03「風紀委員長とご対面」
入学式から1日が経ち、クラスの授業はホームルームでいろいろと説明があった。委員決めもあったが、私はどこの委員にも入らなかった。というより、事前に先生が誰が何委員をするか決めていたので特に問題なく終わった。
風紀委員だけは特殊みたいで、クラスに一人いるという訳ではないみたいだ。確か、この学校の風紀委員は特殊で実際に先生に代わって生徒の校則違反を取り締まる役割があるみたいだ。
それゆえ、生徒会よりも風紀委員に入れた方が進学や就職に有利になるという訳である。しかも生徒会より実権握っているという噂も既にあるらしい。
放課後になり、帰る準備を行う。隣の子とは話せるようになったのでその子と一緒に帰ろうと誘う為に、口を開こうとした。だが、それを遮るかのように廊下から声がかかる。
「東堂海砂さんはいますか?」
凛とした綺麗な声だ。しかも私の名前を呼んだ。あの声で私の名前を!
美しい声の持ち主は誰だ!という勢いで廊下の方を見ると、そこには昨日あの時に見た女子生徒が立っていた。終壱くんと話していた薄い茶色の髪色をした美人な先輩であった。
私は一瞬、心臓が止まるんじゃないかというほどびっくりした。もしかして、私に報告しに来たのだろうか?
そう考えながら、先輩の方に行く。先輩は私を見ると優しく微笑み、バッグを取ってきて、一緒に着いてきてと言う。
笑みも美しいと思いながら、先輩の言う通りにバッグと取り、先輩の後を追った。
廊下を歩きながら先輩は私の方にくるりと向く。その行動さえも洗礼された美しさだと感じる。
「私は、大友雅って言うの。因みに2年生だから何かあったらいろいろ聞いてね」
「あっ、はい! 東堂海砂です」
大友先輩と言うのか。ん、大友先輩?
どこかで聞いたことがある。というより、大友先輩というのは寮の説明をした副風紀委員長ではないのか。
「副委員長の大友湊は私の兄なの」
「おぉ、ご兄妹でしたか! 美男美女な兄妹萌え!」
「うふふ、ありがとう。私のことは雅って呼んでね。私も海砂ちゃんって呼んでいい?」
はい、是非とも!と勢いよく言うと雅先輩は微笑む。天使の笑みや。雅先輩は天使である。
「ところで雅先輩、どこに向かうのですか?」
「風紀委員室よ」
授業をする教室がある本館とは別の別館にある風紀委員室。そこは雰囲気が違い、私みたいな存在は場違いな気がした。
部屋に入ると会議室と言ったらいいのか。それとも漫画で見た生徒会室を大きくしたやつと言ったらいいのか。そんな光景が目に入った。
部屋には中央に集められた机が置かれており、ところどころの机にパソコンが置かれてあったり、何かの書類が置かれてあった。
何人かの生徒が席に着いている。私達が入ってきたことで、その人達はこちらを向く。その人達の腕には「風紀委員」と書かれた腕章が付いている。勿論、雅先輩の腕にも腕章はある。
「ああ、雅。連れてきたんだね」
「兄さんが私に行けと言ったのでしょう?」
最初に雅先輩に声をかけたのは、雅先輩によく似た髪色をした大友先輩である。
呆れ紛れの雅先輩の言葉に大友先輩は笑みを浮かべ、私の方に向いた。
「ようこそ、東堂海砂さん。我が委員長はあちらの部屋でお待ちですよ」
あちらと指された方を向くと確かに扉があった。大友先輩は委員長と言った。委員長といえば、終壱くんだ。あそこに終壱くんがいるのだろうか。
不思議に思い、雅先輩を見ると「委員長は今は休憩中なの。あそこは休憩室ね、仮眠とか出来るのよ」と親切丁寧に教えてくださった。
休憩中なら終壱くんには会えないな。と少し残念な気持ちで休憩室へと続く扉を見つめた。
「さぁ、海砂ちゃん行ってきて」
雅先輩が私の背中をぐりぐりと押し、扉の前まで連れてくる。
いや、ちょっと待てよ。なぜ、私を休憩室に入らせようとしているのだろう。終壱くんは休憩中なんだよね?
というより、どうして私はこの風紀委員室へと連れて来られたんだ。
次々に浮かぶ疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。
大友兄妹は私の戸惑う気持ちなんて微塵も知らずに、休憩室の扉をノックし、勝手に中に私を突っ込んだ。そして閉められる扉。休憩室に残された私。
「海砂」
聞き覚えのある声。低くて、だけどそれが心地よい声色。
振り向かなくても分かる。この声の持ち主は、彼だということを。
「終壱くんっ!」
勢いよく振り返り、終壱くんの腰にギュッと抱き付く。昔から私は終壱くんを見ると抱き付かないといけない病気にかかっている。今まではそうで良かったが、今から高校生になるのだから自重しなければいけないことだ。
「会いたかったよ、海砂。ずっとお前のことを考えていた」
終壱くんは私に応えるように私を抱き締め返す。優しく抱き締め、私が痛くないように配慮しているようだ。
少しの時間、互いに抱き締めていたが、終壱くんが私を自身から離す。そして私の顔を見て、その優しげな顔に似合う笑みを浮かべた。
「入学おめでとう。制服似合ってるよ、可愛い」
「あ、ありがとう! 制服は終壱くんの方がずっと似合ってますよ!」
この学校の制服は本当に終壱くんの為にあるのではないかと疑ってしまうくらい似合っているんだ。
家で会うのとは違う。学校だとやっぱり新鮮で、終壱くんが少しだけ違う人に見えて寂しくなった。
寂しさを紛らわすように私は笑った。私が笑うことで終壱くんも笑うなら、私はいつでも笑ってられる。
「高校になるとやっぱり違うね、終壱くんが別人に見えるよ。入学式とか、かっこよかったし」
「海砂も凄く綺麗になった。思わず……」
「思わず?」
途中で言葉を止めたことに頭を傾げると、終壱くんはくすりと微笑む。それが色っぽくて、顔に熱が集まる。
顔が赤いことに気付いたのか、終壱くんはそっと私の方に手を伸ばし、そっと優しく頬を撫でた。
「顔真っ赤、可愛いねぇ」
声に出されると更に恥ずかしい。終壱くんも終壱くんだ。よくそんな恥ずかしい台詞を言えたもんだ。やっぱりイケメンは言う言葉も違いますね、はい。
「そんな膨れっ面も可愛い、そんな顔をされると逆に苛めたくなるなぁ」
「なっ!」
「冗談だ」
そんな警戒するなというように頬を撫でていた手で、私の髪をよしよしと撫でる。
なにか、私は終壱くんからペット扱いされている気がするがそこは気にしないでおこう。そう気にしたら負けなんだ。
その辺を考えないように、私は前に疑問に思ったことを聞くことにした。どうして私は風紀委員室に連れて来られたことだ。
そのことを終壱くんに聞くと、私の前では滅多に見せない冷たい目をしていた。一瞬のことだったから、私の気のせいだったのかもしれない。それでも私は決して口には出さなかったが気になっていた。