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言霊戦記  作者: 神山大可
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第一話

 ピピピピッピピピピッピピピピッ


 眠い目をこすりながら携帯電話の画面を見る。


「眩しっ」


 スヌーズを切った画面には七時十五分の文字。 

 よし、あと五分いける。


「天ー? 起きてるー?」

 一階から母の呼ぶ声が聞こえる。

「ああー」


 俺は気の抜けた返事をしてベッドから出て、学校の荷物を持ち下へ降りると母は玄関にいた。


「遅いよ! お母さんもう仕事行くからね!」

「ああ、いってらしゃい。帰りは?」

「わからない。今日はいろいろ立て込んでいるみたいだから。あ、あと今晩お父さん帰ってくるみたいだから夕飯は出前でも取って。ごめんね。誕生日なのに」

「大丈夫だよ」

「じゃあ、遅刻しないようにね」


 そう言い残すと母は家を出ていった。


 居間のテーブルにはご飯とみそ汁があった。

 武士の飯か! と突っ込みたくなる質素さだが、毎朝作ってもらっているだけありがたい。

 しかし俺は育ち盛りの高校生こんなんじゃ足りない、飯の二杯目はお茶漬けといこうじゃないか。

 俺は朝はしっかり食べる派だ。


 テレビを点けると朝の情報番組、あさジャン! がやっていた。


『昨夜未明。第五地区で男女5人が通りすがりの男に刃物で刺されるなどの事件が発生しました。犯人の身元は分かっておりません。警察は犯人の身元の特定を急ぐとの事です。

 また、被害者の右小指が切断されており、何らかの意図があると警察は発表しています』


「最近物騒な事件が多いな」

 ふと時計を見ると針は七時四十五分を指していた。

「やべっ。遅刻するっ」

 急いで朝食を食べ、登校の支度をした。



---



「森田ー。あれ、休みか?」

 廊下を走っていると教室から担任の点呼の声が聞こえた。


 ガラガラッ

 

「います! 来てます!」

「残念遅い。遅刻だ。おとなしく席に着け」


 担任の工藤一心は国語科の教員のくせしてなぜかガタイがいい。

 まあそんなことはどうでもいい、俺の成績に遅刻がついてしまった。

 高校三年間気を付けていたが、一瞬でも気を緩めるとこうして脆く崩れてしまう。


 俺は少々落ち込みながら席に着いた。


「なあ天、今朝の第五地区のニュース見たか?」


 席に着いた途端、後ろからコソコソと耳元で囁かれた。

 俺の幼馴染の手島空だ。

 空はいわゆる天才肌。

 顔もよければ頭もいい。

 俺はこいつに勝てるところは何1つない。


「ああ、そう言えばあさジャンでやってたよ。」

「なあ、お前の母ちゃん警察だったよな? なんか詳しく聞いてないの?」


 そう、空の言う通り俺の母は警察官であるが、今までどんな事件のことも一切母の口から聞いたことはなかった。

 まあ守秘義務とかありそうだし聞いても教えてくれるわけないと思うが。


「いつもだけどなんも聞いてないよ」

「えーまじかよ」


 空は何か大きな事件があるたびにこうして聞いてくる。

 頭がいいからか、近頃は知り合いの探偵事務所に世話になっているらしい。

 まるで彼の有名な高校生探偵のようだ。

 いつかこいつもちっちゃくなって青いジャケットに赤の変声機付き蝶ネクタイでも着るんじゃないだろうか。

 そしたら俺は難波の高校生探偵ってか? 

