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第五話:奮闘するベラ

五話として投稿する予定だったお話がアップできていなかったことに

今頃気が付きました。

あらためまして、五話をあげました。すみません(汗

「――対抗魔法アンチマジック?」

 魔術師第二部署の開発室にて、アントンを中心にした魔術師たちが腕を組み疑問の声を上げた。

「そのとぉーり。昨今、我が国では魔法技術の開発、発展が進み始めているため、数多くの魔器が開発されたり、魔法が利用され始めているのは周知の事実と思う。しかし、その分魔法が生み出す危険性も増加することに繋がるだろう。そういった問題に事前に対処するべく、『対抗魔法アンチマジック』の案を出してもらいたい」

 そのアントンの言葉に、ベラは表情を固まらせることになった。

 それはまさに、先日自分が身をもって経験した、魔法の危険性に対する備えに繋がるからだ。

「部長、どうしてそんな議題が急に?」

 ベラは、努めて冷静な様子でアントンに問うた。だが、その声は固く冷ややかにも聞こえる――。

 もしかしたら、アントンがベラに起こった事件を考慮して、そんな計画を上に進言しての開発計画ではないかと疑ったのだ。

 だとしたら、ベラは複雑だ。あの問題は自分自身が対処するべき問題であり、上司のアントンに気遣ってもらいたくはなかった。チムールへの対策は、己の力で乗り切る事で自分の自信につながると信じていたからだ。もし、アントンがベラのためにと思って立てた企画ならば素直に喜べない複雑な感情が蠢いてしまう。

 アントンは、ベラをじぃ、と見つめ返して来た。彼特有の、真意が見えない灰色の瞳は小さく、ベラを捉えて微動だにしない。

「急な話じゃあないよ。寧ろこの議題は我が国では数十年前から問題にされていた。知っての通り、魔法という技術は、我が国からすれば敵国の技術であったため、それに対する作戦計画などは考えられてきていたの」

 アントンの言う通り、戦時中のことではあるが、魔法技術が発展していないこの国は、敵国の魔術師に苦しめられた時代があった。そういったことから魔法に対する対策は過去から考えられてきていたのだろう。

 戦争が終結してからは、魔法を受け入れることで自国の防衛を高めようという政策に変わっている。目には目を、魔法には魔法を、ということだ。


「我が国が目指す今後の社会において、国民一人ひとりが魔器を利用するような世の中を作ろうとしている。つまり、魔法を身近に感じられるような社会だね。だからこそ、その危険性も考慮し対策の道具も必要になるだろう」

 飄々とした声で述べたアントンに、ベラは無言で頷くだけだった。その言葉の裏側に、別にベラのための企画ではない、と告げられているように思えたからだ。


「対抗魔法の代表と言えば……結界が一番になりますね」

 魔術師の一人がアントンに伺うように言う。魔法に対する防壁として最も有名な手段が結界だ。これは現在も宮殿に張られていて、悪意ある魔法を弾き飛ばすような魔除けの効果が付与されている。

 宮殿のみならず、重要な建物にもそういった防御結界を張っているので、まったく対抗魔法が用意されていないという状況ではない。

 だがしかし、そういった結界を運営するのはかなり大掛かりな魔法陣を作らなくてはならないし、それを維持し続けるのも簡単にはいかない。


「そうそう。そういう結界みたいな対抗魔法を個人で利用できるようにしたいって話」

「む、無茶でしょう。結界を構築するのはとても大変ですし、それを個人利用できるようにするなんて……」

「結界は無理だろうけど、護符アミュレットのような物を作ればいいと思うのよ」

 護符アミュレットは魔法学と神秘学を組み合わせた自然に宿る『精霊の加護』と呼ばれる効果が込められた対魔法具で、分かりやすく言うなら『お守り』にあたる。しかし、それを制作するのは多大な費用と手間を要するので、国民に普及させるのは現実的とはいえない話であった。

 だが、アントンはそういうものを誰もが利用できるような案を出してほしいと言っているのである。

 魔術師一同は、むぐぐと唸った。


護符アミュレットのような対抗魔法道具で、安価で量産可能なもの……」

 それを無理だと言ってしまうのは簡単だ。だが、それを可能にしようと動くのが王宮魔術師なのだ。

 ここが腕の見せ所であり、一流と認められるための仕事にもなる。ベラは険しい表情をする開発室の魔術師達の中で一人、熱い闘志を燃やしていた。

(やりがいのある仕事じゃない! やってみせるわ)

 魔法を身近に感じられる時代作りのための準備――それは望むところであるし、自分の夢にも直結する価値ある仕事だと思えた。それに、もし、そのような対抗魔法道具を開発できれば、チムールに襲われた時のような悪意にも対抗できるのだから。


「そういうわけで、各自開発の計画アイディアを一週間後に用意し発表すること」

「はい」


 アントンの話はそれで終わりとなり、魔術師達はそれぞれに頭を使って色々な案を捻り出そうとするのだった。

 ある者は魔術書を読み漁り、またある者は今ある物を発展させることができないかを考え、またある者は護符アミュレットの作成費用の削減を行うにはどこからアプローチするべきなのかを資料整理したり――。

