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14「ヒロインとの出会い」

 今日は休日である。

 欲しかった本が発売されている為、出かけようと思い立つ。ついでにいろいろ見て回りたいので、大きなショッピングモールがあるところに行こう。


 ショッピングモールで目当ての本を買い、ぶらぶらとショッピングモール内を歩いていたら私の視界に素晴らしい光景が映し出された。

 さらりとした長い桃色の髪が揺れる。こんな綺麗な桃色の髪の持ち主は彼女しかいない。図書館で一度だけ見かけたヒロインの愛莉姫だ。


「しかもっ!」


 美しい愛莉姫の隣を歩く男性は、燃えるような赤髪の持ち主。彼は脱走した不良のおか高の生徒から私を助けて下さった玖珂陸翔先輩であった。

 これはイベントですね、愛莉姫のお相手さんは玖珂先輩だったのですね!デートイベント萌えます!

 興奮した私はどこぞのストーカーごとく彼らの後ろを一定の距離を空けて付いて行く。

 二人は何かを話しながら「浴衣」と書かれた店のところで立ち止まる。どうやら、夏ということで浴衣を売っているみたいだ。しかもセールで安くなっている。

 店の外からでも中の様子は見えるので、置いてあるベンチに座って二人を見つめる。


「浴衣を2人で見に行くとかラブラブですな」


 二人はどれがいいかな?みたいな感じで浴衣を見ている。主に落ち着いた色の浴衣を見ているみたいだ。

 ん?玖珂先輩ってもっと派手な色が好きなはずだった。玖珂カラーといって、確か赤色が玖珂先輩の好きな色だ。


「……っ」


 ズキッと頭が痛み出す。小さい痛みだが頭を抱え、下を向いてしまう。

 痛みが引いた時にこのイベントに酷似したイベントがあったことを思い出す。確かに思い出したイベントは玖珂先輩専用のイベントだ。浴衣を見に行くというところまでは一緒だ。

 なのに違うところがあった。この浴衣を見に行くイベントは玖珂先輩の好みの浴衣を探してもらうイベントだ。玖珂先輩の親友であるサブキャラの人に。


「いや、ゲームではそうであっても現実では違うしね」


 私はそう気にせずに2人を見ようと顔を上げる。顔を上げた瞬間に玖珂先輩と目が合った気がした。

 気のせいだと思いたいのに玖珂先輩は愛莉姫に一言何かを言い、こちらに向かってくる。


「アンタ、大丈夫か?」

「えっ?」


 近付いてきた玖珂先輩の一言に首を傾げる。不思議に思っているとため息を吐かれた。

 具合が悪そうだったからな。そう言う玖珂先輩に一部始終を見られていたことを知る。


「もう大丈夫です! お手数をおかけしました!」

「いや、別にどうもないならいいが」

「いえいえ、大丈夫です。デート中なのに申し訳ないです!」


 愛莉姫を置いてきてまで具合が悪そうな私のところに来るなんて、なんて優しい人なんだ。だがまぁ、これが問題児と言われる玖珂先輩の本性だということは知っている。


「デート?」


 私の言葉に眉を寄せ、チラッと愛莉姫を見る。やっぱり彼女のことは気になりますよねとニヤニヤしながら見つめた。


「いや、デートではないぞ。これをデートと言ったらアイツが怒るな」


 アイツと指を指したのは愛莉姫だ。愛莉姫は愛莉姫でこちらを見てニヤニヤしている気がする。

 それにデートなのにデートと言ったら愛莉姫が怒る?


「デートじゃないんですか?」

「デートじゃないですよ!」


 私の問いかけに答えたのは玖珂先輩ではなく、いつの間にか近くに来ていた愛莉姫だった。

 いきなりの愛莉姫の登場に驚きで声が出ない。数秒間、ジッと愛莉姫を見つめてしまった。


「初めまして、私は姫野愛莉って言います。さく高の一年生で玖珂先輩の後輩です」


 さく高というのは桜咲之学園の略だ。

 にっこりと微笑む愛莉姫は可愛い。こんな可愛い子の隣を歩いているのにデートじゃないなんて。


「初めまして、東堂海砂です。おか高の一年です」

「えっ、東堂?」


 私が名前を告げた時にビックリしたように目を見開く。だがそれも一瞬のことですぐに「なんでもないよ」と笑っていた。


「同じ一年生なんだね、なら海砂ちゃんって呼んでいい?」

「うん!」


 こんな可愛い子にちゃん付けで呼ばれるなんて幸せだ。まさかここで愛莉姫と出会うきっかけが出来るとは、玖珂先輩に感謝だ。

 ふと思い立ったが、私は玖珂先輩に自己紹介してない。向こうの名前は不良な生徒がこぼした名前で知っているということになっているが、玖珂先輩は私の名前を知らない。


「あっ、東堂海砂です」

「ああ、玖珂陸翔だ」


 玖珂先輩に向けて自己紹介をする。律儀に玖珂先輩も私に名前を教えてくれた。

 私達の様子を見ていた愛莉姫は、初対面だったの?みたいな言葉を呟いていた。

 会うのは二回目だ。前も言ったがあの時のことをもう一度だけお礼を言っとこう。


「あの時はありがとうございました」

「何回も聞いたぞ」


 私達の会話を不思議そうに見つめる愛莉姫だが、やがて「まぁ、いっか」と言い、私の手を握る。


「ねぇ、海砂ちゃんも浴衣を一緒に選んでくれない?」

「浴衣を?」

「そう、玖珂先輩に手伝ってもらって浴衣探してるのだけど、玖珂先輩って男だから好みがね!」


 手を引っ張られて連れて来られたのはさっきまで二人が見ていた浴衣コーナーだ。

 紫陽花柄の水色の浴衣を手に取り、似合う?って聞いてくる愛莉姫可愛い。


「可愛い、愛莉ちゃん似合いすぎだよ!」

「ありがとう」


 照れたように視線を逸らす仕草さえも可愛い。

 だが、やっぱり選んだ浴衣は赤色ではなく落ち着いた水色だ。


「似合ってるって言ってくれるかなぁ」

「言うんじゃないか、アイツのことだしな」


 ん?この会話を聞いているだけだと愛莉姫は玖珂先輩のことが好きではないのか?

 玖珂先輩もまた愛莉姫のことを何とも思ってない様子だ。


「二人は付き合ってるとかじゃないのですか?」

「それはないよ! 私は好きな人いるし! 玖珂先輩はその人と仲がいいから手伝ってもらってるだけ!」


 勢いよく反論されて「お、おう」と返事をしてしまった。

 だがこれで分かった。愛莉姫は玖珂先輩ではない人が好きで、玖珂先輩もそれを知っていて愛莉姫の手助けをしているというわけだ。二人に恋愛感情など存在してなかった。

 ある意味ショックだ。二人のイチャイチャを見たかったのに。

 でも愛莉姫に好きな人がいるというのはいい情報だ。

 誰かなぁと思いを馳せている内に愛莉姫は会計をしていた。

 時間を確認するとそろそろ寮に帰らないといけない時間になっていた。名残惜しいが、会計を済ませて戻ってきた愛莉姫にお別れを言うとメアドをゲット出来た。


 私はルンルン気分で寮へと戻り、今日は一日中幸せだったと思うのだった。

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