 

「おーい森田ぁ。遅れてきて喋っているんじゃないよ」

「すみません」


 地獄耳め。

 工藤! 空を注意せえや。

 おっと、いかんいかん、これじゃあ浪速になってしまう。


「ま、今話していたように第五地区で通り魔殺人があったみたいだからな。みんなも気負

を付けるように」

「はーーい」

 気の抜けた返事と共に一限目のチャイムが教室に響く。


「じゃあ1限目始めるぞ。」



---



「えー、このように、日本では昔から言霊思想があったんだ。手島、言霊思想って何か説明してみてくれ」

「はい。日本では昔から言葉には霊力が宿っていると考える思想のことで、ある言葉を口にするとその内容が実現するという信仰の事です」


 いつもながら空は博識だ。


「おお、そうだな。例えば今から先生が『以心伝心』って言うとするだろ?そしたらその言葉の意味通りの事が起きるってことなんだ。

 まあ、ここは受験にも出ない範囲だからな、聞き流すくらいでいいぞ」


 なるほど。

 そんな便利なことがあったら今すぐにでも手に入れたい能力だぜ。


 コツッ

 あ?

 そんなことを考えていたら隣の席から紙屑が飛んできた。

 隣を見ると女子生徒が口パクで何か言っている。


『開いて』

 紙屑を開くと丸っこい文字で小さく何かが書いてあった。


『今日誕生日でしょ?一緒に帰ろ! by舞 』


 舞は俺の彼女だ。

 俺が空に唯一勝っているところは彼女がいるころだ。


『OK』


 俺はまた怒られると嫌なので口パクで答えた。



---



 キーンコーンカーンコーン

 放課後、天は校門の前で舞を待っていた。

「天ー!待たせてごめんね。委員会が長引いちゃって」

「いや、大丈夫だよ」

 付き合い立てのカップルのような甘酸っぱい言葉を交わし、俺たちは帰路に就く。


 「そういえばさ、天は予備校とか行く?」


 俺たちは今年高3になり受験勉強に本腰を入れなければならなくなっていた。


「そうだな、俺は行かないかも」

「そうなんだ。あーあ。本格的に受験モードになるとこうして2人で帰れないかもね」


 すると、ちょうどいつもの分かれ道についた。


「それじゃあ、これ誕生日プレセント」

「お! ありがとう! 開けていい?」

「まだ開けないで! 帰ってから開けて!」

「うん、わかった」

「じゃあ!」


 そう言って舞と分かれた。

 


