貴方のことが好きですっ!(2)
「いやー、おいしーねー!」
私たちはいま、近くの商店街にいる。この商店街はいろいろ売っていて、もちろん食べ物だけでなく、服なども売られている。
といっても今回の目的は食べ歩きなので、そっち方面の店にはあまり目を向けない。
昨今では、昔ながらの商店街のようなものは閉店されるものが多く、閑古鳥が鳴いているような商店街も少なくないと思うのだが、ここは珍しくにぎわっており、当分はつぶれる心配はなさそうだ。
私の横ではげんちゃんが饅頭や団子のようなお菓子を抱え、しーちゃんがたこ焼きをこれでもかとばかりに頬張っている。
ていうかほんとに好きなんだな、たこ焼き。
「うんうん、いいねー。いろいろ売ってるよー。おいしいものー!」
ちなみに私は彼女らの食べ物をちょくちょく盗み食っている。
「だねー!あんまりこういうの食べたことないから、とってもおいしいよー!提案してくれてありがとねー!」
げんちゃんはとてもうれしそうだ。いつも以上に元気にはしゃいでいる。
一方のしーちゃんは黙々とたこ焼きを食べ続けていた。ほんとに黙々と食べているので、少しちょっかいでもかけてやろうかと思い、彼女のたこ焼きに手を伸ばしてみる。
「……あげませんよ……?」
落ち着いた口調とは裏腹にその言葉には、取ったらわかってるな……?という感情が大いに含まれていたため、流石に控えることにした。
プロは機会をわきまえる。もうずいぶん昔の話だけど。
そんなこんなで三人でおしゃべりしながら、商店街を食べ歩く。
このように他人と気兼ねなく話しながら歩いたのはいつぶりだろうか。大人になってはもちろん、高校生時代でもそんなに人と遊ぶことは多くなかったため、とても新鮮だ。
私が高校生に転生してから、新鮮な体験が多い。
だが、なかなか悪くない気分である。
私がそんな風に少し自分の思考に沈みかけていた時だった。
「……ねえ、あれ、何ですか……?」
しーちゃんが話しかけてきた。
彼女の指差す先には、一人の少女が看板の傍に挙動不審な様子で立っていた。
いや、彼女は私たちの前の方にいて、恐らく彼女の監視対象からは隠れているつもりなのだろうが、私たち視点からはバレバレなので、ただの怪しい人だ。
「うーん。誰かを隠れて見てる感じだけど、何してるんだろうねー」
「……ただの不審者ですよね……あれ……。」
平時であれば当然無視か通報だが、よくよく見てみると、その少女の服装は私たちの高校と同じ制服で、話しかけるべきか迷う。
少し注意をするか、親しげに話しかけてみるか、知らぬ存ぜぬを貫き通すか。
しーちゃんと一緒に逡巡していると、その間にいつの間にかげんちゃんが話しかけにいっていた。
「あのー!なにしてるんですかー?」
「ひゃっ……!」
面白いくらい少女は驚いている。
「いやー、しーちゃんもあれぐらい驚かないとねー」
隣のしーちゃんに呟く。
ぎろり、と彼女は私をにらむ。
「………!……いや、すんません」
正直今までの人生で一番恐怖を感じたかもしれない。命の危険、というよりもただただ恐怖を与えてくる視線だった。
そんな馬鹿をしている間にもげんちゃんは話を続けている。
げんちゃん、もしかしてかなり聞き上手なのではないだろうか。諜報員の才能があるかもしれないな。
「何話してるんですかねー?」
「……さあ?聞いてきたらいいんじゃないですか……?」
反応が冷たい。
これが日ごろの行いだろうか。まだ出会って数日なのだが。
「ただいまー!」
そんなこんなでげんちゃんが帰ってきた。ただし、傍らにあの少女を連れて。
「……彼女は……?」
うん、それがとても気になる。
「えーと、彼女はねー!や………!」
後半が少し聞きづらかった。
だが、や、だけは聞こえたので、や、から始まる名前なのだろう。
よって彼女はやーちゃんだ。
「で、何をしていたんですかねー?」
「い、いや、私は!好きな人の後についていって話しかけるタイミングを見計らってたとかじゃないですから!絶対!決して!」
