夏休みのMac 続き
「達也…」
なんでここにいるの?夏休み中は富山の実家にずっといるって言ってなかったっけか?
「あの…?」三杉くんが達也と私の顔を交互に見て、訳の分からないといった顔をしている。
あ、そうか、会ったことないもんね…
「三杉くん、こちら教育学部2年の鈴木達也くん。私の彼氏なの。達也、こちらは同じサークルの1年生の三杉くん」
「ああ、沙紀から話は聞いてます。鈴木です、よろしく」
「…あ、どうも、三杉といいます。えっと、あ、僕、用事あるので行きます。じゃ、美月さん、また」
三杉くんは、そそくさと立ち去ってしまった。達也は何事もなかったように私の向かいの席に座った。
私は、久しぶりに達也の顔を見て、なんかドキドキした。自分の彼氏をこう言うのもなんだが、達也は人目をひくぐらいカッコいい、というか綺麗な顔立ちをしている。私は決して美形ではないので、一緒に歩いてると、なんか不釣り合いに見られているのではないかと、たまに落ち着かなくなる。
「…達也、どうしてここにいるの?」
達也は富山にいると言っていたし、下宿は教育学部のある隣の市だ。
「今日坂井と会う予定なんだ。あとオーケストラ部の用事もあるし。時間があったら沙紀に連絡して会おうとも思ってたんだけど」
坂井、というのは医学部の同級生で、一年の頃から、どういうわけか気が合って、仲良くなった。達也は坂井くんの寮のルームメイトで、私は坂井くんの紹介で達也と知り合ったのだった。
「何時頃に用事終わりそう?私、アパートで待ってるよ」
「沙紀、これからはお互いの部屋に泊まったりするのやめよう」
へ?
「…え、どうして?」
「やっぱりそういうの良くないと思って」
「…それは、道徳上ってこと?」
「まあ、そういうことになるかな。僕たちは結婚はおろか、婚約してるわけでもないんだし」
「…お父さんにそう言われた?」
「え?」
「お父さんにそう言われたから、そう言ってるんでしょ?達也、いつもそうじゃない!」
達也の父親は中学校の校長先生で、私から見たら非常に管理的で頭の固い人なのだが、達也は父親のいうことは絶対正しいと信じている。ほとんど妄信的に。
私の勢いに押されて、達也はしばらく黙っていたが、ふぅっとため息をついた。
「じゃあ沙紀は、お互いに泊まったり泊めたりする関係が正しいと言うの?別に会いたくないって言ってるわけじゃないよ。沙紀のことはもちろん好きだし、将来的に結婚したいという気持ちは変わってないし…」
違うんだってば!あなたはいつも父親の言いなりだから嫌なんだってば!
と口に出したかったが、達也の切羽詰まったような表情を見ると、なんだかかわいそうに思えて、グッと言葉を呑み込んだ。
「まぁ、いいけど。私用事あるから行くね」
「そう?じゃあ、また連絡するね、沙紀」
私は足早にMacを去った。