ニャントーレRe03
木鬼
青娥を狙ってやってきた地獄からの刺客。
水鬼がいるなら木もいるだろうと適当に考えて出来た人。
「それでは行きますよ」
「ハイハイ、仰せのままに」
ハイは一回、もう少し気を引き締めるべきだ。
私は部下の体に掴まって、部下はそのまま足を進める。
例え術で誤魔化していても部下の能力には通用しない。
彼女の距離を操る力は複雑に隠された仙人の庭すら容易に越えることが出来る。
「四季様、そろそろ着きますよ」
どれだけの距離を踏破したかは分からないが、次第に周囲の景色が不自然に歪んでくる。
どうやら相当、複雑な術をかけられていたらしい。
小町は「こんなに時間がかかるのも久しぶりだ」と呟いていた。
「おお、いらっしゃい」
庭園に降り立った私たちを出迎えたのは一人の男だった。
身の丈は小町より多少大きな程度、ソフト帽に赤い中華風の服を着込んだ男だ。
彼のことは風の噂で耳にしたことがある。
「あんたの事は縁起で読んだよ、閻魔様に死神だったか?」
「貴方のことも聞いてますよ、邪仙に惹かれた人間でしたか?」
そして、地獄の鬼を打ち倒した外来人。
どう見てもそんな実力者に見えないが、見た目に沿わない実力者がいるのが幻想郷である。
見たところ庭園の主は出て来ないようなので、しばらくは彼から話を聞いてみるか。
その事を伝えると彼は了承してパンパンと手を叩く。
すると、屋敷の中からいくらかの人影が姿を見せた。
いや、人影ではなく死人影というべきか。
外の世界の人間は幻想郷の人間と何処か感覚がずれていると聞くが、それは死体に対する感情もずれているのだろうか。
「まあ、とにかく苦労したもんだよ」
やれやれ、といった手振りで男は話を終える。
一升瓶で殴りつけただけで鬼が怯むとは思えないが、彼の表情に嘘の色はない。
何より、今まで様々なことで白黒つけて来た私が正しいと感じているのだ。
「木鬼を祓うとは、予想外だったわ」
「モクキ、黙気……目記?」
樹木を司る鬼だと教えたら彼は突然、笑い出した。
あの一升瓶の中身、正体は外の世界で国内輸入禁止という除草剤らしい。
まさか、地獄の鬼すら退けたものが外の世界の売り物だったとは思わなかった。
邪仙の庭園を見回す。
既に修復を終えたのか話に聞いた戦いの傷跡は見当たらず、男の背後には屍の女中が控えている。
主人が姿を見せない以上、ここに留まる必要もないだろう。
「伝えておいてください、言いたいことがあると」
「もう少し待てば帰ってくるだろう?」
「私がいる限り帰ってきませんよ、それに……」
「ここは死の香りが強すぎる」
「ああ、バレてたか」
彼は男にしては強い香水をつけていた。
彼は人にしては妙に背筋が良かった。
彼は一度たりとも瞬きすることはなかった。
そして彼がソフト帽を外すと、そこから一枚の札が垂れ下がる。
「今なら軽い罪で全てが終わりますよ」
「終わらせるつもりはないさ」
「あなたの心が変わらなくても彼女は、そうとは限りませんよ」
「その時は潔く滅ぶさ……まだ説教をしていくかい?」
「次の機会で結構です」
そう言って私は庭園を去る。
彼の瞳は現在を受け入れた、どこまでも真っ直ぐなものだった。
ああいった類の者は、ある程度の時間をおかなければ話しようがない。
彼がああなった原因はこちらにもあると言えるが、それで刺客の手を緩ませるわけにもいかない。
邪仙に新たな刺客が送られるまで、恐らく百年はするだろう。
その百年後、彼は、彼の主は生き残ることが出来るだろうか。
もし覚えていたら、その結末を見届けよう。
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