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07「図書館にてヒロイン観察」

 風紀委員になってから覚えることがいっぱいで毎日があっという間に過ぎていった気がする。

 そして本日はゴールデンウィークという連休の初日である。ゴールデンウィーク中も風紀委員の仕事は少しあるが、基本的には風紀委員の仕事は休みである。


 私は出かける準備をし、部屋を出た。向かう先は街である。この学校は山の上にあるから、街ではバスで少し時間がかかる。それでも私は行きたかった。

 なにせ、ここは乙女ゲームの世界だったのだ。攻略キャラとヒロインのイチャイチャラブラブを見たい。せっかく同じ地域にいるんだ。少しくらい見ても平気だろう。


 気分はルンルンで私はバスに乗り、街へと降りた。


 バスから降りたはいいが、どこに行くはまだ決まってない。一人でその辺を見て回りながらヒロインを見つけられればいいやと考える。

 しばらく歩き回ると、ふと風が強く吹いた気がした。そっと髪を抑えつけながら、横を見る。

 長い綺麗な桜の色である桃色の髪が高い位置で結ばれてあり、その髪が風で揺れる。自分と同じくらいの年齢の少女は、重そうな荷物を抱え直し、また歩き出した。

 私はその桃色の髪の少女を見た瞬間、驚きで言葉が出なかった。この少女こそが私が街に来たら見れるかなぁと思っていたヒロインである。名は、姫野(ひめの)愛莉(あいり)だ。


 リアルで見たヒロインは美少女すぎて鼻血ものでした!

 ハッと気付いた時は既にヒロインである愛莉ちゃんは遠くにいて、私は少しだけ急いで後を追った。決してストーカーではない。ただ私は攻略キャラとイチャイチャラブラブを見たいだけなんだ。少しだけ見れれば、2人の邪魔をしないようにコソッと帰ればいい話だ。


 少しだけ少しだけと思い、愛莉ちゃんの後を追うと愛莉ちゃんは図書館の中に入っていった。やっぱりこれはイベントか!と1人でニヤニヤする私を止める者は誰もいない。

 気分はもう絶好調で私は図書館の中へと足を踏み入れた。愛莉ちゃんは空いてるテーブルに着き、持ってきたであろう勉強道具を広げ、勉強をし始めた。

 これはまさかの愛莉ちゃんに勉強を教えるイベントではないのかと、適当に本を選んでるふりをしながら私は愛莉ちゃんを見る。

 しばらくすると、愛莉ちゃんの元に1人の男性が近付いてきた。暗めの茶色の髪に同じ色の瞳のイケメンな男性である。

 男性は愛莉ちゃんを見つけると、愛莉ちゃんのノートを覗き込んだ。ノートに影が出来ことで愛莉ちゃんは顔を上げ、男性を視界に入れた。


「柳葉先生?」


 愛莉ちゃんの戸惑いに似た声色の呟きが聞こえた。

 柳葉先生、柳葉(やなぎば)伊吹(いぶき)はヒロインである愛莉ちゃんのクラスの担任であり、攻略キャラの1人である。

 こんなに早くヒロインと攻略キャラのツーショットを見れるなんて、私はなんて贅沢なのでしょうか!


「勉強しているのか、熱心だな」

「はい」


 愛莉ちゃんは小さく頷き、図書館の備え付けの時計で時刻を確認する。荷物を片ずけ、席を立った。


「先生、すみませんが私はこれで」

「ああ、邪魔して悪かったな。勉強頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」


 あれ?何か台詞が違う気がする。ここは普通はヒロインに勉強を教えるのが攻略キャラである柳葉先生とのイベントだ。なのに、勉強を教えるイベントは発生しない。好感度が足りなかったのだろうか?

 不思議に思っている間に愛莉ちゃんは柳葉先生の前からいなくなる。愛莉ちゃんは私の横を通り過ぎて、図書館の出口に向かった。


「図書館はあんまり近付かないでいよう」


 通り過ぎていった時に愛莉ちゃんの小さな呟きが聞こえ、バッと振り返ったが、愛莉ちゃんは図書館を出て行った後だった。

 愛莉ちゃんが呟いた言葉はどういう意味なのだろうか。しばらくその場で考えてみたが、私には分かるはずもなく諦めることにした。

 いつの間にか、攻略キャラである柳葉先生もいなくなっており、私は図書館を後にした。


 図書館を出て、その辺を歩いたがヒロインも攻略キャラも見つけることは出来なかったので、学校に帰ることにした。


 学校に戻ってきたのは夕方近くになっていた。

 バスを降りて、寮に戻ろうと歩いていると、前に見知った後ろ姿を見かけた。きちんと制服を着こなし、腕に風紀委員長と書かれた腕章をしているところを見ると今日もまた風紀委員の仕事をしていたのかと心配になってくる。

 私は駆け足で、その人物を追いかけた。


「終壱くんっ」


 私の声にゆっくりと前を歩いていた人物は振り返る。私の姿を見るなり、優しい笑みを浮かべ、私の名前を呼ぶ。


「どこかに出かけていたのか?」

「図書館とかに行ってきたの!」


 どこに行ったのか、楽しかったなどと話しているとあっという間に寮に着いてしまった。今日は少ししか話せなかったなぁと残念な気持ちで、終壱くんを見る。


「今度は2人で出かけようか?」

「いいの?」

「海砂は嫌なのかな?」


 そんなことない!と言うように首を勢いよく横に振る。それに終壱くんは嬉しそうに微笑み「約束ね」と私の頭を優しく撫でた。


 今日は1人でヒロイン観察を少しだけ出来て楽しかったが、終壱くんと一緒だったらいろいろ見て回るだけでも楽しいだろうなぁと嬉しくなった。

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