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言霊戦記  作者: 神山大可
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第六話

「そういえば空、お前の異能力ってどういうやつなんだ?」


 俺は空の背中に刻まれていた“浸潤之譖(しんじゅんのそしり)”という言葉を聞いた事がなかった。


「そうだな、簡単に言うと嘘を真実にする能力だよ」

「へえ、それって結構強くないか?」

「いや、そうでもないよ。言霊の使用にはある程度制限があるんだ。俺の能力は多くの人がその嘘や噂を広める事によってやっと真実となる。きっとお前の能力も何かしらあると思う」

「なるほどね。じゃあ戦い向きってわけじゃないんだな」

「まあな。だから俺は後方支援みたいな感じだな。詳しくは本部に着いたら説明するよ」


 俺達は影に急いだ。



 俺達の通う高校は東京都第四地区、影のある都庁は第一地区にある。

 影までは地下鉄で二十分ほど。


『都庁前ー都庁前ー。ご乗車ありがとうございました』


 無機質な人口音声の音が車内に響き、スーツ姿の大人や学生が降りてゆく。

 第一地区には都庁を始め全ての省庁が集まっている。  

 都庁は地下鉄駅を出ための前にある。

 地上高くそびえ立つこの建物の地下に秘密組織があるなど、誰にもわかるはずがない。


「よし、今日はまだ開いてるから正面入り口から入ろう」


 そう言うと空は入り口に向かって進み始めた。

 

 秘密組織なのに正面から入って大丈夫なのか?

 少し心配になったが、空は進んでゆく。

 入ってすぐの正面入り口前のカウンターには厚生労働省で会ったあの女性職員がいた。


「手島空准特級捜査官です」


 そう言うと空は顔写真付きのカードを提示した。


「あら空くんお疲れ様。そっちは天くんだよね」


 女性職員は笑顔で喋りかけてくれた。

 名札には一ノ瀬知恵と書かれていた。


「ちょっと知恵さん。ここでは手島准特捜って呼んでくださいよ」

「ごめんごめん。ついいつもの癖でね」


 そう言うと一ノ瀬から首から下げるストラップが渡された。


「一応天くんはまだお客さんだからね。これつけてないと怒られちゃうから」


 俺は受け取り首から下げる。

 そこには見学中の文字が書いてあった。


「ありがとうございます」

「じゃあ行くか」


 俺は空についていく。


「あ、待って」


 一ノ瀬に手を掴まれる。


「はい?」

「あの、天くんのお母さんは凄い人だったんだよ。だからきっと天くんの事も見守ってるからね」

「ありがとうございます。僕も影の役に立てるように頑張ります」


 俺一ノ瀬の手をギュッと握りしめた。 

 母さんが捜査官としてどんな人物だったのかは知らないが、色んな人が凄かった、立派な人だったと聞く。

 きっと優秀だったのだろう。


「じゃあいこう」


 俺達は受付を後にして奥へ進んでいき、地下へと続く階段を降りる。

 三階ほど降りたあと、長い直線の廊下の奥に業務用エレベーターと書かれた扉に差し掛かった。


 しかし普通のエレベーターとは何かが違っている。 

 扉の周りをじっくりと見るとボタンがない。


「空?これボタンないけど……」

「まあ見てろって」


 そう言うと空は扉脇の壁に先ほど見せたカードを当てた。


『手島空准特級捜査官。認識いたしました。虹彩認証をしてください』


 どこからともなく機械音が聞こえてくる。

 すると空がカードを当てていた壁から何やら機械のようなものが出てきた。

 空は双眼鏡のように飛び出た筒に目を当てる。 


 ウィィィィィン


『認識いたしました』


 そう言うとエレベーターの扉が開いた。


「うお……すげ……」

「な? これが影の最新設備だよ。でも、まだまだこんなもんじゃないぜ」


 そう言って空はエレベーターの中に入ると奥の鏡に手をつけた。


『指紋認証開始』


 またしても機械音が鳴る。

 どうやら普通の鏡ではなく何かしらの仕掛けがあるらしい。


『認証完了』


 そう言うとエレベーターの文字盤が裏返り、影と書かれたボタンが出てきた。

 空はそれを押す。

 こういうギミックにはやはりワクワクする。


 しかし、前に来たときはこんなんじゃなかった。


「空、前父さんと来た時はこんなんじゃなかったよ?」

「ああ、それ裏口から入らなかった?あっちは警備員さんもいるから結構軽い警備なんだよ。ちなみにあの警備員さんも異能力者だよ」

「へえ」


 チンッ


 エレベーターの扉が開く。

 そこには前と同じ管制室があった。


「ようこそ“影”へ」


 そう言って空は両腕を広げた。


 

