文化祭 2
10月第3週の月曜日、私が昼休みに部室でお昼ごはん食べていると、三杉君が「失礼します」と入ってきた。三杉君は最近週3日ぐらいは昼休みに部室に顔を出す。
彼は私の向かいの席に腰掛けると、おもむろにコンビニおにぎりを食べ始めた。彼は食べるのがとにかく早い。かつ大食いで、運動しているようには見えないのに太らないのだ。羨ましい限りだ。私は食べた分だけ確実に太る。
三杉君はガツガツとおにぎりを平らげた後、ふうっと息を吐いて、
「あの、文化祭のことなんですけど」
と切り出した。
そういえば、佐藤さんに、三杉君の手伝いしろって言われてたっけ?自分が主体じゃないから、そんなに深刻には考えていなかったが、文化祭はもう3週間後だ。マズい。
「あ、そうだね、いい加減に準備しないとね。テーマ、考えた?」
「あの、いろいろ考えたんですけど、時間もないし、今まで自分があまり考えたこともないテーマだと間に合わないかな、と思って」
「まぁ、そうかもね」
「それで…、僕、今のところ一番興味あるの、精神医療なんです」
「へえ…。あ、そういえば、精神科医になりたいって言ってたっけ?」
「はい」
そうだ、友達が自殺したって言ってたな…
「いいんじゃない?まぁ、精神医療って言っても漠然としてるから、もうちょっと具体的なテーマにした方がいいと思うけど」
「それで考えたんですけど、精神医療を地域との関係で考えてみればどうかなって」
「て言うと?」
「あの、ほら、例えば、長期入院してた患者さんが退院した後、地域で生活するときの問題とか、地域に病院や施設を作るときに反対運動があったりしますよね、そういう問題とか、取り上げたらどうかな?とか。…すみません、頭の中でまだまとまってないんですが…」
なるほど。一応、地域医療研究会だから、それらしくしたいんだな。
「…いいんじゃない?やってみようか?」
「いいと思いますか?」
「うん。私、精神科のことはよく分からないけど、面白そうだとは思う」
「じゃ、どうやって作業進めていきましょうか?」
「そおだなぁ、とりあえず、さっき三杉君が言ったみたいなことと関係あること、列挙して持ってくるかな?関係する本とか、新聞記事とか。基本的に毎日昼休みにここで話し合おうよ」
「そうですね、よろしくお願いします」
彼はそう言うと、安堵したような表情を見せた。その表情が、なんとも言えない暖かな雰囲気を醸し出した。この人は、周りに柔らかな空気をもたらす才能があるのかもしれない。得だな、とちょっと思ってみた。