chapter3 親父、一緒に住まないか?
病院の居室から入ってくる薄明かりで沙耶は目が覚めた。
道理でいつもより寝心地が悪いなと思った彼女はベッドから起き上がる。
「あっ、パパ……」
「沙耶か、おはよう。少しは眠れたか?」
「そういうパパは?」
「いろんなことが入り混じって眠れなかった」
「実は私も……」
あまり眠れず不機嫌な沙耶に対して、ソファーベッドに座っていた彰は精神的に疲れ切ったような表情を浮かべていた。
彼女の祖父母と里奈は二人で話していることを聞いていないかのように寝息を立てている。
「お袋と親父、里奈は寝てるな……」
「そうだね。おばあちゃんとママは家事もあるから、すっごく疲れてるんだよ」
「そうだよな……そこに俺の親の介護が入ってしまうとな……」
「うん。これからどうするの?」
三人が眠っている中、彼らは複雑な表情を浮かべていた。
「親の介護」は肉体的にも精神的にも大変だということは二人は噂で知っているが、彼らは介護の知識は全くないに等しい。
ならば、これからどうしたらいいのだろうかと頭を悩ませる。
「あなた、沙耶ちゃん。どうしたの、複雑な表情をしちゃって……」
「ママ!」
「里奈、ようやく起きたのか」
「仕方ないじゃない。このベッドの寝心地がよかったんだから!」
「そんな変な情報はいらん! 今、沙耶と少し話してたんだが……」
「ええ」
「これからどうするのかについてなんだけどね……」
「これからね……わたしも介護の知識はないしね……」
生憎、里奈も介護の知識がない。
しかし、祖父が介護を要する可能性がある中、彼らはさらに悩ませる。
「おじいちゃんとおばあちゃんを家で面倒を見るのは?」
「それだと、里奈が負担になるだろ?」
「ママがいない時はおばあちゃんが。私も家にいる時くらいは見守りとかできるし……」
「あなた、わたしも沙耶ちゃんと同じようにお義父とお義母を家で面倒を見た方がいいと思うの」
彼女は沙耶が話していることを遮り、自分の意見を述べ始めた。
それを聞いた彰は「それはなぜ?」と問いかける。
「このままずっと二人で過ごしていくのは大変よ? それにいつ認知症になるか分からないし。それだったら、これから大変になると思うけど、家で面倒を見た方がいいと思うのよ」
「ママ、分かってる!」
「わたしだって、お義母の大変さは分かっているわよ? 肝心のあなたはどう思っているの?」
「それは……」
里奈はあのあとも自分の意見の続きを話していたが、肝心な彼の意見を聞いていなかったため、彼女は彰の顔を覗き込むようにして問いかけた。
「俺は最悪の状態になったら施設に入れようと思ってる」
「パパ、施設に入れるのは要介護3以上だよ?」
「え? そうなの?」
「まだ「要介護認定」とか受けてないのに、パパは先走りすぎだよ」
彼の意見は「施設に入所させること」ではあるが、沙耶が事前にインターネットで調べていた情報が役に立ち、「そうなのか……仕方ないな……」と食い下がる。
その時、「彰、里奈さん。ごめんな……」と聞き慣れた祖父の声が聞こえてきた。
「親父、仕方ないよ。徐々に衰えていくんだからさ」
「そうですよ」
「わしがこの身体でどうしようもなくてすまないな」
「「…………」」
彼の話を耳にして沙耶達は黙り込んでしまう。
「そうだ、親父」
「なんだい?」
「さっき三人で話し合ったんだけどさ」
「親父、一緒に住まないか? もちろんお袋と一緒にさ?」
「い、いいのか? これから沙耶ちゃんは受験が控えてくるのに」
「私のことはいいから! パパとママはおじいちゃんが今回みたいなことになってほしくないからそう言ったの。今は悩むことだと思うけど、もちろん二人で話し合ってほしいの」
「ん。分かった」
彼女らが病院をあとにしてから数日後、祖母から「心配してくれてありがとう。これからご迷惑をかけるかと思うけど、一緒に住みましょう」と連絡が入るのであった。
2017/07/03 本投稿