表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲンソウトーレ  作者: 黒須
8/36

ティアトーレRe02

破邪のオリジナル

幻想郷を人間の手で統一しようと考える過激派。

原作にも似たような集団があるらしいが彼らは別の団体。

『それで……なんだい、それは?』


彼女との出会いから数日が経った。

人里で保護された俺には簡単な仕事をこなし、僅かながらも日々の糧を得た。

里の新入りということで食事は面倒を見てもらえたので、手元にあるのは自身のための金だ。

その金をどう使うか、俺には一つだけハッキリとした使い道があった。


『あんたの食事と案内のおかげで無事に人里に辿り着けた。これはその時の礼だよ』


だが、俺の思いはあっさりと砕かれた。


『そんな湿っぽい話を屋台でするもんじゃないわ』


そう言って彼女は俺を席の一つに座らせる。

確かにそうだ……俺は日本酒と串焼きを頼んだ。

そして、吐き戻すまで飲んだ挙句に勘定が足らなくなったのは苦い思い出である。




「おまちどう、お冷やとヤツメね」


少々、荒っぽく皿が置かれるが、それは彼女のマナーが悪いわけではない。

どうやら、また俺は心の世界にトリップしていたらしい。


「前に聞いた甘辛風味に煮てみたけど、どうかしら?」

「さあね、ヤツメなんてあんたの所ではじめて食ったから分からんよ」


外の世界の文献で見つけた知識を提供しただけなので、それを再現した料理かは見当もつかない。

それでも、ちゃんとした料理が出て来る辺りは流石というべきか。

美味いことは確かだ、と伝えると彼女の表情は綻んだ。


「随分とお熱いことだな?」


邪魔するぞ、と言って入ってきたのは里の歴史家、上白沢慧音だ。

半妖でありながら人里で生き、人のために力を使う半人の賢者である。

やや頭は固いと言われているが生真面目で面倒見は良く、人妖双方が頼れる数少ない存在だ。


「仕事の方はどうだ?」

「理性のない妖獣が山から下りて来ることはあるが、大したことになる前に帰っていくよ」

「そうか、穏便に済んでいるなら良いことだ」


彼女は俺より飲めるのか、あっさりと一杯目を空けていく。

だが、どうにも様子がおかしい。

何かを言いたそうだが言葉を抑えている、そんな様子だ。


「あー……時に店主、少しいいか?」

「なにかしら?」

「最近、人里に現れる妖怪が増えていることは知っているか?」


俺は自分の関わる話ではないのだが、近くにいるということで程々に聞いている。

人間に化けたりで気付かないこともあるが、確かに人里に立ち寄る妖怪は増えているような気はする。

もっとも、人里のルールを守るような妖怪が多いので、大した騒ぎになることは少ないのだが。


「そこで、里では妖怪による出店を認めようか検討しているんだ」

「……ちょっと待て、それはいいのか?」


確かに紳士的な妖怪は多いが、だからと言って生活の権利まで与えるのはどうだろうか。

生活基盤が出来れば権利は増える、黙認される、容認される。

やがては人里における人妖のパワーバランス崩壊に繋がらないだろうか。


「無論、反対者もいたよ……先月の赤松の件は覚えているか?」


先月、酒に酔った妖怪が暴れた店だ。

妖怪が全面的に悪いのではなく、店主が妖怪に対し排他的だったのも原因である。

しかし、それによって明るみになった問題があった。


「我々は、いざという時に妖怪を押さえられる店を検討しているんだ」




「まだ決まったわけではないが、気には留めておいてくれ」


そう告げると慧音は屋台を立ち去る。

妖怪が人里に店を構える、それは幻想郷のルールからすれば異変と言っても過言ではなかった。

妖怪は人間を脅かすものである、たとえそれが形だけのものであっても。

彼女もそれを分かっているのか、心あらずといった風に店の仕事を続ける。


「おい、ミスティア」

「ああ、お冷やとヤツメね?」

「勘定だよ……というか客はみんな帰ったぞ」


本当に気付いてなかったらしい。

だが、それでも仕事をこなす辺りは彼女も一介の料理人というべきか。

俺は外の席に散らかっている食器を片付けに行く。


「い、いいよ、そんな事まで……」

「心配するな、千鳥足なら皿を割る前に辞退してるよ」

「そういうことじゃなくて!」


屋台の席は椅子とテーブルクロスを片付けるだけで綺麗に終わる。

テーブルの土台は適当な木材をそれっぽく置いただけで、片付けずに放置しているのだ。

屋台を始めたころはテーブルも用意していたようだが、客層が客層だけに簡単に壊されたらしい。

一々、買い替えるのも費用がかかるので、壊れても構わないものにしたのだ。


「それで、どうするんだ?」

「うん……分かんないよ」


それもそうだ。

ただの夜雀屋台が里入りなど、正しく前代未聞だろう。

前例が無いということは、それで起こる苦労の内容も対処法も無いということだ。


「焼き鳥撲滅、の目的には近付くんじゃないのか?」

「うーん、そうかな」


曖昧な態度で返される。

確かにこの屋台は焼き鳥撲滅のために開いたものだと聞いている。

だが、最近の彼女はそこまで焼き鳥撲滅を語らなくなった。

もちろん、諦めたという事ではないようだが、人の話に横槍を入れなくなったといった感じだ。

客商売を続けたことで精神的に成熟してきたのかもしれない。


「あら、なにかしら?」


首を傾げる様子は幼いが、意外と俺より長生きなのかもしれない。

何でもない、と返しながらも俺は彼女が洗った食器をタオルで拭いていく。




それは新月の夜、それは在るはずの無いものを幻想させる満月に対し、在るはずのものを消し去る暗闇の夜。

そんな話を聞いたことがあるが、誰から聞いたのかは覚えていない。

とにかく俺は自警団の勤務を終え、新月の道を急ぎ足で歩いていた。


外の世界の記憶は未だに戻らないが、幻想郷の生活の中で俺は虫の知らせというものを信じていた。

別に直感だろうがシックスセンスだろうが構わない。

俺はその嫌な感覚に焦りを覚え……それは残念なことに的中していた。


ミスティアの屋台を囲んでいたもの、それは客ではなかった。

ちゃんとした得物から農機具まで、様々な長物で武装した人間たちである。

その人間の中には、いくらか見知った顔が混ざっていた。

そして、屋台の周囲には血の跡と、服に赤い染みの出来た妖怪たちがいた。


「……オヤジ、殿?」

「なんだ、お前も来たのか」

未だにチェックしてない書籍があるので、後になって知ったこともあるわけで……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