04「風紀委員へのお誘い」
「へっ? 私が風紀委員に⁉︎」
私が風紀委員室に連れて来られた理由は風紀委員に入らないかという勧誘の為だった。
風紀委員といえば、あれだ。体力勝負だと思ってる。校則違反を犯した生徒を追いかけ、捕まえて、罰を下す。という肉体労働だ。校則違反をした生徒の処分を考えるのは先生なのだが、軽いものだと風紀委員がすることをあるらしい。
私には無理だ。そんな優秀な人材ではない。それに女子生徒は体力面で劣る為か、風紀委員に入っている女子生徒は少ない。私も雅先輩しか見たことはない。あと数人いるらしい。
「大丈夫だよ。海砂には主に書類整理などの事務的なことをしてもらう予定だからな」
「書類整理?」
「そう、海砂は書類整理とかは得意だったよね」
否定は受け付けないという雰囲気に私は頷くしか選択肢は存在しなかった。
私が頷くのを確認すると終壱くんは満足そうな笑い、私に親切丁寧に説明してくださった。
まとめるとこうだ。
書類整理などの事務的なことを専門にする風紀委員が二人いるらしい。理由は簡単だ。みんながみんな、違反者を追いかけたって、書類などが貯まる一方らしい。それに違反者を追いかけるだけが風紀委員の仕事ではない。行事がある度に風紀委員が見回りなどを行わないといけない。それの人員配置場所や、交代時間なども考えないといけない。それをする人物が二人必要みたい。
だが、一人が卒業してしまって、今は一人しかいないとのこと。なので今年に入学してくる特待生の中で書類整理などが得意そうな私に声がかかったのだと。
「俺としては、海砂と一緒にいられるから嬉しいけどね」
本当に嬉しそうな顔をする終壱くんを見て、私はもう風紀委員に入るしかないと思ってしまった。
私は昔からずっと終壱くんが笑ってくれればいいと思っていたから。
「これから大変ですな!」
覚えることがたくさんできっと大変なのだろうと思うけど、それもきっといい思い出になる。
終壱くんがいる風紀委員に入れば、もっと終壱くんを知れることができる。従妹の私が知らない終壱くんを知ることもできる。
知ることができたら、きっと私は分かる時が来るだろう。あの時に終壱くんが言った言葉を。
『海砂、俺の学校においで。俺はずっとお前を待っていた。お前が俺の側に居てくれることを、あの約束を果たしてくれることを』
思い出すは私がこの学校に行こうとした終壱くんの言葉。終壱くんが言う約束のことを私は覚えてない。だけど確かに何かの約束をしたことを覚えているのだが、何の約束なのかを覚えていない。
それを私は思い出すことができるのだろうか。終壱くんを知ることによって。
「海砂、ありがとう」
嬉しそうな終壱くんの笑顔を見ると胸が苦しくなる。終壱くんが知っていて、私が覚えてないこと。
きっとそれがきっかけなんだ。終壱くんが私を見てくれるようになったのは。なにせ、昔の終壱くんは私のことをいつも。
「ん、どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないです!」
気付かれないように笑うと、終壱くんは私の髪を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「終壱くんの為に頑張らせていただきますよ!」
胸の近くでガッツポーズを作ると終壱くんは優しく「頑張れ」と囁いた。
それだけでも十分に頑張れる気がする。なにせ、終壱くんは超絶的なイケメンで私の従兄なのだから。
終壱くんに頼られていることが嬉しくて、終壱くんを知れることが嬉しくて、私は浮かれていた。浮かれていた為に、私は終壱くんが呟いた言葉を聞くことは出来なかった。
「俺の大切な海砂。他の誰にもお前を渡しはしないよ」