 俺達は影の長い廊下を歩き続けて突き当たりの部屋に入った。

 中は学校の教室のように机が並べられており、正面には大きなモニターがあった。

 空は壁側にある本棚に向かう。


「天、どこでもいいから座っていいよ。とりあえず影に入るには色々な手続きとかしなきゃいけないからさ」


 俺は一番前の席に座る。

 空は本棚の引き出しから束になった紙を取り出して俺の前に置いた。


「多くねっ!?」


 紙の束はざっと五十枚ほどあった。


「まあな、捜査官になるにはまず試験を受けてもらわなきゃいけないからね。筆記と実技。たぶん天の場合は森田特捜の推薦が有れば実技試験の方は要らないと思うからさ、とりあえずこの問題を解いちゃって」

「嘘っ! そんな簡単に言うなよ!」

「まあ、大丈夫。筆記って言っても一般常識から、作文みたいなもんだからさ。じゃあ俺はちょっと読んでくる人がいるから」


 そう言うと空は部屋から出て行ってしまった。


「嘘だろ……空じゃねえんだからこんな問題とかねえよ」


 俺は不安を抱えながら束になった試験用紙をめくった。



---



 三十分くらい経っただろうか。

 空はまだ戻ってこない。

 俺はというと、余りにも簡単過ぎた問題で、時間を持て余していた。

 問題の内容は極めて簡単で、学校で習うような歴史や、漢字、作文にはなぜ捜査官を目指すのかの具体的な理由を書かせる問題だった。


 それからしばらくして部屋を開ける音がした。


「どう? 天、結構できた?」

「うーん……まあまあかな」


 そう言って空の方を向くと見覚えのある人が立っていた。


「え? 工藤先生?」


 俺たちの担任、工藤先生だった。


「おう、森田ぁちゃんとやってるかぁ?」

「な、なんで先生がいるんですか!? 聞いてないっすよ!」


 天は慌てて席を立った。


「お前が試験受けてるって聞いたからな。試験監督に来てやったのよ」


 違う、俺の聞きたいことはそうじゃない。


「違いますよ! なんで影にいるんですかって事ですよ!」

「あれ? 言っててなかったっけ? 俺も異能力者なんだよ」


 工藤はすっとぼけた顔をして言った。


「ええ! 初耳ですよ!」


 まさかあの工藤先生が。

 いやでも、やけに言霊に詳しかったしな。

 あれは単に教師だから知っていただけか。


「まあ、いいから座りなさい。これから影について色々と説明しなきゃならないからな」


 俺はまだ状況を飲み込むには時間が必要だったが、渋々席に座る。


「じゃあ、手島。採点しといてくれ。お前准特級だったよな?」

「はーい」


 そう言うと工藤は電気を消してモニターの前に行った。


「よし、じゃあまずは施設についてだな」


 モニターを着けると何枚かの写真が出てきた。


「まず、東京都には第一地区から第二十三区まであるのはわかってるよな?」

「ええ、もちろん」


 そう言うとモニターをスライドさせた。


「うん。で、政府の各省庁は第一地区に集まっているな。その政府各機関の地下に影が存在しているんだ。ここまでいいか?」


 国営機関となると全部か。


「うん。で、思い出したくないと思うんだが、森田は前に厚生労働省の影には行った事あるよな?」

 

 脳裏に母さんの死際の姿が浮かぶ。


「ええ……あります」

「そこは影の医療施設になっている。このように、各省庁の地下にはそれぞれ役割があってな、それを統括する本部がここの都庁だ。ここまでいいか?」

「はい」


 工藤はうなずく。


「よし、じゃあ次に組織形態について。まあこれは結構ややこしいんだが、まず影には二つの職があってな。捜査官と司令官。この二つで成り立っているんだ。簡単に説明すると、捜査官は主に現場に出て捜査を行う、司令官は本部で指示を出す役割みたいなもんだな。

 その中でも捜査官には階級があって、上から順に特級、准特級、上級、中級、初級だ。そして、この捜査官は殆どが異能力者。司令官にはその異能力者の家族や、戦闘向きでは無い異能力者もいる」

「じゃあ俺がなるとしたら捜査官ですか?」


 工藤は首を振った。


「必ずと言っていいわけでは無いが、たぶんそうだろう。だが、手島の能力のように戦闘向きでは無くても捜査官をしている者もいる。そういう人たちはある程度の成績で実技試験を合格しなければならないんだ」


 うーん。

 ややこしい。


「つまり、どういう事すか?」

「まあ、俺が優秀ってことだよ」


 空がドヤ顔で言う。


「そうなんだな。悔しいが手島はかなり優秀な捜査官だからな。階級で言えば俺よりも上だよ」

「え? じゃあ工藤先生の階級はどこなんですか?」

「俺は上級だよ」


 はあ、やっぱ空はすげえな。


「じゃあ次は実際に施設見学に行くか。手島もついて来い」


 俺達は会議室を出た。

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