15「秘密」
ピロリンと可愛げのない音が鳴る。メールの着信を告げる音だ。
メールを開くと差出人に「姫野愛莉」と書かれていた。愛莉姫からの初メールということでいいのでしょうか?
メールの内容は夏休みに入ったら祭りがあるみたいなので一緒に行かないか?という内容だった。
「夏と言えば祭りだよねー」
いいなぁ、祭り。多分だが前に買った浴衣はこの祭り用だと思った。確かゲームでも祭りイベントはあった。
浴衣で祭り。愛莉姫の好きな人も来ると思うので、是非とも誰か確認したい。だが風紀委員の仕事があるのかもしれない。
風紀委員でも祭りの日くらいは休みのかもしれないが、まだ未定だ。
しばらく悩んでから、メールを作成する。
「まだ予定がはっきりとしないので祭りにはいけない可能性が高いです。祭り楽しんできてね、好きな人と一緒に……ってこれでいいかな?」
メールを送信して携帯を閉じる。
祭りと聞くと夏休みがすぐ近くまで来ていることに実感が湧いてくる。
夏休みが始まると補習あり、補習が終わると風紀委員のみで夏合宿がある。夏合宿が終わるとやっと家に帰れるということだ。
夏合宿も恐怖の合宿と聞いているが、合宿とかは初めてなので密かに楽しみにしている。
今日は風紀委員室に風紀委員が全員集まっていた。見回り等にも行かずに集まっているのは理由がある。
「今年の文化祭は他校と合同で開催される」
合同で文化祭を開催?それってどういうこと?
終壱くんの一言で風紀委員室がざわめく。詳しく話を聞こうと前のめりになる人もいた。
騒がしくなる室内に聞き慣れた声が聞こえた。その声の主が言った言葉に私の思考回路は止まってしまった。
「桜咲之学園との合同ですかぁ?」
質問をしたのは私のお兄ちゃんだ。お兄ちゃんの言葉に肯定するように頷く。
桜咲之学園というのはあの学校のことだろうか?一緒の名前の学校が二つある訳とはでないのか?
私は知らない。桜咲之学園で他校と合同の文化祭があったなんて覚えてない。そもそも攻略キャラは桜咲之学園の生徒だ。合同で文化祭をする理由なんてないはず。
私の思考が追いつかない間に話はどんどん進む。
話を纏めると他校との文化祭で生徒達がいつも以上に騒がしくなるので気を引き締めるように、とのことだ。
いつの間にか、話は終わっており、風紀委員の皆さんは見回り等に行っていた。私もいつまでも悩んでいるわけにはいかないと考え、仕事に手を付けようとした。
「海砂、今日は俺と一緒に来てもらう」
「は、はい!」
反射的に返事をしてから声をかけた人の顔を確認する。確認せずとも声で誰かは分かるが、一応だ。
声の主である終壱くんが私に声をかけた理由は見回りだ。初めて見回りに行ってから何回か見回りをした。
「終壱くんとは初めてですね!」
お兄ちゃんや湊先輩とはよく一緒に見回りをしたが、終壱くんとは初めてだ。少しだけ風紀委員として役立つようになってきたのだと思うと嬉しくなる。
「そうだね、一緒にいられて俺も嬉しいよ」
髪を梳くように撫でられる。気持ち良さに目を細めると、隣で笑い声が聞こえた。私の隣の席は雅先輩である。
「委員長は海砂ちゃんのことが大切なのですね」
「ああ」
「委員長と愁斗君に大切にされて羨ましい」
ふふっとからかうような笑みを浮かべる。雅先輩の言葉に私はただ首を傾げるだけだった。
いろんな憶測が頭の中を飛び交う。終壱くんと雅先輩は誰が見てもお似合いな二人だ。やっぱり雅先輩は終壱くんのことが好きなのか?
それともお兄ちゃんが好きなのか?前にお兄ちゃんが私の自慢を話していた時に羨ましがっていたことを思い出す。
うーん?と悩みながら終壱くんと二人だけの見回りをする。
「何をそんなに悩んでいる?」
「えっ、あー、それは」
言葉を濁すが、終壱くんの無言の圧力により口を開くしかなかった。
終壱くんが好きなのかもしれないということを省いて、雅先輩はお兄ちゃんが好きなのかもしれないと話した。
「いや、それはないだろう」
「なんでですか!?」
すぐに違うと断言され、私が悩んでいたのはなんなんだと詰め寄りたい。
少し考える素振りを見せた後に終壱くんは口を開く。
「雅はあれなんだ。海砂は愁斗の妹だから、兄から大切にされている海砂が羨ましいという意味なんだと思うよ」
「それって?」
「雅は……兄である湊が好きなんだろう。勿論、家族愛だと思うが」
要するにブラコンということなのでしょうか?私のお兄ちゃんがシスコンであるみたいに、雅先輩もブラコン。
だからお兄ちゃんに大切にされている私が羨ましい。自分も兄から大切にされてみたいということなんだろう。
「雅先輩はブラコン」
「ああ、本人に湊の話をしてみると分かるよ」
雅先輩がブラコン。そのことでも衝撃は大きいが、それを知って雅先輩に湊先輩のことを話すのは気力が入りそうだ。何せ、お兄ちゃんの妹自慢話を笑顔で聞いているだけの人物なのだ。
「じゃあ、終壱くんのことも好きではないってことかなぁ」
ふと口から言葉がもれる。入学式からお似合いだと思っていた二人に恋愛感情はないと知ると、心が軽くなる気がした。
「……海砂は俺が取られるって思ったのかな?」
「なっ!」
そういえば、私さっき何て言った?口から言葉が無意識に出たけど、隣に終壱くんがいることを忘れていた。ただ雅先輩が終壱くんが好きではないという事実に安心してしまっただけだ。
「大丈夫だよ。俺は海砂が思っている以上にお前のことが好きだから」
「それは従兄妹だからってことですか?」
従兄妹だから好き。ずっと終壱くんの好きはそう思っていた。昔は嫌われた私でも従兄妹だから好きになったことに嬉しさを感じていた。でも今は自分が本当にそう思っているのかさえ分からない。
「さぁ、それはどうなんだろうねぇ」
意味深な笑みを浮かべ、私の髪を撫でた。
はぐらかされたことに胸が痛む。これ以上は何も言うつもりはないようなので、追求したい気持ちをグッと堪えた。