ。


「これは今現在日本に存在する三つの異能力者組織だ」


 一つは将棋の駒に鬼とあるロゴ、もう一つは何やらピエロのキャラクターのようなものだった。


「へえ。影の他にもあるんですね」

「まあな、この鬼と描かれてるのは鬼獄会(きごくかい)って言ってな、まあ所謂反社会的組織だ」


 鬼獄会、影と違ってかっこいい。


 ん?

 てことはこいつらが敵だとしたら、母さんを殺したのはこのどっちかの組織の人間ということか。


「その鬼獄会って奴らが母さんを殺した奴らですか?」


 しかし先生は首を横に振った。


「いや、この鬼獄会の首領は橘力と言うんだがな、今は我々とは敵対していない。休戦状態なんだ」

「じゃあ、もう一つの……?」

 

 俺はピエロのキャラクターがの描かれたロゴを指さす。


「ああ、こいつらは道化師(ピエロ)だ。こいつらは所謂半グレ組織でな。全員イカれてる」


 先生と空は険しい顔をした。

 すると、ここまで黙っていた空が口を開いた。


「こいつらの組織には俺達みたいな階級があってな、四人の(キング)が上に立ち組織されてる。そして、犯行現場に必ずトランプのカードを置いていくんだ。それは犯人の階級を表してる」


 そう言うと一枚のトランプカードを俺の前に置いた。

 ハートのキングだ。


「王? 母さんを殺した奴が?」


 いつしか俺の声は大きくなっていた。


「ああ、さっきも話した通り森田天子准特捜を殺したのは亀山業得。四人の王の一人だ」


 腹の奥が熱く焼けるような感覚だ。

 写真で見た亀山の顔が脳裏をよぎる。


「なあ、天。もしお前が捜査官になったとしてもこの件に関しては、お前が望むなら捜査から外れることもできる」


 考える時間など必要なかった。


「いや、やるよ。俺はこいつを捕まえる。そして何よりも辛い苦痛を与えてやる」


 磨かれた円卓が反射して俺の顔を写す。

 そこには不気味な笑みを浮かべた自分では無いような顔が写っていた。


「ああ、それには我々もできる限りのことは尽くそう」

 

