17「二人だけの祭り」
今日で夏休みの前半の補習は終わりだ。生徒の多くは今日の補習が終わり次第、家に帰るだろう。それに今日は祭りがある日でもあったりする。
風紀委員の仕事も今日はもうない。昨日までで終わりなのだ。
明日から風紀委員だけの夏合宿が始まるから、それに備えてお休みということになる。
「んー、終わったー!」
風紀委員室で思いっきり背伸びをすると、ふふっと笑われた。笑った人は誰か分かる。何せ、この室内にいるのは私と彼だけなのだから。
風紀委員の仕事が終わってないということではない。ただ彼がいるからこの風紀委員室にいるのだ。
ただ二人きりで出された夏休みの宿題をしていた。
「終壱くん、知ってましたか?」
「ん、何がかな?」
「今日はお祭りなんですよー!」
へー、と返事をする終壱くんは特に祭りが気になるということはないみたいだ。祭り自体もあることを忘れていたのか、本当に知らなかったってところ。
「お祭りの最後は花火ですよ、ここからでも見えるかな」
祭り自体は行かなくてもいいが、花火は見てみたい。小さくても構わないから見たい。
時間になったら寮の自室から眺めてみようかなと、風紀委員室の窓から夕焼けを見つめながら思いを馳せる。
「なら、一緒に見ようか?」
「えっ?」
「嫌かな。俺は海砂と一緒に見たいと思ったのだけど」
終壱くんの言葉に思いっきり首を振る。終壱くんと一緒に花火なんて贅沢だ。
二人きりの花火ですか!これは幸福なことだ。
「夕飯であるお弁当を作って貰ったお礼に花火がよく見えるところに案内してあげるよ」
今日の夜から生徒のご飯は出なくなる。なので風紀委員以外の生徒は家に帰るのだが、帰らない風紀委員はご飯を買うか作るかしか選択肢はないのだ。
私は補習が終わったら寮に戻り、食堂のキッチンを借りてお弁当を作った。前に終壱くんからまたお弁当を食べたいとリクエストがあったからだ。
「花火楽しみです!」
「俺も楽しみだよ。お前が嬉しそうにしている姿を見るのが」
隣に座ってる終壱くんの手が伸び、私の髪を梳くように優しく撫でた。撫でている指が頬を掠める。少しだけ触れただけなのに、触れた箇所から熱が込み上げてくる感じがした。
きっと暑いのは夏の所為で、終壱くんが囁いた言葉と触れたところ所為ではないはず。
しばらく勉強に集中していると、ピロリンと携帯の着信を告げる音がした。携帯をチェックするとメールだった。
「あっ、愛莉ちゃんからだ」
愛莉姫からのメール。メールには「どうかな?」と写真付きで送られてきた。紫陽花の柄の水色の浴衣に、濃い紺色の帯の愛莉姫。その隣には癖一つない明るい茶髪に、髪と同じ瞳の青年が写っていた。写真の彼はパッとした印象はないがイケメンだ。
私は見覚えがある。そう彼は乙女ゲームの攻略キャラである一人の兄で、玖珂先輩の親友であるサブキャラだ。名は、蓮見晃樹。
「……愛莉?」
「あっ、うん。最近知り合った友達です。美人さんなの!」
愛莉姫は美人さんで、写真に写る二人はお似合いだ。愛莉姫が選んだ浴衣は蓮見先輩と並ぶのに似合っている。
もしかして、いやそのもしかしてかもしれない。浴衣を選んでいた時に愛莉姫の好きな人は玖珂先輩と仲がいいと言っていた。
愛莉姫の好きな人は蓮見晃樹なんだろうか?
「へー、友達なんだねぇ」
送られてきた写真をジッと見つめていると、横から携帯を覗く終壱くん。終壱くんの方を向くと顔がすぐ横にあり、びっくりして携帯の方に視線を戻す。
心臓がバクバクと煩いくらい鳴り響く。隣の終壱くんに聞こえてないよね、と思いながら横目でチラッと彼を見る。
「海砂?」
チラッと見ただけなのに終壱くんと視線が合ってしまった。恥ずかしくて、少しだけ終壱くんから身を離す。
「どうかしたのか?」
「うっ」
クスクスと笑いながら、開いた少しの距離を縮めてくる。確信犯だ。終壱くんは絶対に私が恥ずかしがって距離を取ったことに気付いている。
何か別の話題を出さないといけない気がする。ふと目に入ったのはさっきまで見ていた写真だ。
「いや、ほら愛莉ちゃん可愛いって終壱くんも思うでしょう!」
「興味ない」
「えっ、愛莉ちゃんは可愛くて美人さんで!」
「興味ないよ」
興味ないと言い切る。こういう時の終壱くんは本当に興味がないということだ。
他の話題をと考える時に携帯の時計の時間が夜の七時を告げた。花火は確か八時からだ。
「ご、ご飯を!」
「そうだね、ここは誤魔化されてあげる。お腹も減ってきたし」
言葉を何も聞かなかったふりをして、お弁当を渡す。
美味しいという言葉を聞くまでは安心出来ない。ドキドキとお弁当を食べる終壱くんを見つめた。
「美味しいよ」
「よかった」
この言葉さえ聞けただけで満足である。
二人でお弁当を食べながら、いろいろ話をする。花火をどこで見るのか聞いてみると、終壱くんはどっからか取り出した鍵を私に見せた。
「鍵?」
「これは屋上に続くドアの鍵だったりして」
「え、でも屋上って立ち入り禁止だったはず」
自身の唇に人差し指を当て、秘密だよ?と呟く。その姿も似合い過ぎて、心臓が高鳴る。
こんなに何度も終壱くんにドキドキするなんて、最近の私はおかしい気がする。
お弁当を食べ終わり、もうすぐ八時になる。そろそろ行こうかの一言に屋上へと目指す。
屋上に続くドアを開け、屋上に行く。
「でもなんで屋上の鍵持っていたのですか?」
「風紀委員の見回りに屋上もあるからね」
なるほど、だから鍵は預かっているのか。しかも屋上から花火がよく見えると終壱くんは言っていた。ならここから花火を見るのは今日が初めてではないということ。
「ここ二年はずっと一人で花火鑑賞だ。今年は海砂と見られて嬉しいよ」
「一人で?」
「そう、俺は寂しい人間だからね」
嘘付き、終壱くんはモテる。昔からモテモテだった。それなのに終壱くんは彼女を作らない。もしかしたら私が知らないだけで彼女がいたことがあったのかもしれないが、私がこの学校に来てからは彼女はいないようだ。
私の追求する視線に気付いたのか、終壱くんは意味深に微笑む。私の視線に合わせるようにかがみ、顔を近付けた。終壱くんの鋭い視線に目が離せない。
「俺は一途なんだ」
終壱くんの言葉と同時に空が明るくなる。少し小さいが空に咲く花火に終壱くんから視線が外せた。
花火に遅れてドンッと打ち上がった時の音が聞こえる。ああ、花火が始まったことが分かるが私の頭を占めるのは終壱くんのことばっかり。あんなに花火を楽しみにしていたのに、こんなに花火は綺麗なのに。私は終壱くんのことばっかりを考えていた。




