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06「お兄ちゃん」

 風紀委員に入って数日が経つ。風紀委員が各担当区域の見回りを行っている時に風紀委員室に残るのは基本的に、書類整理など事務的なことを行う私と雅先輩ということが分かった。

 風紀委員は休みがないと言われているが、それは間違いだ。毎日交代で休みの人が決められているみたいだ。確かに毎日見回りとかをしていたら、凄く大変だし、キツイだろう。

 そんなことを考えながら、もくもくと教えてもらった仕事をする。


「海砂さんは覚えがよくて助かるわ」

「そんなことないです!」


 私が覚えがいいのは、雅先輩の教えが上手いからだ。丁寧に分かりやすく的確に教える雅先輩に憧れを抱いてしまう。それに美人で、終壱くんと並んでも絵になる。正直言って凄く羨ましい。

 じぃーと隣の席の雅先輩を見つめる。視線に気付いた雅先輩は上品に微笑んだ。


「雅先輩は美人で羨ましいです」

「ふふっ、ありがとう。海砂ちゃんは凄く可愛らしい」


 かわいくないですよーと頬を膨らませると、よしよしと頭を撫でられた。子ども扱いされたショックと雅先輩みたいな美人から頭を撫でられた嬉しさが同時に込み上げてくる。


 そんなやり取りをして、ふと壁に掛かっている時計を見る。そろそろ見回りに行った風紀委員の人達が戻ってくる頃だ。風紀委員の人達が帰ってきたらミーティングをし、今日の仕事は終わりとなる。

 もう少しだけ今している仕事を終わらせようとした時のことだった。バンッ!と勢いよく風紀委員室のドアが開く。


「みーさーちゃーん!」


 ドアを勢いよく開けた人物は、真っ直ぐと私の方に来て、私の名前を嬉しそうに叫んだ。

 癖一つないさらりと綺麗な黒髪に長いまつげ、少しだけつり目気味のキリッとした顔立ちをした男子生徒は、顔立ちに見合わないデレッとした笑みを浮かべた。


「海砂ちゃん、おれの可愛い海砂ちゃん。ここの制服凄く似合ってるよ、まるで海砂ちゃんの為だけに作られた制服みたいだね」


 せっかくの綺麗でかっこいい顔立ちの男子生徒は、口を開けば残念だ。そんな残念な人を私はよく知っている。なにせ、彼は私のたった一人の。


「お兄ちゃん」


 名は、東堂(とうどう)愁斗(しゅうと)。私の一個上で、風紀委員に所属している。因みに終壱くんと一緒で頭がよく特待生であったりする。というより、風紀委員は基本的に特待生でなければ所属できない委員会である。


「海砂ちゃん可愛いねぇ、本当に可愛いよ。海砂ちゃんと同じ学校にいるだけで興奮するって言うのに、同じ委員会って贅沢過ぎる」


 とろんとした甘い笑みを浮かべたお兄ちゃんの言葉は本当に残念だ。口を開かなければいいのにと心底思う。


「ふふっ、海砂ちゃんは愛されてるね」

「いいことを言うねぇ、雅は。そう、おれは海砂ちゃんのことを愛してる」


 堂々と自慢するお兄ちゃん。そんな妹好きを自慢しても、誰も羨ましがらないと私は思うのだが。

 はぁとため息を一つ吐き出し、私は何も言わずにお兄ちゃんと雅先輩を見ていた。お兄ちゃんは未だに私のどこが好きなのかを雅先輩に語っていた。嫌な顔一つせずにそれに付き合う雅先輩をますます尊敬してしまう。


「海砂ちゃんは凄く愛されているのね、羨ましいわ」


 何気ない一言だった。ただお兄ちゃんの妹自慢に対する受け答えだったのだろう。だけど私は見てしまった。もしかしたら、勘違いなのかもしれない。雅先輩があの言葉を呟いた時、少しだけ寂しそうな表情をしたなんて。


 未だに続くお兄ちゃんの話に終止符を打ったのは、風紀委員室に終壱くんが入ってきたからだ。着々と風紀委員室に戻ってきていた風紀委員の人達が一斉に神の救いだと思うほど、お兄ちゃんの話は長かった。


「……愁斗」


 呆れ混じりにお兄ちゃんの名前を呼ぶ。当の本人のお兄ちゃんは「どうかしましたかー?」とヘラヘラ笑っていた。


「ミーティングを始める。自分の席に着け」

「はいはーい」


 終壱くんの言葉に素直に自分の席に着く。やっと嵐が去ったと風紀委員の人達は思ったに違いない。


 ミーティングが終わり、今日の風紀委員の仕事は終わりを告げた。後は寮に帰るだけである。


「海砂ちゃーん、一緒に寮まで帰ろ?」


 返事を聞く前にお兄ちゃんは私の手を握る。どうせ一緒のところに帰るのだから一緒に帰ることはいい。

 だけど、どうして手を握る意味があるのかを知りたい。お兄ちゃんのことだから聞いても「海砂ちゃんと手を繋ぎたかったから」と言うと思うから私は何も言わない。言わない代わりにお兄ちゃんの手を握り返した。


「海砂ちゃん! 海砂ちゃん可愛い、好きだよ、ずっと好き」

「はいはい、知ってる」

「本当だからね、おれは昔からずっと海砂ちゃんだけを守ってきたんだから」


 お兄ちゃんはどうやら周りに風紀委員の人達がいることを忘れているみたいだ。いつものこととはいえ、周りに人がいると恥ずかしい。

 助けを求めるように少し離れたところにいる終壱くんに視線をやるが、終壱くんは何か考え事をしているみたいで私の視線に気付くことはなかった。


「海砂ちゃんどうかしたのかな?」

「えっ?」


 私の視線の先を見つめるお兄ちゃんの視線は鋭くて少しだけ悲しそうに揺れていた。


「……終壱さんだけは駄目だよ」


 呟かれた言葉を私は理解出来ずに首を傾げた。

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