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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
33/36

イクトーレRe04

「それじゃ、行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」


最近の俺は今までより早い出勤をしている。

俺たちの外来人長屋はどうにか無事だったものの、濁流の被害は僅か数メートルにまで迫っていた。

あれからひと月ほどの時間が経ったが、復興作業は未だに続いていた。


外の世界の機械があれば少しは早く進むのだろうが、幻想郷に無いものを強請っても仕方ない。


「雲山、次はそれよ!」

「診察が必要な方は列に並んでくださいねー!」


代わりと言っては何だが、外の世界には無い力を借りている。

命蓮寺の面々に限らず妖怪から聖人に宇宙人まで、多種多様な人材が今回の復興に力を貸している。

作業が終われば人間も妖怪もそれぞれの立場に戻るだろう。

もしかしたら人間を襲う妖怪もいるかもしれない。


だがきっと、この時間は無駄にはならないはずだ。

いつか宴の席を囲んだ時の思い出話くらいになるだろう。


「先輩、そろそろ昼にしましょう」

「おっす、俺も混ぜてくれよ」


可愛い後輩と可愛くない馬鹿がセットできた。

後輩の家は不運にも流されてしまったのだが、不幸中の幸いというべきか家族は全員無事。

婚約者に至っては彼女自身が一番危なかったという。


俺が身を張って助けたのは無駄ではなかったらしい。

だが、一つだけ怒られてしまった。


『先輩が死んだら俺たちが悲しむ』




「……~っ!!」


思いっきり背を伸ばし、ゆっくりと腕を回し、柔軟運動が妙に気持ちよく感じる。

瓦礫は除去され、道の整備は仕上がり、後は大工が家を建て直すだけとなった。


しかし自警団の仕事はそれだけでは終わらない。

濁流は人里から地底の入り口まで続いたのだから、その間にある道も被害にあっているのだ。

自然の中にあるので必要以上に手を加える必要はないのだが、必要なだけは手を加えなくてはならない。

妖怪の賢者の助力で野良妖怪に襲われることはないのだが、これはこれで手間な仕事が続くだろう。


そんなことを考えながら大通りを歩いていると小麦粉の焼ける香りがした。

大通りでも有名な尾田爺の露店である。

家に女性がいるのだから甘いものを買っていくのも悪くはないだろう。


「尾田爺、檸檬と葡萄と苺を一つずつ」

「あら、一つずつだと足りないわね」


どこから現れたやら、いつの間にか背後にはどこぞのお嬢様が立っていた。

意外にも彼女と会うのは衣玖が家を離れたあと以来の事である。

一応は客人なのでリクエストに応えて大玉焼きは六個に増やしておこう。


「あいよ、熱いから気ぃつけな」

「ありがとう、いただくわ」


受け取った先から口に運ぶとは行儀が悪いような気もするが、露店でテーブルマナーを追求するのもアホらしい。

むしろ、こういうのが露店のマナーであろう。


品物を受け取った俺たちは家路を進んでいく。

既に冬ということもあり道は暗いが慣れ親しんだ道なので気にする必要はない。

もちろん暴漢がいる危険も無いとは言い切れないが、それは外の世界でも同じことである。

むしろ人里の住人には知られてない実力者もいるので下手なことをすれば返り討ちにされるだろう。


「あなた、衣玖のことどう思ってるの」


えらく唐突な話だ。

何も話題が無いのは事実だが、またその話題か。

彼女は羽衣を繕えば出ていくだろうし、結局はその程度の関係だ。

そう天子に言うのだが、今回は前と違って「やれやれ」と頭を抱えた。


「なんで羽衣直すのに居候する必要があるのよ?」

「…………なんですと?」

「鈍いわね……言ったでしょ、あんな衣玖はじめてだって」


呆気にとられている俺から大玉焼きを奪い取った彼女は走り出す。


「貴方は現実を都合悪く歪めて見すぎよ。時には都合良く正面から見てごらんなさい」


都合良く、か。

随分と勝手なことを言ってくれるが、俺は何でも悪い方向に見すぎていたのかもしれない。

思えば、市子ちゃんへの告白も最初からあきらめていたような気がする。


もう一度だけ正面から当たってみるか。

もちろん玉砕なんか考えずに、な。

ああ、アレだ、夏休みで学生客が多くて忙しかったんだ、きっと

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