 先生は円卓の上に映し出された3D映像を見ながら言った。



---



 「じゃあ、今日はこれで。明日には自宅に影の捜査官証などが届くから」


 そう言うと先生はまたどこかへ行ってしまった。

 俺と空は管制室の作戦司令部に取り残された。

 怒りで興奮が収まらなかった。


「ごめんな。まだ今日は伝えるべきじゃなかったかもな」


 空がそっと肩に手を置く。


「いいんだ、こういうのは早く知っといた方がいいだろ? それに、母さんの死だっていつかは向き合わなきゃいけないんだから」


 内心で怒りと悲しみが入り混じっていたが、精一杯の作り笑顔ができた。


「そうか……あ、あともう一つあるんだけど」


 そう言うと空は円卓の操作をし始めた。

 3D映像が瞬く間に変わっていき、個人の写真が並んだ映像になった。


「これは?」

「影の全職員だよ」


 見たところざっと五百人ほどいる。

 その中には勿論父さんの写真もる。


「基本的に捜査官は二人一組で行動するんだ。階級が上の人と下の人でな。まだ天のパートナーは決まってないがそれだけは頭に入れといてくれ」


 そう言うと空は円卓を操作して3D映像を消した。


「と、まあこんなもんだが、何か気になる点でもあったか?」


 俺は首を横に振る。


「おし、じゃあこんなもんだな。じゃあ俺はまだやる事があるから先帰っててな」


 そう言うと空も行ってしまった。

 俺は何やら忙しそうにしている管制室を後にし、地下道を通って受付のある一階に出た。

 受付に一ノ瀬の姿はなかった。



---



 俺は一人、地下鉄に揺られていた。

 最寄りの駅までの電車三十分、母さんを殺した男の顔が思い浮かぶ。


『天、大丈夫か?』


 御雷が心の中で話しかけてきた。


『大丈夫って、何が?』

『いや、母親の事について色々と知れた反面、何か思うこともあるだろう?』

『うーん……まあ、強いて言うならこの事について教えてもらってなかった事かな』


『そうか……あ、それと一つだけこの能力に関して言ってなかった事があるんだ』

『え……そう言うことは早めに言っといてくれないと』

『すまない。まず、この異能力は日本に代々伝わる八百万の神の加護を授かる異能力だ』


 まあ、神々ってくらいだからそうだろう。

 でも八百万ってすげえな。


『ん?てことは御雷以外の神もいるってことなのか?』

『そうだ。しかしここで一つ問題があってな。さっきの奴らはなんとも言ってなかったがな、異能力の効果は元々の保持者が死ぬと無効化されるんだ』

『えー……てことはつまり?』

『はあ……お前は天子と違って頭が弱いところが弱点だな』

『悪かったな』


 神のくせして生意気な。

 いや、神だからか。


『神の加護を受けるにはそれ相応の契約などが必要なんだ。天子はある程度の神から加護を受けていたがその契約が天子の死によって解除された。つまり、今お前が受けることができる加護は私からのみだ』


 え、八百万もいないのかよ。

 

『なんで御雷は俺に憑いてるんだ?』

『うむ、私はこの異能力によって最初に契約した神だ。それで、初代との約束で今後貴様ら異能力者を見守る事にした訳だ』

『でも、御雷だけじゃ不安だわ』

『何を言う! 無礼だぞ貴様』


 御雷は声を荒げた。


『ごめんごめん。冗談だよ』

『全く。そもそも貴様には自覚が無いのだ。これからどれだけの試練が待ち構えているのか……』

 

 俺は御雷の小言がうるさかったから目を閉じて寝たフリをした。


『おい! まだ話は終わってないぞ!』


 御雷の小言が天の心の中で響いていた。



---



「ただいまー」


 家に帰ると既に父さんは帰宅していた。

 キッチンからはハンバーグのいい匂いがする。


「おう、おかえり。夕飯作るから先に風呂でも入って待ってなさい」


 母さんの使っていた花柄のエプロンをしているが絶望的に似合わない。


「わかった」


 風呂のお湯を沸かし、二階へ上がる。


「なあ御雷?」


 家では心の中で喋る必要が無くてなんとなく落ち着いて話せた。

 

『なんだ?』

「さっきはごめんな。あんたの言う事もわかるよ。気をつける」

『ふっ……わかればいいさ』


 そう言うとネックレスが光だし、御雷が部屋に現れた。


「うわ! 急に出てくんなよ……しかも、出れんのかよ!」

『まあな、普段は移動がめんどくさいからその中にいるが家だと出てくるさ。天子の時もそうだったぞ?』


 初耳だ。


「え? じゃあ俺の事も知ってたの?」


『勿論。だが最初だけは気付かなかった。なんせ酷い顔をしていたからな』

「あ、なるほどね」


 するとちょうど風呂の沸く音が聞こえてきた。


「じゃあ俺入ってくるわ」


 そう言って俺は部屋を出た。



 風呂から出ると父さんがリビングで待っていた。


「ん? 出たか? じゃあご飯にしよう」

「待ってなくても良かったのに」


 父さんの顔が少し暗くなる。


「まあな、母さんが生きてた頃はこうやって一緒に夕食食べる事なんて無かったからな。これからは大切にしようと思ってな」


 物心ついた時には既に父さんが単身赴任していた俺にとっては一緒に食べる夕食は嬉しかったが、この場に母さんがいない事が心に風穴を開けているようだった。


「そういえば今日影の試験を受けたんだってな? どうだった?」

「どうだったって言われても……まあ、普通だよ」

「そうか……まあ万が一落ちたら父さんがどうにかするよ」


 いや、あの内容の試験で落ちることはないだろう。

 たぶん。


 二人きりの夕飯は気まずかったが、テレビをつけても面白い番組はやってなかった。



 食事を終え自室へ戻ると部屋の中から大きな笑い声が聞こえてきた。

 正確に言うと遠くから頭の中に響く感じだが。


『アヒャヒャヒャヒャ!』


 ドアを開けるとベッドに横になりながら御雷がパソコンで動画サイトを見ていた。


『ムッ! やあ天』


 御雷はベッドからすぐに起き上がり、立ち上がった。


 いや、遅えよ……


 内心思いながらパソコンを開いた。

 

「ふーん……ロケットマン4号ね……」


 そこには今絶賛売り出し中の漫才コンビの動画が流れていた。


『まあ……現代の文化も一応知っておかないとな』


 いや、あんたこの前まで母さんに憑いてただろ。


 そう思ったが口に出すのはやめておいた。


「御雷さ、ありがとうな。母さんを守ってくれて」

『なに、それが我々の使命だからな』


 俺にはもったいないくらい心強い味方だ。

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