閑話
理由もなく人を殺せるのは、ヒトじゃない。殺人を殺せるまで堕ちてしまった奴は人ではなく、鬼という。
だから“殺人鬼”がいる。
私は人を殺し続けた。ほかにできることもあったはずなのに。
誰かを救えたかもしれないこの手を、私は血で汚し続けた。
理由はあった。確かにあった。
私は「殺し屋」として、「殺し」を業務とした。殺し屋であることを殺しの理由とした。
だから、私は“鬼”ではないと、自身に言い聞かせられた。
この人殺しも、誰かに言われたから。これを遂行することが私の仕事だから。
これは、私の存在理由だから。
じゃあ、殺しを請け負うようになった理由はなんだろう。正常な仕事場に、殺しの仕事なんてまず来ない。
だったら、なんで私は殺しを受けるようになったのだろう。
そして、なんで私は依頼の標的だけでなくて、依頼主すらも殺すのだろう。
いつからだっただろうか、こうなってしまったのは。
普通に生きて普通に死ぬはずだった私は、いつしか殺しに身を堕としていた。それは、きっと普通ではなくて。でもそれを異常とは思えなくて。
そんな私は、いつの間にか“鬼”となっていたのだろう。