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Dear My Doctor  作者: 美月沙紀
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再会

僕は、地域医療研究会のランチの後日、医学部硬式テニス部、医学部卓球部、など、いくつかのサークルの見学に行った。ちなみに、大学は総合大学なのに、医学部だけ独自のサークルがある(だいたい、看護学部の学生も入れる)。医学部生は他学部の学生より勉強で忙しいので、他学部と一緒のサークルだと練習が多くて両立が大変、というのが理由らしい。


高校、予備校時代は運動不足だったから、大学では運動系のサークルにしようかとも思ったが、毎日とは言わなくても週に4、5日は参加しなければならず、おまけに夏には大会もあるので、お財布事情が厳しく、バイトに励まなければならない僕には厳しそうだった。無理してサークルに入ることもないと思っていたが、クラスメートの話によると、医学部では試験情報や勉強の仕方を先輩から入手しないと、やみくもに勉強するだけでは試験にパスできないらしく、それらの情報を得るために、医学部サークルに入る学生も多いとのことだった。


どうしようかなぁ…。ゴールデンウィークを前にして、いい加減に決めなきゃと思いつつ、なかなか踏み出せない自分に嫌気がさす。


その頃、僕は自分自身だけでなく、大学の授業や医学部の学生にも嫌気がさしていた。医学部1年生の授業は数学、物理、英語、第2外国語(僕はドイツ語)、など、ほとんど教養科目で、退屈なのに加えて、出席も試験も厳しいものが多い。一コマは90分と長く、僕は60分過ぎた辺りから、早く終わらないかと時計ばかり気にしていた。4月中旬ぐらいまでは真面目に出席していたが、下旬以降は時々サボるようになってしまった。浪人時代のサボり癖が復活してしまったようだ。


加えて、総合大学だから他学部の学生と交流できて、多少視野も広がるのではと期待していたが、医学部の学生限定の授業(医学部数学、医学部英語、など)が殆どで、なかなか知り合う機会がない。医学部の友達は数人できたが、当たり障りのない話しかしないし、医者の息子とか大学教授の息子とか、比較的経済的に恵まれた学生が多く、ごく普通のサラリーマン家庭で育った僕とは経済観念が違うので、一緒に遊ぶのも金がかかって大変だ。おまけに、経済観念だけに留まらず、ものの考え方もズレていて、あまり居心地が良くなかった。



そんなある日、二時限目の英語の授業をサボって大学生協の食堂で一人昼食をとっていたら、


「三杉くん?」


と声をかけられた。


あれ?えっと、美月さん…って言ったっけか?何でこんな時間にこんなとこにいるんだ?


「こんにちは。ここ座っていい?」


僕の返事を待つことなく、彼女はどかっと座った。大学生協で買ったのか、本を数冊抱えている。


「何でこの時間にこんなとこいるの?サボり?」


アンタこそ、何でだよ!


「わかるな〜、般教(一般教養のこと)、基本的につまんないもんね〜」

「…美月さんは、どうしてここ…」

「同じ同じ、私もサボり。私、ダメなんだよね〜、つまんない授業90分聞いてるなんて、耐えられないんだよね〜。みんな、よく我慢するなって、いつも思う。あ、ところで、サークル決めた?」

「いえ、まだ…」

「そうなんだ!今日、放課後空いてる?うちのサークルの例会あるから、来てみない?」

「えっ、でも、入るって決めてないし…」

「いいよ、別に。来て来て、多分面白いから!今日は、脳死・臓器移植の話するの。興味あったら来て!」


興味はあるけど…


「それと、私ね、さっき、生協で本買ってきたんだ。薬害エイズの本。私、今度サークルで発表しなきゃならないから。1冊貸すから、読んでみて!」


薬害エイズ??


「私、行くね!放課後、待ってるから♪」


彼女はそう言い残すと、足早に去っていった。


……。


かなり押し付けがましかったが、不思議と悪い感情はしなかった。


行ってもいいかな…。


僕は前向きに考え始めた。








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