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言霊戦記  作者: 神山大可
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第四話

「“シャドウ”?」

 

 一言で言うとダサい。


「なんで“シャドウ”なの?」

「この世界を決して表に立つ事なく“影”から支えるからだよ」

 

 なるほど

 そのまんま過ぎて何のひねりもない。


「まあ、とりあえず立ち話よりゆっくり話せるところに行こう」

 

 そう言って父さんは歩き出した。


 “(シャドウ)”は広いという言葉一つで表せるほど簡単な場所ではなかった。

  最初に入った管制室のようなところから四方に伸びる通路がある。

  俺達はその一つに進んでいった。


「広いなあ」

「そうだろう? 世間に知られてないだけで立派な国営機関だからな。まあ簡単に言えば裏社会の警察と言ったようなとこだな」


 なるほど。

 流石に一般企業だとここまでの大きい施設を作ることは無理だろうな。 

 そもそも都庁の下にあるくらいだからな。


 少しして父さんは歩みを止めた。 


「よし、ここだ」


 そう言うと特級捜査官専用会議室と書かれた扉に入っていった。

 中は管制室ほどでは無いがかなりの広さがあり、中央に円卓、周りには十席の座り心地の良さそうな椅子にがある。


 入って正面の壁には“(シャドウ)”のロゴなのだろうか、菱型の真ん中に影と書かれたものがあった。

 父さんは扉に向かい合う、一番奥の椅子に座った。

 誕生日席だ。


「よし、とりあえずどこでもいい、座りなさい」

「うん」


 俺は父さんと向かい合うように座った。

 

 机がでかくて遠すぎるが。


「まだ話し足りない事があってな。お前も気になっているだろう? なぜ自分にその異能力があるのか」


もちろん、俺の一番の疑問はそこだ。


「さっきの五人の異能力者の話の続きになるんだがな、その五人が影を作った後も悪に染まる能力者、五人の思想に共感し、影に入る者。

 それが長年にわたって受け継がれる事で今の日本があるんだ」


「うん。でもそれじゃあ答えになってないじゃないか」

「わかってる。この異能はな、その家系に代々受け継がれるとされるものなんだ。

 だからお前も母さんからその異能を受け継いだんだ」


 ん? てことは父さんの能力も俺に受け継がれることになるのか?

 そしたら異能二つ持ちのサラブレッドじゃないか。


「じゃあ、父さんの異能も今後俺が受け継ぐって事なのか?」

「いや、父さんの異能はちょっと特殊でな。受け継がれる事はない。そもそも異能者同士の子供が産まれても二人の能力を受け継ぐ事はないんだ」

「え? なんで? 単純な話だけど二つの異能があった方がスペックは高くない?」

「さっきも言ったろ? その異能は元々は“言霊”であり、言葉に宿る神々や精霊がそのまま人に憑いたものなんだ。だから代々受け継がれるし、二つの異能が重なると神々の祟りが起きる。

 ほら、違うとこの御守りを同じ場所に付けると神様同士が喧嘩するってよく言うだろ? あれと同じと考えればいい」


 なるほど、一理ある。


「そうか、でもそれが母さんの死とどう繋がるの?」

「天、最近物騒な事件が多くなって来たと思わないか? 例えばこの間の通り魔事件」


 俺は最近見たニュースを思い出した。


「うん」

「その事件の殆どが異能力者による者なんだ。

 そして母さんはこの影の捜査官だった。あの傷も、異能力者との闘いの最中だったらしい」

「母さんもだったのか……」


 しかし、俺にはどうも母がここで捜査官として働いていたとは思えなかった。

 心当たりがなかい。

 少なくとも母さんが今まで大怪我をして帰ってくる事もなければ、父さんの様に家にいないことは無かった。


「母さんはな、強かったんだぞ?母さんの異能は”天地神明”、神々を使役する能力だからな」


 なるほど、だから俺の腕にもその文字が刻まれていたのか。


「でも、母さんにはその文字は今まで身体のどこにも無かったはずだよ」


 俺はまだ母さんが捜査官だったことの現実が受け入れられない。


「その文字は憑かれた人間にしか見えないんだ。だからお前も今までは見えなかった」


 俺は文字の話でハッと思い出した。


「じゃあ、空もって事?」


 父さんは首を縦に振った。

 俺は何故か納得してしまった。

 空が知り合いに探偵がいると言って色々な事件の事を俺に聞いて来たり、両親を早くに亡くしウチと仲良くなっていた事も。


「天、俺はお前の事を危険に巻き込みたく無かったんだ。それに、異能のことは国家機密なんだ。空くんだって親友といえど簡単に話せることじゃないんだ。」

「それはわかってる。けど、母さんのこと何も知らなかったんだなって思うとなんか情けなくなって来てさ。あんなに一緒に過ごしてたのに」


 俺は後悔した。

 母さんが家を出ようとしたあの時、何か気付いて声をかけてれば何か変わっていたのではないか。

 そんな事ばかりが頭の中を支配する。


「天、お前も影に入らないか?」


 何を言っているんだ。

 たとえ俺がこの組織に入ったところで母さんの様にうまくいくとは限らない。

 ましてや、死の危険さえある世界に自らの足で踏み入れようとするなどバカのすることだ。


「何言ってんの? この捜査で母さんは死んだんだよ? 今更俺が入ったところで死ぬだけだよ。俺はまだ死にたくない! これから大学受験だってあるんだよ。俺の人生だって考えてくれよ」


