chapter5 肉体的にも精神的にも辛く感じる日々
祖父母が沙耶の家にきてからあっという間に五年が経った。
「親父達がきてから五年か……」
「いろいろと大変だったけど、あっという間だったわよね……」
新しそうな仏壇には祖父の優しい表情を浮かべている遺影があり、それを見ながら彰と里奈がしみじみとその頃を振り返る。
その五年という年月には様々なことが起こった。
祖父は病院を退院して半年後に白血病を患い、懸命の治療は叶わずに死去。
一方の祖母は彼に先立たれた喪失感が起こり、認知症を発症してしまうという最悪なルートを辿ることとなってしまった。
「お義父のことが落ち着いたかと思ったら、お義母が認知症になるとは思ってなかったわ……」
「そういえば、沙耶も二度目の受験だからな……」
「これ以上、沙耶ちゃんの受験に影響させたくないわね」
「そうだな……沙耶には介護福祉士になるという夢を実現してほしいんだがな」
沙耶は高校三年生になり、本格的な進路を決めなければならない時期に突入。
彼女は地元にある普通科の高校に進学したため、卒業後は専門学校や短大などに進学し、本格的な勉強をしなければならない。
「お父さん、一緒に買い物行きましょう」
「ちょ、おばあちゃん、どこ行くの!? ここに座っててよ」
祖母は椅子から立ち上がり、買い物袋に財布を入れ、祖父の姿がないにも関わらず、外に行こうとする。
それに気がついた沙耶は彼女を椅子に座らせようとした。
祖母は認知症の症状の一つである「幻覚」がある模様。
「お袋、親父はいないぞ?」
「台所にいるんだよ! お父さーん!」
「だからいないって!」
「あそこにいるよ!」
「お義母、そこには誰もいませんから!」
最悪な場合は家族に暴力を奮うことが最近よく見られるようになった。
「この状況が続くと俺達が倒れそうだな」
「ええ、確実に」
「沙耶も勉強に集中できなくなってるからな……」
それらが原因で沙耶は受験勉強に集中できず、彰と里奈は精神的にも肉体的にも限界が近づいてきていた。
「沙耶ちゃん」
「ん?」
「おばあちゃんと離れるのは嫌かな?」
「…………」
「沙耶がお袋と一緒にいたいことは分かる。だが……」
「パパもママも限界なの。認知症はどんどん進むものらしいから、もう面倒を見切れないかもしれない」
「お袋を施設に入所させたいと考えてるんだが、お前はどうしたいと思う?」
「……うーん……」
沙耶は彰からこう問われたため、頭を悩ませる。
彼女の頭の中では「受験に失敗してでも祖母と一緒に過ごしていく」か「素直に施設に入所してもらい、受験に集中する」の二つの選択肢が渦巻いているようだ。
「これからが勝負の時期だから、それに集中したい。おばあちゃんがいなくなって寂しいけど、介護福祉士になるためだもん」
「「施設に入所」でいいんだな」
「うん。おそらくいつでも会えると思うから」
数分考えた末、沙耶は前者を選んだ。
「沙耶、ありがとう」
「パパ……」
施設に入所するには様々な準備を要する。
彼らはすぐに祖母を施設に入所できるかできないかは定かではない――――。
2017/07/12 本投稿