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12「意味など分からないまま」

 学生の仕事は勉強でございます。決して風紀委員の仕事ではなく勉強が大切なのです。

 風紀委員になるには特待生であるべき。特待生であるべきは勉強すべき。

 そう、私はここずっと勉強をし続けていた。毎日するが、ここ最近はいつも以上に勉強をした。

 何せ、テストがあったからだ。テスト、それは特待生であって風紀委員である私には逃げられないもの。


「やっと、やっとテスト終わった!」


 ここ最近の勉強漬けの緊迫状態から解放された。後は結果を待つだけである。最善の努力はしたので、まずまずの結果にはなっているはずだ。


 ルンルンな気分で風紀委員室に行く。みんな思い思いにテストの話をしていた。どこが難しかったやその答え言い合っている。流石は特待生が集まっている風紀委員だ。

 風紀委員でも浮かれた雰囲気のテスト後。


「本日の見回りはいつも以上に警戒するように」


 風紀委員長の終壱くんの言葉でごくりと唾液を飲み込む。

 何せ、風紀委員でさえテスト後は浮かれているんだ。生徒が校則違反をする確率がグッと上がるそうだ。テスト後と行事後は。

 この高校のテストが年に五回あるわけだから、その度にこんな緊迫な雰囲気にさせられるのか。せっかくテスト終わったというのに。


 みんなが各場所の見回りに行くために席を立っていく。その中で終壱くんは私の方に来て、一言だけ言い放った。


「今日は見回りをお願いするよ」

「へっ?」


 今なんと言いましたか?

 私の聞き間違いではなかったら、見回りをしてねと言われた気がする。


「愁斗と湊と一緒にしてもらうから心配はない」


 チラッと視線をお兄ちゃんと湊先輩に向けると手を振られた。

 どうやらこれは前々から決まっていた決定事項みたいだ。


 風紀委員がしている見回りを知る為に一緒に行くみたいだ。

 他の生徒から見たら風紀委員は風紀委員で、事務的な仕事をしていても関係ないんだ。何かあれば、近くにいた風紀委員に知らせがくる。何かあれば、対処をしなければいけない。


「強くなくても大丈夫ですか?」

「海砂ちゃんなら大丈夫よ、男なんて急所を狙えばいいの」


 うふふと笑いながら言葉を紡いだのは雅先輩だ。なんて恐ろしいことを言うんだ。


「……そろそろ護身術を習う時期だ」


 ほら終壱くんも雅先輩の言葉にすぐに何も返せなくて、言葉を紡ぐのに空きがあったぞ。

 うんうんと二人の会話を聞いていると、引っかかることを言われた気がした。


「ん、護身術?」

「ああ、定期的に護身術を習う機会があるんだ。風紀委員には必要なことだからな」


 みんなも私と一緒で最初は何もできなかったらしい。だが護身術の習う機会でみんな強くなる。そう、不良な生徒達を捕まえるくらい強くなるみたいだ。

 ここは軍人を育成する学校か何かですか?とツッコミを入れたくなる。護身術を習う風紀委員とはどんな委員だ。

 衝撃的な情報に私の頭は既にヒートアップしている。何も考えないように、終壱くんに行ってくることを伝え、お兄ちゃんと湊先輩のところに行った。


「海砂ちゃん大丈夫?」

「……この先が少し、いやかなり心配になる!」


 今すぐにでも頭を抱え、思いっきり叫びたい気分だ。

 そんな私を見た湊先輩はニヤニヤとした表情で更に余計な一言を言い放った。


「夏休みにある夏合宿で鍛えるんだよ、風紀委員はね」

「なんですと!」


 夏休みにある風紀委員だけの風紀委員の為の夏合宿。

 合宿は年に三回。夏休みにある夏合宿と、冬休みにある冬合宿と、春休みにある春合宿。その三回の合宿で風紀委員は護身術を身に付け、更に鍛えるらしい。

 なので風紀委員は特待生なので勉強は出来て、更に日頃の仕事に合宿で鍛えられてスポーツ万能になるのだと。


「合宿の為に少しでも体力付けとかないと、君は体が持たないかも」

「海砂ちゃんはすぐにバテそうだよねぇ」


 二人に引きずられるような形で私は見回りへと行く。あんなに脅迫紛いなことを言われたら、体力を付けないと大変な気がした。


 見回りは特に何もなく平和に終わった。見回り後のミーティングも無事に終わった。

 よかったよかったとホッと一息吐き出す。寮へ帰るかと風紀委員室を出て廊下を歩いたら、いきなり横から腕を掴まれ引っ張られる。


「へっ?」


 一瞬の出来事で何が起こったのか分からなかった。ただ私は廊下を歩いていただけ。そしたらいつの間にか、空き教室にいた。

 大声を出した方がいいのかも。声を出そうと息を吸い込むと、口を手で塞がれた。


「静かにね、海砂ちゃん」


 聞き覚えのある声。その声で落ち着きを取り戻すと分かってくる。嗅ぎ覚えのある匂いに、優しいぬくもり。

 落ち着きを取り戻したのが分かったのか、口から手が離れた。


「お兄ちゃん、何してるの?」


 顔を見上げると、紛れもないお兄ちゃんの顔がそこにあった。随分と密着していて、顔もいつもより近い。


「んー、何してるって言われてもねぇ。ただ海砂ちゃんに言いたいことがあっただけ」

「見回りの時もずっと一緒にいたのに?」

「二人きりの時に言いたかったんだよねぇ」


 それは終壱くんにも湊先輩にも他の誰にも聞かれたくなかった話ということでよろしいのでしょうか。

 時々、お兄ちゃんはどこか雰囲気が違う気がする。何かを知っているような言葉を紡ぐ。


「海砂ちゃんはさぁ、終壱さんのことが好き?」

「えっ、好きだけど」

「そうだよねぇ、従兄妹だもんね」


 その言い方だとお兄ちゃんは終壱くんのことが好きじゃないみたいな捉え方が出来てしまう。

 意味が分からなくて首を傾げるとお兄ちゃんは困ったように微笑んだ。


「その従兄妹の枠から出ないでね。終壱さんだけは駄目だから」

「なにそれ、どういうこと?」

「おれは絶対に……認めない」


 トンッと背中に壁が当たる。頭近くの壁にお兄ちゃんは手を付き、更に私に顔を近付けた。


「きみのことを大切に思っている人は、いつでもきみを守ってくれるわけではないんだよ。きっと終壱さんはきみを……」


 傷付ける。耳たぶに触れそうなほど近い距離で囁かれた言葉に私は首を傾げるしかなかった。

 顔を覗き込んだお兄ちゃんは、そんな私を見て微笑んだ気がした。


「おれはいつでもきみのことを想っているから。好きだよ、おれはきみを傷付けない」


 甘えるように肩口に顔を埋めるお兄ちゃんの頭を優しく撫でる。


「きみだけだったんだ」


 小さく呟けれた言葉だったが私の耳はハッキリと聞こえていた。聞こえていたが、聞こえなかったふりをして何も言葉には出さない。


 しばらくするとお兄ちゃんは私から離れ、いつものテンションで私を構う。さっきまでの言葉の意味を聞けずにいた。

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