 俺は思わず声を荒げてしまった。


「お前の言ってる事は十分わかる。だけどな、異能犯罪は何も捜査官に向けられるものじゃないんだ。一般人だってそれは犯罪者からしたら関係ない。お前の彼女の舞ちゃんだって例外じゃない」


 父さんは俺を諭すように言う。


「だったら俺が守ってやるさ。俺の異能は強いんだろ?」


 いや、わかっている。

 俺も空ほど優秀ではないがバカではない。

 影にいた方が少しは安全だろうし、母さんの仇だって打てるに違いない。


 しかし、今の俺にあるのは恐れだ。

 死への恐怖。


 たかが18歳の青年に決断できるほどの覚悟はない。

 死んでしまったら何も残らない。

 母さんの死を通じて身に染みた事だった。


「ごめん、ちょっと考えさせてくれない?」


 俺にできるのは父さんへの説得を考える時間を貰うことだけだった。



---



 家に帰ると疲れがどっと押し寄せて来た。

 都庁から家までの帰りの車の沈黙も、より一層俺の疲れを増大させた。

 ふと机を見ると舞から貰った誕生日プレゼントがあった。


 やべっ、あれからもう3日くらい経ったかな。

 怒涛の日々ですっかり忘れていた。

 丁寧に梱包された袋。

 開けるとそこには手紙と小さな箱があった。


『私とお揃いの買ったの! 男子は着けづらいと思うからチェーン付きでね!』


 舞の丸い文字を見ると少し安心した。

 箱の中にはチェーンがついたリングがあった。


 ペアリングだろうか。

 色はダークシルバー。

 長髪癖毛の俺が着けるとホストみたいになってしまったが、似合う色だった。


 俺はスマートフォンのメッセージアプリを開く。

 驚くほどの通知が来ていた。


「うわ、返すのめんどくさいな」


 気を遣ってくれていたのか、舞の最後のメッセージは下の方にあった。


『ごめん舞。今誕生日プレゼント開けたんだ。ありがとう! 元気になったよ』


 そう送るとスマートフォンの電源がちょうど切れてしまった。

 スマートフォンを充電器に差し込みまたベッドに横になる。


「ふう。それにしてもこれ、どうすっか。“天地神明”か」


 そう呟いた瞬間、右腕が光り出した。


「え!? うわああ!」


 驚きのあまりベッドから転げ落ちた。


『ふう。やっとか、おい! 呼ぶのが遅いぞ』


「あ!?」


 そこにはこの前病室であった和服の男がいた。


『我は火の神火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)より産まれし天津神、建御雷神(タケミカヅチノカミ)である』


 和服に長い髪、腰には剣を差している。


「あんたが神か?」


『ああ、いかにも』


 思ったよりも神様っぽくない風貌に思わず聞き返してしまった。


『貴様が我々の新しい主か。天子の息子であるな?』


「ええ、そうです」


『一つ聞きたいことがある。貴様何故、影に入らない。我々の主は代々受け継いできたと言うのに。正直失望したぞ』


 天は神の言う言葉に少しカチンと来た。


「僕はね、死ぬのは嫌なんですよ。自分の人生だってまだ18年、人様の人生を救えるほど俺は生きちゃいないんですよ」


 そう言うと俺は布団に寝転んだ。

 いくら神だからってそんな風に言うやつの言葉なんぞ聞いてやるもんか。


『なるほど、ならば我々はそれに従うのみだ』


 え? 止めないの?

 俺は少し動揺した。


「いいのか? 世界を救ったりとか、悪と戦ったりしなくても」


『ああ、別に構わん。貴様の父は少し誤解のある説明をしていたが、あくまでも我々の使命は貴様の守護であって戦闘ではない。それに使役でもない。あくまで守護だ』


 そうだったのか。


『まあしかし、長年憑いて来て戦いの無い時代は初めてだ。退屈にならない様に頼む』


「う、うん。わかった」


『さて、では私は戻るぞ。さらばだ』


 そう言うと神は消えた。


 うーん。

 父さんや神にああいう風に言ったものの、母さんの仇を打てるのならば打ちたい。

 だからこそ説得されれば入るのも考えていた。


 まあ、もう遅いし寝るか。


 母さんの死から長かった3日間が終わり、ようやくゆっくり寝れる日が来た。


 俺は目を瞑った途端に深い眠りに落ちた。

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