少女A氏の友情劇
死んでしまった友人の話をしましょう。思い出すだけでも、あの日の心境を思い出してしまいます。彼女の名前は「高村あゆ子」いつもおとなしくクラスでは目立たない子でした。あゆ子は、いじめの標的になりやすく、いつも教室のすみで寂しそうにしていました。そんなあゆ子と仲良くなったきっかけは、一生忘れたくない雨の日、たまたま掃除の当番が一緒になった時でした。あゆ子の机に片付け忘れた一冊の本が置いてありました。私はその本を見て驚きました。コケの写真集が置いてあったのです。私は思わず大声をだし、興奮気味であゆ子に駆け寄りました。最初は戸惑っていたあゆ子でしたが、私が話をしていくと、つぼみがゆっくりと咲いたような笑顔を見せてくれました。私は、その時あゆ子の笑顔をはじめて見ました。それから好きなコケのタイプが合い、意気投合し私達は一緒にコケの専門店に行くほどの仲になりました。学校でもあゆ子が積極的に話しかけてくれるようになり、あの教室のすみで寂しそうな顔をしていたあゆ子はもうどこにもいませんでした。
ある日、私とあゆ子の間にひびが入ってしまうような事件がありました。私達は、いつも通り、コケについて語り合ってる時のことです。その日は、いつものあゆ子とは違い辛そうな緊張しているような表情をしていました。私は心配になり、あゆ子に聞いてみました。あゆ子は少しの沈黙のあとにこう言いました。
「Aちゃん、もう……話すの、やめない?」
私は、雷が落ちたような衝撃を受けました。何がなんだか分からなくなっていた時、あゆ子は涙目になりながらカバンを持ち、去っていきました。引き止められずに空をきった手をじっと見つめることしかできませんでした。
ショックから数分、私は冷静にあゆ子がなぜそんなことを言ったのか考えました。でも、そんなことをしなくても原因がすぐに分かりました。それは、あゆ子をいじめていたクラスメートです。私は、昔から才色兼備と言われクラスの中心にいることが多くありました。最近は、あゆ子と一緒にいることが多く、仲の良かったグループの子たちが、あゆ子に命令をしたんだと思いました。彼女はきっと私と自分はやっぱり釣り合わないんだと思ったんでしょう。私は、あゆ子と話してみようと思いあゆ子の家へ急いで向かいました。
あゆ子の家に押しかけ、あゆ子と話す時間ができました。あゆ子は、先ほどの表情よりもずっと、暗く寂しそうな顔をしていました。私は、最初になぜあんなことを言ったのか聞いてみました。あゆ子は下を向き、震えました。そんなあゆ子を見ていると勝手に体が動き、あゆ子を優しく抱きしめていました。私は、今までにないくらい優しい声で言うように促しました。あゆ子はすすり泣きをしながらも、ぽつりぽつりと話してくれました。やはり、いじめっ子に命令されたのでした。私は涙を拭きながら、子供をあやすより簡単な言葉を言いました。
「私が、あゆ子のこと守ってあげるよ」
そう言うとまた、涙をあふれさせました。私は、その瞬間、落ちたなと確信しました。
それからあゆ子は、忠犬のように私に尽くしてくれました。さすがに、飽きてきたと思いました。何も新鮮さを感じない、もうこの子は、つまらない。もう消えてもらおう。私は、放課後にあゆ子さんを呼び出し、冷たい視線を彼女に向け、こう言い放った。
「もう千秋楽は終わり、どう? 楽しかったでしょ? いい夢だったでしょう。もういらないの。すがってきても、二度と劇は見れないわよ」
あゆ子さんは、みるみるうちに顔が真っ青になっていきました。私は、フッと鼻で笑い、その場を立ち去りました。
その日から、あゆ子さんは復縁を迫るうっとおしい恋人のように話しかけてきました。私が、そのたびに無視をすると鉄砲をくらった人間のような絶望的な顔をしていました。その顔を見るたび、私の心は踊りうるおいました。そしてしばらくすると、あゆ子さんのお母さんからあゆ子さんが自殺したと知らされました。遺書も書かずに死にました。私は、高笑いをしそうになるのをおさえ、お通夜に行くような顔をし、暗く二つ返事をしました。……外道? 何を、彼女が勝手に死んだんですよ。彼女は、彼女自身が望んで死んだので、彼女は死ねて、私は自分の手を汚さず殺しを行えて一石二鳥。人間なんて所詮、ですよ。絶望的な顔、それが見れればいいので。(静かな部屋にはAの悦に入ったような笑い声が響くだけだった……)
書きたかったもの