02「寮の説明にて」
ホームルームも終わり、後は寮に行き、そこで説明があるみたいだ。
女子寮と男子寮の間にあるどっちの生徒も談笑などを行える建物のホールみたいなところで話があるみたいだ。この建物は食堂などもあり、どっちの寮にも繋がっているらしい。
そわそわと落ち着きのない新入生を宥めるのに先生だけだと足りなかったのか知らないが、風紀委員までいた。そこでなんとなく予想してしまう。
もしや、入学式みたいに風紀委員長である終壱くんに説明をさせる気なのか。確かにここは生徒の自立性を高める為の全寮制なのだが、終壱くんが出てくると女子が主に見惚れて話を聞かないのではないのか。
「先ほどの入学式でも説明させていただきましたが」
新入生の前に出て説明をもう一度し始める終壱くん。それに見惚れる女子。
いや、もうこれはわざとなのではないのだろうかと疑ってしまう。絶対に先生が話した方がみんな話聞くと思うよ。
寮の説明って大切なことだろうね?と一人もんもんと考えいたら、終壱くんの横に一人の男子生徒が並ぶ。
「終壱、君が話すと逆にややこしくなるっていつも言ってるでしょ?」
「……そうか。なら、お前に任せる」
男子生徒にマイクを渡し、肩をポンと叩く。それに男子生徒が頷くのを見て、終壱くんは少し離れたところで待機する。
男子生徒は薄い茶色の髪に髪と同じ瞳の色。終壱くんとは違い、パッとした印象はないがかっこいい部類に入るだろう。
そんな男子生徒をどこかで見た記憶がある気がして、落ち着かない。ただ街ですれ違っただけだと思うが、落ち着かない。
私はきっと気のせいだということにし、あまり気にしないようにした。
「超絶イケメン委員長から代わりまして、副風紀委員長の大友湊が説明をさせていただきます」
副委員長の大友先輩に代わった瞬間に女子生徒の大半がハッとした顔をした気がした。大友先輩の説明に耳を傾けているのが分かる。
寮の説明は、男子寮と女子寮とあり互いに異性の出入りは禁止されている。そして今いる男子寮と女子寮の間にある建物は共用で、ここで談笑したりするホールに、食堂が備わっている。そこで朝と夕はご飯を食べる。昼は学校の方にある食堂や購買などを活用するみたいだ。
食堂の人に許可を取ると、台所も使えるという。
寮自体は広く、プライベートを重視しているため、部屋にバストイレ付きである。それに1人1部屋という贅沢さ。あらかじめ送っていた荷物は部屋にあるらしい。
寮の説明はそんなくらいだ。あとは先生から寮の部屋と鍵を貰うだけである。
準備があるため、少しだけこのホールで待つよう説明がある。少しだけ緊張が解れた新入生達は近くにいる同士でお喋りを始めた。
私も可愛い女子を見つけ、友達ゲットしないとな!と意気込みを入れる。だが、その前にとチラッと我が従兄である終壱くんを見た。
終壱くんは大友先輩と何かを話している様子だった。そして、そこに近付く美人な女子生徒。大友先輩によく似た髪色の美人さんである。
終壱くんと並ぶとお似合いだなと実感してしまう。
「むぅ……」
少しだけ心がキリッと痛むのが分かる。少しだけ羨ましくて、つい妬んだ言葉が出てしまう。
それは仕方ないことだ。だって、私はこの学校には来る気はなかったのだ。終壱くんがあの時に私を誘わなければ、あんな言葉を言わなければ来る気はなかった。
妬んだことで何もある訳ないので、私は密かに祝福することにした。あんなに女子に興味がなかった終壱くんが、あんな美人といるんだ。これは祝福をあげるべきだと私の心が囁いている。
これは従妹としての使命だ。ずっと兄同然と思っていた終壱くんの彼女さんだ。祝福するべきである。
だけど、やっぱり少しだけ寂しいのだ。私は相当のブラコンだったのだろう。
いや、でも私には終壱くんではなく本当の兄がいるが、それは置いとこう。私の兄は少しだけ、いや少しじゃなくて相当面倒くさい人なのだから。
そんなことを考えていたら、先生達の準備が終わり、お喋りタイムも同時に終了していた。
部屋を教えられ、鍵を渡される。自分に割り当てられた部屋に入ると、あらかじめ送っておいた荷物が置いてあった。それを片付けるのに1日が過ぎていった。
そして、私は肝心なことを思い出した。
「ああー、可愛い友達をゲットし忘れたー!」
終壱くんのことを考えていたら、お喋りタイムは終わっていたんだ。
まだ学校に来て、一度も話してない終壱くんの恨みをぶつぶつと言うことになったのは言うまでもない。