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バースデイ・カウントダウン4

 魔術師の塔にて仕事の休憩時間となったレイラは、大きなため息を吐き出した。

 もう残り四日しかない。カウントダウンが刻一刻と過ぎていくというのに、まだユーリのプレゼントの候補は見付けられていない。

 そんな元気のないレイラを見付けた先輩魔術師のベラは、ぽんと、肩を叩いてレイラを振り向かせた。


「なに、どうしたのよ? 最近何か悩んでる?」

「あ……ベラ先輩……。ええと……その……」


 レイラはベラに縋るように困り果てた顔を見せた。

 そうだ、頼りになる先輩であり、悩みを打ち明けることができる同性の友人であるベラに最初から相談しておけばよかった。レイラはこれまで根暗で引きこもりだった自分の、『友人を頼る』という選択が想像できなかったことに後悔した。

 レイラは、現在の状況をベラに打ち明け、恋人への誕生日プレゼントに悩んでいることを説明した。


「あー……そういうことか。もっと余裕があるなら、定番だけど、手編みのマフラーとかをお勧めできたけど……あと何日だって?」

「四日、です」

「そりゃ無理だ」

「はいぃ……」


 涙声になるレイラに対して、ベラは「うーん」と冷静になって考え込む。

 もうタイムリミットはないので、出来合いの物でプレゼントを用意するのがベストだろう。そうなると、アクセサリーが適当なのではないかとベラは思いついた。


「何か装飾品を送ったら?」

「指輪とかネックレスですか?」

「指輪は相手の指のサイズが分からないと難しいから、……そうね、ネックレス。どう?」

「でも、どんなものが好みなのか分からないし……」


 レイラが先日ローザから受けた忠告を脳裏に浮かばせる。男性への『高価な物』のプレゼントは『プライド』を傷つけることもある、だとかだ。

 アクセサリーはそれなりに高価なものが多いし、値段をどのくらいに設定するのがいいかなどを考え出すと、候補がますます分からなくなってしまいそうだったので、プレゼントにするのを避けて考えていた。


「バカね、違うわよ。アンタの好みでいいの」

「えっ、私の好みで……?」

「うん、正確に言うと、アンタが彼氏に付けていてもらいたいお揃いのアクセサリーね」

「お揃い……!」


 ベラの提案に、レイラは電流が走り抜けた気分だった。お揃い。愛しい人と、同じものを身に着ける、『特別感』!

 なんとも誕生日プレゼントに最適ではないか。


「先輩! 流石ですっ!」

「でしょう? 二人で身に着けて、離れていても一緒に居られると感じられる。そういう物を選べばいいのよ」

「そ、そうします! 早速後でお店に行ってみます」

「フフ、じゃあアタシも楽しみにしておこうかなー。これでレイラのお相手が誰か、分かりやすくなるし」


 ベラは少しばかり悪戯な笑みを見せた。

 その言葉に、レイラは「あっ」と思わず声を上げる。『お揃い』を身に着けるということは……自分の相手が他者に伝わりやすくなってしまうのだ。

 それはよろしくない。レイラの恋人が、ごく普通の一般男性なら問題はないだろうが……相手は親衛隊の騎士なのだ。

 しかも姫の直属。姫の寵愛を最も受けている男性と言っても過言ではないユーリだ。

 王宮内では誰もが姫とユーリはお似合いで、入り込む余地のない完璧なカップリングだと絶えず囁かれている。

 王宮内の人気も高いユーリの誕生日は、女官たちの間でも知れ渡っているから、誕生日を境に首飾りを付けだせば、それが誰かからの誕生日プレゼントと伝わるのは必至。

 その首飾りを見て、レイラが同じものを付けていたら――?


 二人の関係性がバレてしまうかもしれない。

 いや、バレなかったとしても、ユーリが身に着けたネックレスだったということで、王宮内で人気が広まり、誰もがその首飾りを買い、身に付けだす可能性すらある。

 すると、もう二人だけの『お揃い』ですらなくなるではないか。


 彼氏の人気のために、『お揃い』すら封殺されてしまったレイラは、自分の彼氏の『特別』っぷりを改めて考え直すことになった。


「せ、先輩……やっぱり『お揃い』やめます……」

「ええっ? なぁーんでっ? 相手がバレちゃうの、そんなにイヤなの? 初心うぶ過ぎない?」

「……でも、先輩だって、好きな人が誰か、教えてくれませんよね?」

「う゛っ」


 思いがけないレイラの反撃に、ベラは濁ったうめき声を上げた。そればかりは言い返せないと顔に浮かんでいた。

 ベラが誰かを好きなのだと、レイラは仲良くなって暫くして気が付いた。ローザにも確認してみたが、やっぱりベラは誰かを好きなようだった。

 ローザはどうもその相手を知っている様子だったが、レイラには教えてくれなかった。ベラに直接問いただしても、頑なにその口は閉じられたままだった。


「わ、分かった。ごめん。レイラの相手のことを詮索するのは、やめとく」

「ありがとうございます」


 わははは、と二人、ぎこちなく笑って、その話はおしまいとなった。なんだかこれ以上、恋人の話をするのはお互いに『ボロ』が出そうだと口数が少なったことで、レイラは結局ベラからも『プレゼント』のヒントはこれ以上獲得できなくなってしまった。


 その夜、自室の窓から星空を眺め、レイラは物思いに耽った。

 本当に、どうして早くからきちんと決めておかなかったのだろうと後悔が浮かんでは消えていく。

 ベラの言う通り、期間に余裕があれば手編みのマフラーは、とても良い贈り物になったことだろう。

 ベタと言えばベタではあるが、相手を想い、縫っていく行為のひとつひとつが、形になる手作りは、確実に相手への真心がこめられていると伝わるからだ。


「手作りかー……」


 手先が不器用で、魔法以外はからっきしなレイラには少々難しい考えだった。

 どうにもこうにも、魔法しかやってこなかったこの数年の毎日で培われたものは偏り過ぎている。


 魔法が一番の得意なんて、女の子っぽくないなぁとレイラはいつものネガティブ思考にうずもれて、夜を超えていく。

 また、カウントダウンがひとつ過ぎ去っていく――。

書籍版『ガリベン魔女と高嶺の騎士』に特典が付くことになりました。

詳しくはこちらをご確認くださいっ!

https://ameblo.jp/ichijin-iris/theme-10042496236.html


ショートストーリーA:アニメイト様

『ブリンを作ろう!』

ユーリに手料理をふるまったら喜ばれるかも? と考えたレイラは人生初の料理をすることに。


ショートストーリーB:他応援店舗様

『王宮魔術師国家試験』

レイラが王宮魔術師になるための試験日当日の一幕――。


おたのしみにっ!

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