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言霊戦記  作者: 神山大可
3/13

第三話

「天、朝だぞ。起きろ」


 俺は父さんの声で目を覚ました。

 どうやら一晩中眠っていたみたいだ。


「あれ?」


 病室を見回してみたが、昨晩の和服の男はいなくなっていた。


「天、昨日今日で申し訳ないが、母さんの通夜と葬式の準備をしなければならない。手伝ってくれ」


 父さんのその言葉で俺は現実に引き戻された。


「ああ、そうだね。大丈夫。切り替えれる」

「すまないな」


 父さんの毅然とした態度に胸が締め付けられる思いだった。

 

 父さんも辛いはずなのに。



---



 母さんが亡くなって、三日が経った。


 通夜には母さんの仕事関係の人々が多く来ていた。

 皆、警察なのだろうか。

 今のところ母の事件をニュースや新聞で見る事はない。

 

 すると参列者の中に一際大きい身体をした男がいた。


「あれ?」

「ああ、森田」

 

 担任の工藤だった。


「先生もいらっしゃっていたんですね」

「ああ、本当に残念だ。だがな、自分の道を貫き通した人だった」


 そう言うと工藤は涙を流した。


「そういえば、手島もさっき来ていたぞ」

「空が?」

「ああ、何か話しかけづらそうにしていたからな。あとで先生が連れて来よう」


 そう言って工藤は去って行った。



 「天、そろそろ休憩でもしてこい。一日中ずっと対応していたら疲れただろ」


 俺は父さんの言葉に甘えることにした。

 建物から出てすぐ右に空が立っていた。


「お……おう。調子はどうだ? っても、あんまり良くねえよな」

「まあな。来てくれてありがとう」

「気にすんな。ウチの両親が亡くなった時も天の家には世話になったからな。今は何にも助けてやらねえけど、何かあったら言ってくれ」


 そうだった。

 空は幼くして両親を亡くしてから俺と一緒に過ごしてきた。


「じゃあ、少し歩かねえ? ずっと挨拶してたら疲れちゃってさ」

 

 俺達は歩き出した。


「そう言えば、舞を見なかった?」

「あー、さっきまでいたんだけど帰ったよ。今はそっとしておいた方がいいかもってさ」

 

 彼女なりに気を使ったのだろう。

 俺はほっとした。

 正直、今の精神状態で会える状況ではなかった。


 しばらく歩くと河川敷に着いた。


「いやあ、夕日が綺麗だな」

「うん。そうだな。よっこいしょ。ほら、空も座れよ」

「ああ、そうだな」


 暫くの間沈黙が続く。


「なあ、天。お前に一つ言わなきゃいけない事があるんだ」

「なんだよ急に改まって」

「この前、“言霊”についての授業があったのって覚えてるよな?」

「そうだ、その“言霊”ってやつ! 父さんもなんかやってたんだけど、何か知ってんの?」


 夕日が雲に隠れ辺りは暗くなった。


「“言霊”ってのはな実在するんだよ」


 俺は数秒間沈黙した。


 ん? 

 何言い始めてんだ?


「まあ、ゆっくりでいいから理解していってくれ」


 そう言うと空は立ち上がり服を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと! なにやってるんだよ! 早く着ろって!」


 俺の制止を無視し、空は脱いだ。


「これが見えるか?」


 そう言うと空は背を向けた。


浸潤之譖(しんじゅんのそしり)


 そこには確かに刺青かのように文字が刻まれていた。


「お前! いつの間にこんな刺青なんてしてたんだよ!」

「違うんだ。これは刺青なんかじゃない。取り憑かれてるんだよ」


 はあ、勉強のし過ぎでついにトチ狂ったか。


「お前も、何か身体に熱い痛みみたいなのが走らなかったか?」


 そういえば昨晩、腕に激痛が、そのあと変な男が出てきて……


「そう言えば昨日の夜、右腕がさ」

「なに!? 見せてみろ」


 俺は袖をまくる。

 そこには確かに黒く刻まれた文字があった。


天地神明(てんちしんめい)


「うわっ! なんだこれ!」


 俺は腕を擦るが文字が消える様子はない。


「なんだよ空! これ! なに!」

「天! 大丈夫。落ち着け。それが“言霊”だよ」


 訳がわからない。


「その“言霊”っていうのはな、お前の先祖から代々受け継がれてきた異能力なんだ。だから、今日こんなことを言うのはあれかもしれないけど、お前の母ちゃんもそれのせいで亡くなったんだ」

「は!? これのせいでってどう言うことだよ!」


 俺には到底受け入れる事ができなかった。


 ブブブッ


 すると、制服のポケットが振動した。

 父さんからの着信だ。


『もしもし? 天? そろそろ帰ってきてくれるか?』

「うん。わかった」


 そう言って通話を切った。


「なあ、空。今はまだ混乱してるんだ。この話はまた今度でもいいか?」

「もちろん。俺も急に悪かったな」


 そう言い残して俺と空は別れた。



 通夜会場に戻る途中、俺は今までの出来事を整理していた。


 あの話が本当なら父さんも“言霊”ってやつを持っている事になるのか? 