---



 下校中、俺はプレゼントの中身が気になって仕方がなかった。


 ゴンッ

 突然の衝撃に、天は倒れた。


「痛っ。ちゃんと前見ろよ……」

 振り返ってみると黒い服の男が走り去っていくのが見えた。


 クソッなんだよ

 まったく、ぶつかっといて謝りもしないのかよ。

 物騒な世の中になったもんだぜ。

 まあ今日は誕生日で気分もいいし、許してやろう。

 心はいつも寛大に、だ。


 それかれ数分歩いて家に着いた。

 ガチャ


「ただいまー。あれ?」

 家に帰ると既に靴が1足置いてあった。


「おう、おかえり」

「ああ、そっちこそ」


 父だった。

 俺の父親森田万事(ばんじ)はイギリスに単身赴任をしている。

 顔を合わせるのは正月以来の約5か月ぶりだ。


「今日、誕生日だよな。夜どっか食べに行くか?」

「んー。行きたいけど母さんが帰って来れるかわからないんだ」

「そうか、じゃあ何か出前でも取るか」

「うん。じゃあ夜ご飯まで勉強してくるよ」


 そう言って俺は2階へと上がった。

 父さんと特別仲が悪いわけではないが年に3回程度しか会わないので、何を話していいのかわからなくなる時がある。

 俺も年頃というやつだ。

 ふと外を見ると雨が降り始めていた。



---



「おーい、天。そろそろ出前届くぞー」

「はーい」

 一階から呼ばれ、俺はは世界史の問題集を閉じて部屋を出た。


 ピーンポーン


 下へ降りるとちょうどインターホン」が鳴った。


「ちょっと出てくれ。お金はげた箱の上にあるからー」


 玄関のドアを開けるとそこには雨の中ずぶ濡れになって配達に来た大男がいた。

 デカッ

 俺は思わず声を出しそうになった。


「お待たせいたしましたー。デラックスピザ2枚の御注文で、四千二百五十円です」


 俺は財布から五千円を出して男に手渡し、ピザを受け取る。


「五千円お預かりいたします。七百五十円のお返しですねー」


 お釣りを受け取る際、俺は見えてしまった。

 その男の右手小指は無かった。

 しかも顔をよく見てみると赤い何かがついていた。


 うわっ。まじかよ

 俺の視線を感じたのか、男はすぐに手を引いた。


「あ、すいませんね。これは生まれつきなんですよ。顔は雨で滑って、そこで転んじゃったんですよ。では、ありがとうございましたー」

 そう言って男は帰っていった。



 俺は慌ててふたを開ける。

 ぐちゃぐちゃになっていたらまずいからな。

 しかし、そんな不安とは裏腹にピザからはチーズのいい香りがした。


 リビングにはすでにテーブルの上に食器が用意されていた。

 

「じゃあ食べるか。天、お誕生日おめでとう。今年は受験だから頑張れよ」

「うい」

「いただきます」


 久しぶりに父子で食べる夕食は出前のピザでも何か違う味がした。

 少しして俺はさっきの宅配の事をふと思い出した。


「そういえば父さん、さっき宅配に来た人がさ、身長2メートルくらいあって、小指がなっかたんだよね。やばくね?」

「小指が? そりゃあ何か過去にやらかしてるんじゃねえのか」


 プルルルルプルルルル

 そんなことを話していると突然電話が鳴った。

 こんな時間に誰だよ。

 俺は立ち上がって受話器を取る。


「あーいい、父さんが出るから」

「あ、そう」


 ガチャ


「はいもしもし———」


 少し話してか、急に父さんの顔が暗くなった。


「わかった。今すぐ行く」


 なんだ?

 電話を切った父さんの顔はいつになく険しかった。


「なんかあったの?」

 俺は恐る恐る聞いた。


「天、今すぐ着替えてこい。母さんが捜査中に刺されたらしい」

 

 俺は額に嫌な汗が噴き出してくるのを感じた。



 俺と父さんはは車に乗り込む。


「父さん、母さんどこの病院に運び込まれたの!?」

「いや、病院じゃない。取り敢えず父さんが運転するから」


 俺はいつも通りじゃない父親の様子に言い知れぬ恐怖を感じた。



『まもなく第一地区に入ります』

 カーナビの無機質な音声が車内に響く。


 おかしい、刺されたとして、大きな病院があるのは第三地区と第十五地区なのに。

 第一地区は確か公的機関区のはずだ。


「天、いいか。今日からお前の人生が変わるかもしれない。だが、父さんがいる。何かあったら助けになるからな」

「何言ってんだよ。まだ母さんの安否もわからないんだから! しっかりしてくれよ!」

「ああ、すまない」


 心なしか父さんの声に覇気はなかった。



『目的地に着きました。案内を終了します』

 カーナビの無機質な音声が流れる。


 なんだここ?

 窓の外を眺めると大きな建物があった。


「ここって……」

「ああ、そうだ厚生労働省だ」

「なんで!? 今こんなところにいる場合じゃないだろ!」

「いいから、黙ってついてきなさい。ひと段落したら話すことがある」


 そう言って父さんは車を降りた。


 なんだよ……どうなってんだよ。

 

 俺も遅れずについていく。

 建物内は至って普通の公的機関の感じだ。

 しかし開館時間外なのか、人影はない。

 父さんについていくと1人の女性職員がいた。


「森田万事特捜、お待ちしておりました。ただ今、天子(てんこ)准特捜は地下の集中治療室にいます」


 もう、何がなんだかわからない。

 頭がパンクしそうだ。


 厚生労働省まで顔の広い父、その父を特捜とか呼ぶ謎の女性職員。

「よし、案内してくれ」

 俺はとりあえず二人の後をついて行った。

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