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【企画参加】企画作品集

300文字のストーリー【結婚】完全版

作者: 菜須よつ葉

【告知は二十歳の誕生日】の彼女をモチーフに書きました。

『よつ葉、お願いがあるんだけど。今度のお休みはいつ?』

「へっ? そうだなぁ。時間かかる?」

『そんなにはかからないつもり。ちょっと頼みたいことがあるの』

「うん、いいよ。明後日なら空いてるよ」

『じゃぁ、またそのときにね』

「うん」



 電話が切れて、手帳にスケジュールを記入する。


 何なんだろう。こんなよつ葉になにかお手伝い出来ることなんかあるのだろうか?



 電話の相手の彼女は、よつ葉とは高校時代からの親友。



 よつ葉にとって、高校時代というのは、看護師になるという夢を定めてからとにかく、青春時代なんてものをすべて勉強に捧げた時代でもある。難しいことは百も承知の上。でも、親に反対されている中で決めた進路。やりきるしかなかった。



 そんなよつ葉のことをたったひとりだけ理解してくれたのが、彼女だった。



 彼女も、夢を幼稚園の先生になりたいと進路を決めていた。



 二人でよく土曜日も日曜日も、そして学校の長期休暇のときも、お互いの塾の合間を縫っては図書館で待ち合わせて勉強をした。



 もしかしたら、同学年の子たちからは、敬遠されていたかもしれない。でも二人だったから寂しくなかった。



 「自分たちに青春なんてないよねー、彼氏の一人もいないもんねー」なんて笑いながらも、よつ葉も自分と同じように打ち込んでいる彼女を尊敬もしていたし、よつ葉の心の支えでもあった。






 大学受験の末、よつ葉が看護学部、彼女が教育学部と学部は違えど同じ大学に通えるようになって、手を取り合って一緒に喜んだ。



 でも、神様はなんで彼女にあんな試練を与えたのだろう。



『よつ葉、大事な話があるんだけど良い?』



 そう言われて、伝えられたこと……。



 彼女にとって、女性にしかない、もっとも大事なもの。いつか赤ちゃんを授かるためにはどうしても必要なところに病気が見つかったと。



 普通なら、そんな話を他人にすること自体タブーなのかもしれない。

 でも、『よつ葉は看護学生だから噛み砕かずズバリ言うね』と、その時の状況をよつ葉に教えてくれた。


 よつ葉にとって、人生で初めて、目の前にした本物の患者さまだった。



 そして、手術を受けたあとにお見舞いに行った。

 そのときにも、よつ葉のことを主治医の先生や看護師さんに紹介してくれて、治療の様子を見せてくれた。




 幸いにもその後の再発はなく、治療やリハビリをしながら復学し、同期として卒業もできたし、今年一緒に就職。よつ葉は看護師として、彼女は幼稚園の先生として道を歩き始めた。




 そんなお互いの心の内を知り合っているよつ葉たちだからこそ、今回の電話はちょっと動揺した。



 もしかしたら、再発の話かもしれない。でも、あの時とは違う。よつ葉はもう看護師なのだから、ちゃんとアドバイスや病気に向き合うことを一緒に考えていかなくちゃならない。



 もしそうだったら、どう声をかけたらいいんだろう……。



 そんなことを考えて、ほとんど眠れないまま当日を迎えた。



 予定の時間、呼び出されたカフェはいつもよつ葉たちが雑談をしているお店。


 そこに彼女が「よつ葉ー、元気!?」と手を振り笑いながら現れた。


「よつ葉にお願いしたいと決めてたの」

 そう言ってきた彼女の顔を見ると、どうやらあの時とは様子が違う。


「へっ、何を?」

 ホッとしたのと同時に、また別のお願いとは一体何なのだろうと。


「うんとね…」

 彼女は顔を赤らめて、出来立ての封筒を私に手渡してくれた。そこには招待状の文字が書かれてある。


「中……、開けてもいい?」

「もちろん!」



 よつ葉も本物は初めて見るよ。だって、きっと大学の同級生の中で第1号じゃない?

 会場と時間、そして彼女の名前と、よつ葉が知らない男性の名前が書いてある。



「反対されなかった……?」


 余計なこととは思いつつ、彼女はもう子供を授かることはできない。それを本当に理解して彼女の気持ちを全て受け入れてくれたのなら、よつ葉に反対するつもりは少しもない。



「うん。全部話したよ。子供も産めないし、そういう病気にかかったことも。でも、あたしのことを欲しいって言ってくれた」

「そっか……。よかった……」



 自然と涙が溢れてしまう。うん、よかったよ。よつ葉はまだだし、正直いろいろな事情から諦めかけている自分もいる。



「よつ葉、泣かないでよ……。よつ葉には友人代表をお願いしたいの。私の事、一番理解して応援してくれたのよつ葉だからね。よつ葉のおかげだよ。あのとき支えてもらったんだからさ」



「ううん。よつ葉こそ、見られたくなかったでしょ……。それなのに……」



 よつ葉の勉強の為にと、病巣摘出手術前日の怖さの気持ちも、お薬の治療の辛さも、女性としての機能を失ってしまったことについて……。それでも子どもたちの笑顔が見たくて幼稚園の先生になりたいという気持ちも、包み隠さず話してくれた。その夢も辛さも一緒に共有してきた。だから患者さんの気持ちに寄り添うことをあの当時から経験してきた。



 今、よつ葉はまだ新人の看護師。でも、先輩方からは、とても新人とは思えないと言っていただいている。技術はまだまだ伸びる。それより患者さんに寄り添う姿勢はベテランでもかなわないと。


 そう、彼女のおかげなんだからね。だから、よつ葉なりにあの時のお礼をしたい。


「よつ葉ね、こういうこと初めてだけどいいよ。よかったね。結婚おめでとう」

「よつ葉、ありがと」


 一番の友人の笑顔に応えたい。

 昨日の夜、不安で仕方なかったよつ葉。やっぱり彼女はよつ葉の心を温めてくれる親友だった。


彼女は病気を乗り越え幼稚園の先生をしていますが、結婚はしませんよ。


よつ葉と同じく彼氏いませんから(笑)


あくまでお話ですから……。


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― 新着の感想 ―
[一言]  おお~~、ええ話やぁ…って、フィクション!?
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