 でも、そうでないとこの前の出来事は説明がつかない。

 あの、腕が光ったりしたやつ。


 そうこうしているうちに戻ってきてしまった。


 父さんに聞くか? 

 いや、言ってくれるのか?


「おう、天。どこまで行ってたんだ?」


 父さんはいつもと変わらなかった。


「ああ、ちょっと空にあってね。河川敷の方まで行ってたんだ」

「そうなんだ。まあ、とりあえず片付けして家に帰ろう。今日はもうくたびれたな」

「うん」


 まだ頭で整理できてないから言うべきじゃないだろうか。


「なあ天」

「うん!?」


 あまりにもちょうどいいタイミングだったので天は変な声を出してしまった。


「なんだその声は」


 父さんが笑う。


 父さんの笑顔を見るのは何年ぶりだろうか。


「まあ、お前ももう子供じゃないし聞きたいこともいろいろあるだろう?」


 父さんはまるで俺の心を見透かしているような話し方をした。


「うん」

「それに、空くんからも何か聞いたんだろ?」

「そうだね。いろいろ聞いた。父さんはさ、全部知っているの? てか、知らない訳ないよね」

「ああ、今日お前に全部話す。そして、お前に今後の事について決めてもらいたい」


 外の夕日は沈んでいた。



---



 沈黙の車内は息苦しかった。

 車に乗ってから既に十五分ほど俺達の会話はなかった。


 言うって言ってたよな!?


 次第に俺も我慢できなくなっていた。


「なあ天」


 先に沈黙を破ったのは父さんだった。


「空くんにはどこまで聞いたんだ?」

「なんか、異能力とか、母さんの死に関わっているとか。もうなにがなんだかわからないよ」


 俺は出来るだけ冷静になって質問する。


「そうか、じゃあもう右腕のは見たんだな?」


 俺は黙ってうなずく。


「じゃあまずは歴史からだな」


 そう言って父さんは話始めた。


「かつての日本では言葉にはそれぞれ神々や精霊が宿り、その言葉に特別な力を与えるとされて来たんだ。 そのことを”言霊”と呼んだんだ。昔はな、ある程度その存在が公になっていた。

 だが、時を経るにつれてだんだんと言葉は変化し、現代の日本では言霊信仰でさえ歴史の一つの出来事になってしまったんだ」


「うん。そこまでは授業で習った。」


「しかしそれでも尚、”言霊”は残り続けていたんだ。

 そしてある時、一人の男が“言霊”の能力を使いそれらの力を人々に与えたんだ。そして能力を与えられた人々は代々継承していくようになったんだ。

 だがな、力を持った人間はそれを使わずにはいられないんだ。ある時、“言霊”の能力を使い悪を働く奴らが出てきたんだ。最初は少人数だったが段々と増え最終的には大きな組織として悪事を働くようになった。 そいつらはその世界を破壊するほどの力を持って支配しようとした」


 すると父さんは車を停めた。


「天、ちょっと降りなさい」


 俺は促されるまま車を降りた。

 そこは東京都庁だった。

 父さんは話を続けながら歩き始めた。


「もちろん、人々はその強大な力を畏れ、段々と支配されるようになっていったんだ」


 既に都庁は閉まっていたが父さんは警備員に軽く挨拶をし、裏口から入った。

 俺もついてゆく。


「だけどな、悪は淘汰されるのが必然なんだ。そこで5人の異能力を持った人々が対抗勢力として立ち上がったんだ」


 俺達は都庁の地下へ降りてゆく。


 なんか既視感がある。


 エレベーターが止まり、扉が開くと長い通路の奥に扉があった。

 俺は置いていかれないようについていく。


 扉には虹彩認証があった。


『森田万事特級捜査官。スキャンしました』


 重厚な扉が開く。


「それが現在の“異能管理協会”。通称”シャドウ”だ」


 扉の先にはNASAの管制室のような場所が広がっていた。

 

 まあ、NASAの管制室など見たこともないが……

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