そうか。真性のストーカーか。というかなんでそんなにわかりやすい言い訳をするんだ。
「それで、その好きな人っていうのがね!あの……」
「だめ!!!言わないで!!!」
げんちゃんが口をふさがれ、もがもがとうめく。
もう少しで面白い情報を聞き出せた気がするのに。残念。
「い、いつもは別にこんなことをしてないのよ!?今日は、なんというか、えーっと……!そう!偶然見かけて!偶然行き先が同じで!」
ちょっと言ってることが支離滅裂気味だ。
「えー、それでやーちゃんは好きな人がいまして、彼のことを知りたくてつけていた、ということですねー?」
「やーちゃん!?だ、誰、それ!?というかそんなんじゃないから!偶然だから!!」
彼女の動揺っぷりは非常に面白い。
人間、ここまで動揺できるんだなぁとちょっと感心させられる。
「まあまあー、いったん落ち着こうよー!ほら、このお菓子あげるからさー!」
そう言いつつ、げんちゃんは持っていたお菓子を上げる。だが、あげたお菓子は十円で買える、あの名前からしてうまそうなあれだ。
もっと高いものも持っていたはずだが、そこまでお人好しじゃない、ということか。ふむ、最低限のコストで最大限の利益を得る。やはりげんちゃんは諜報員向きかもしれない。
そんな全く関係ないことを考えつつ、私たちはやーちゃんを連れて、近くの公園に行くこととなった。
「それで、なんであんな不審者気味なことをしてたんですかー、やーちゃん?」
「だから……。まあいいわ」
どうやら名前の方は諦めたようだ。
「好きな人のことを知りたかったんだよね!うんうん!わかるわかる!」
「え、げんちゃんわかるの?」
「え?まあ、少しはねー、えへへ!」
ということはもしかして、あのストーカー行為も実は一般常識……!?私……時代に取り残されてる……!?
「あ、でも流石にあんなあからさまな不審者まがいなことはしないよ?」
「あ、そうなんだ。よかった」
ちょっとほっとする。流石にあんなのが普通だったら世も末だな。
一方で、さらっと不審者だのなんだの言われ放題のやーちゃんは落ち込み気味だ。
「そうよね……。不審者よね、はたから見れば……」
まあ不審者だよな。
「……ま、まあそういうのもあって、いいんじゃないです、か……?」
しーちゃんのフォローは若干フォローになっていない。それにその言葉、かなり無理してるでしょ。
「で、まあそれはそれで、私たちは別にいいんですけどー」
「じゃ、じゃあ無視しといてくださいよ!」
「いや?こんな面白そうなこと、見逃すはずがないじゃありませんかー?」
「ひっ!」
ニヤーっと笑みを浮かべる。
「うわ、悪い笑顔!」
「……何を企んでいるんだか……」
なんか二人からあんまりよくない評価をいただいている気がするが、そんなことは気にしない。
「それで?その好きな人っていうのは誰なんです?」
「それは……、えーっと……」
「ここまで知ってしまったんです。もう私たちは仲間ですよー。さあ、言ってくださいな」
「あ、それはねー!」
ここでげんちゃんが割り込んでくる。
「ちょっと待ってください、げんちゃん。これは本人から聞くからこそおもしろ、意味があるんです。さあ、やーちゃん!今こそ!」
「今、面白いって言いかけたわよね!面白いって!」
「いや?何を言ってるんですか?そんなこと言ってませんよー?」
私はとぼける。
「そ・れ・よ・り!そのお名前はー?」
「…………………」
ややあって、ぼそりとその名前が告げられたが、全く覚えがない。
「ほら、クラスの!」
はてなマークが浮かぶ私の顔を見かねたのか、げんちゃんが助け舟を出す。
「いやー、クラスの人の全然名前覚えていなくて、全然わからないですねー」
特に男子生徒だと用事がなければ話しかけられることすらあまりない。
「で、なんでしたっけ?その……まー君?って人が好きなんですね?」