 それぞれ二人一組の班で相棒とああでもないこうでもないと議論が交されることになった。

 ベラの相棒はアントンにあたる。もっとも実力のある魔術師であるし、相談相手には申し分ないが、だからこそ少し物怖じする部分もある。

 なにせ相手は直属の上司にもなるので、なんの考えもなく相棒であるアントンに教えを請うたり、アイディアを訊ねるのは自分で判断できない未熟者だと評価されかねない。

 まったく、上司が相棒だなんて本当にやりにくい――。

 ベラはそんなことを少しだけ考えたが、相手が誰であれ、この件に関しては自分の実力で掴み取りたいという野望のようなものが燃え上がっていた。だからベラはアントンにすぐには飛びつかず、一人で考え込んだ。


(チムールに襲われてからずっと考えていたことだもの……。対抗手段……。誰でも使えるような対抗魔法道具……)


 もし自分に悪意ある魔法がかけられたとき、即座に反応し対処してくれるような反撃魔法が必要だと考えた。

 護符アミュレットのように、指輪やネックレスにして身に着けていられて、己を護るような魔法を込める。ベラはふと、自分のイヤリングをそっと指で撫でた。

 そして、今朝仲良くなったローザのことをふと思い出した。


 ――小物に符呪するのはいい案だと思った。


(そう言えば……ローザと、雑貨屋見て回る約束したっけ)


 何かヒントになるものが見付けられるかもしれない。それに、錬金術師という人種にはあまりなじみもない。色々面白い話も聞けるのではないかとベラは考えた。


「よし、後でローザと話してみるか」

「あら? ローザ君? 私と開発計画練ってくれないの?」

 ぬぅっと惚けた顔のアントンがわざとらしく寂しそうな声を出してベラに寄って来た。

「まだ部長と話せるだけのものが構想できてませんから」

「そんなに構えなくても、まずは気軽に話してくれてもいいのよ?」

「……だったら……ちょっと話が変わるのですが、訊ねたいことがあるんです」

「なんだい?」

「部長は、本当に魔法が受け入れられる社会がやってくると思いますか?」


 ベラはアントンが先に述べていた、魔法が普及するような世の中が来るだろうという話に興味があった。

 確かに、そういう時代が来ることを願って、この王宮魔術師という仕事に就き、日夜努力をしていきたいと重いっているし、いつか自分の魔法で人々の暮らしを豊かにし、自分の夢を認めなかった父親を見返したいと思っていた。

 ――しかし、それにはまだまだ色々な問題があるのだとベラは考えている。そう容易くは魔法技術をこの国に広く認めさせることができるとは思えない。おそらく数年、もしくは数十年とかけて広めていかなくてはならないだろう。


「私はそうしなくちゃならんと思っている。魔法で誰かを幸せにできる、生活を楽にできると考えるからこそ、人々の心の中の偏見を崩すような魔法を提供できればと願っている」

「……でも、魔法は必ずしも人を幸せにするばかりでは、ない。……ですね?」

「うむ。脅威にもなる。それは魔法に限らず、道具もそうだ。ナイフとフォークは食事に使うものだが、人に刺せば立派な凶器になるだろう。だからと言って、ナイフとフォークを排除するかい?」

「いえ……」

「私らがやらなくちゃならんのは、ナイフとフォークの使い方を示すことなんだよ」

 そう言うと、アントンは指先に魔力を集め、少しだけふわりと青い光を発した。使い方次第だという彼の言葉はもっともだ。ベラもその意見には同意する。


「部長は、魔法社会の到来を望んでいるんですね」

「……そうだね」

「……?」


 ベラは、その瞬間、アントンが不自然な間をもって、回答したことに奇妙な感覚を覚えた。

 だが、それが具体的にどう奇妙だったのか、普段通り、抑揚のない間延びした喋り方をするアントンからは明確に感じ取れなかった。


「あの……部長。部長は、かつて凄腕の魔法使いだったと伺ったのですが……」

 チムールがそんなことを言っていた。アントンはかつて凄腕の魔法使いだったが、今は第二部署の部長の昼行燈でしかないという彼の評価であったが、ベラは果たして本当にそうなのかと疑っていた。

「誰がそんなこと言ったの」

「いえ……」

 チムールの名前を出したくなかったベラは、アントンの追及に口をつぐんだ。だが、アントンの魔法の実力は少し気になっていた。

 あの日、アントンが自分を救ってくれた時、頭がぼんやりとしていたせいでどのように救われたのかが曖昧なのだが、アントンの魔力の片りんを覗き見たようにも思ったのだ。

 それに『鎮静』魔法を解呪してくれたアントンの温もりは、非常に心地よくて安心できる確かなものがあった。アントン程の魔法使いなら、今回の開発計画にも的確なものを提示できるだろうと思えた。


「私、今回の件、少し自分だけで挑んでみたいんです。だから、今はあまり部長と討論できるようなものを用意できません。暫し、時間をください」

「そうか。なら、期待させてもらうよ」

「だったら、そういう表情してくださいよ! いっつも眠たそうにして!」

「いやぁ、そーいう顔付きなんだわ。これが。はっはっはっ」

 はっはっはっ、と笑うその声すらどこか棒読みで、まったくアントンという男が計り知れず、ベラは本当に彼が期待をしているのかしないのか、掴み切れなかった。

 まぁ期待されるような実力はまだ見せることができていないのだから、お世辞を言われているのだろうと考えられた。

 だからこそ、ベラは王宮魔術師として新米のレッテルを剥がすためにも、ここで実力を見せつけたいと燃え上がるのだった――。

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