「……一文字もあっていない上に早速あだ名呼びしましたね……」
「いやいや、しーちゃん。あだ名は仲良くなるための必須条件ですよー?」
「……そう……?」
「いや、嘘ですけど」
「……」
しーちゃんとの間に沈黙が下りる。
「まあとりあえず!二人の仲を取り持つためにがんばろー!」
その中でげんちゃんが元気よく手を突き上げる。
だがげんちゃんよ。たぶんそれは余計なお世話というものだ。
まあ言わないけど。
「……そういえばしばらく黙ってるけどどうしたんですか……?」
しーちゃんがやーちゃんに話しかける。
「ーーーっ!!!」
みると、頬を真っ赤にして、うつむいている。
照れたのか。
「と、とりあえずもう帰ってよ!私のことはいいからー!!」
やーちゃんが突然叫ぶ。
そろそろ危ない雰囲気になってきた。人間、感情が爆発すると何をするかわからないものだ。
ここでけんかに発展してもあまりよろしくない。
「そうですねー。今日はもう帰りましょう。やーちゃんも落ち着く必要があるでしょうし」
「そっかー。そうだね!」
「……」
しーちゃんは黙ったままだ。
「じゃあねー!また明日―!」
げんちゃんが手を振って、私たちはやーちゃんとは別れた。
――翌日。
私たちは、というか主にげんちゃんが、やーちゃんが好きだという男子生徒、通称まー君を観察することになった。
彼は同じクラスであるという分、その場で話しているふりでもして横目で見ればいいだけなので、観察自体は割と楽だ。
「といっても……なんていうか……普通だねー」
「うーん、確かに!」
特に特筆するところもなく、ただ普通に高校生活を過ごしているように見える。
「あ、今隣の子のシャーペン拾ってあげたよ!」
「いや、でもどうやら違う人のだったみたいだねー」
隣の子に差し出したら、後ろの人の物だったようだ。後ろの人が自分で気づいて話しかけている。
まあ、見る限り普通だ。普通に優しくて、普通に授業を受けて、まあ、ある程度発言もしている。
クラスの中心になるような人物でもないが、わきに追いやられるほど腐ってもいない。
学業も別段特異なようなところもなく、現代文は少し得意のようだが、数学や理科目系は結構頭を抱えているような感じ。
まだテストをやったこともないので、成績はよくわからないが、たぶんあの様では中の下ぐらいじゃないだろうか。
半日観察したぐらいではこんな感じ。私としては意外に結構いろいろ分かった。
「いやー、特になんにもわからなかったねー!」
どうやら、げんちゃんは私とは逆の考えのようだ。
「え、そう?結構いろいろ分かったと思うけどー?」
昼休みの屋上。ここは私たちの中でこの時間を過ごす場所となっていた。
あまりきれいではなく、また、先生に見つかれば怒られることになるが、少なくとも私はあまり気にしない。
「そうだよー!好きな物とかタイプとか全然わからなかったじゃん!」
「あー、そっち系かー」
確かに恋愛事であれば、目標の特徴とか習慣とかよりも、好みのものという方向になるか。
「……貴女たち、何をしていたですか……?」
この場にはしーちゃんもいる。
もちろん表情はいつも通りどこか暗い。
「えっとねー!昨日の続き!」
「……あー、そう……」
しーちゃんは興味なさげだ。
「しーちゃんは参加しない?」
「……わたしは別に……」
こんな面白そうなこと、見逃せるはずもないのに。まあ趣味嗜好は人それぞれだ。流石にこれに巻き込もうとは考えていない。
これ以上怒らせてしまって話せなくなっても困るし。
私は昼食のサンドイッチを頬張る。
丹精込めて作った逸品だ。工場の機械が、たぶん。
「げんちゃん、これからどうするのー?」
まだ観察して半日だが、次の行動を尋ねる。
「そうだねー!まだまだ観察していこー!」
「……貴女たち、人のこと言えないレベルの不審者っぷりですよね……」
はしゃぐげんちゃんの傍らで、呆れたようにしーちゃんがため息をつく。
この光景は私にはとてもまぶしかった。