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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
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妖力ガラケー

香霖堂

森近霖之助が経営する、外の世界の道具を扱う道具屋。

しかし主人が気に入った品物は非売品になり、品物の入れ替えが早い上に値段は時価と、外の世界の感覚では利用しにくいかもしれない。

森の道具屋に携帯電話を渡された。

いわゆるガラケーというスマホより古い機種だが見覚えは愚か会社のロゴも入ってない奇妙な機種だ。

道具屋が言うには狐と河童が作り上げたmade_in_幻想郷らしい。

流石に怪しくなって手放そうとするが道具屋は熱い表情で見つめて来る。


「前回、君を助けた時のツケが残っているんだ」


良いように使われるのは勘弁だが借金を残すのも気分が悪い。

道具屋の言う通り、以前に助けられた恩をチャラにすることで交渉成立となった。


『妖力ガラケー』


数日後、俺は人里の名家である稗田の屋敷に来ていた。

稗田の当主様とは貸本屋で時折顔を合わせる程度なので呼び出されたことには驚いたが、彼女からの相談事を受けて納得がいった。


「よし、受信できたぞ」

「ふふっ、要領を掴めば簡単でしたね」


こう笑顔を浮かべられると、こちらも教えた甲斐があったものだ。

しかし稗田の当主様に携帯電話の使い方を教えることになるとは思わなかった。

もっとも、教えるといっても飲み込みが早いので一刻と経たずに教えることが無くなったのだが。

ガラケーといってもメール以外の機能は無い。

単に再現できなかったのか、必要ないものと用意しなかったのか、はたまた幻想郷の住人に使われては都合が悪いのか。


「ところで、メールとはどのようなものを書けば良いのでしょう?」

「ん、どのようなと言われても……?」


彼女が言うには「決まった文の形式はあるのか」「普通の手紙と違うマナーはあるのか」など。

しかし、この点においては此方も答えようがなかった。

もしかしたらビジネス用のメールには存在するかもしれないが、あいにくビジネスでメールを出すほど小奇麗な経歴は持っていない。


どうやって説明したものか、と考えていると自分のガラケーにもメールが来ていたことに気付く。

百聞は一見に如かず、特に見られて困るメールもないだろうと考えた俺は彼女に実際のメールを見せることにした。


「最初は……レミリアお嬢様?」


常日頃、退屈している彼女からしてみれば新しいオモチャに見えたのだろう。

しかし彼女が手紙を書いている姿は想像がつかないのでどんなメールになっているかは興味深く、早速目を通すことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:Hello♪

From :Remilia Scarlet

―――――――――――――――――――――――――――――


英語でした。

そういえば鈴奈庵の娘さんが彼女から手紙を頂いたそうだが、その時も中身が英語だったと聞いた覚えがある。


「読め……ますか?」

「義務教育と高校で都合六年ほど学んだが……うん無理」


気を取り直して次に行ってみよう。

あのおぜう様は幻想郷の公用語が日本語であることを忘れていただけなのだ。

他の人は日本語で出しているに違いない、と二件目のメールを見るとタイトルも差出人も日本語なので、これなら期待できるだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:次はいつ来てくれますか?

From :フランドール・スカーレット

Text :お兄様へ、次はいつ遊びに来てくれますか?

   最近はお姉さまの言いつけでお部屋から出られないので寂

   しいです。

   もう何日も誰とも会っていないので心がザワザワとして、

   ぬいぐるみと喧嘩しちゃいました。

   クリスマスに来てくれた子達だけどみんな酷いの。

   プランサーもビクセンも、みんなバラバラになったまま起

   き上がらなくなっちゃった。

   お兄様はバラバラになっても平気よね?

   早く遊びに来てください。

   私、待ってるから?

―――――――――――――――――――――――――――――

Title:くるな

From :十六夜咲夜

―――――――――――――――――――――――――――――


二件目のメールを受け取った直後に三件目のメールが入っている。

大雑把なタイトルだけ記入されたメールはメイド長らしくないが、丁寧な本文が入ったメールより事の重大さを良く伝えてくれている。

まあ、アレだ……行ったらヤバい、マジで。


最初の出だしから挫かれてしまったが、逆に考えよう。

これ以上、変なメールは来ないと考えるのだ、ポジティブシンキングだ。

ポジティブシンキングの意味がいまいち分からんが、多分常用している連中も大して分かってないだろうから問題ない。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:日頃から悩みごとの多い貴方へ

From :東風谷早苗

―――――――――――――――――――――――――――――


おお流石は巫女、この状態を予測するとは奇跡か。

彼女なら期待通りの文面を拝めるだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――

Text :幻想郷において人間とは妖怪の脅威に晒されているか弱い

   存在です。

   故に備えはどれだけあっても不足しないでしょう。

   もしもの時のために守矢神社のお守りを……

―――――――――――――――――――――――――――――


メルマガじゃねーか。

駄目だ元現代人は商魂逞しいので当てにならん。

もう少し年頃の女の子が出すようなメールは無いのだろうか。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:はじめてのメール

From :古明地さとり

―――――――――――――――――――――――――――――


断言する、この件名で真っ当なメールでないはずがない。

旧地獄に建てられた豪邸、地霊殿のお嬢様。

地上に遊びに来た鬼からは「大人しくて物腰柔らか」と太鼓判。

俺は期待に胸を膨らませてメールを開き……


―――――――――――――――――――――――――――――

Text :地霊殿は旧灼熱地獄の上に建てられたので比較的温暖なの

   ですが、地上の暦ではそろそろ冬ですね。

   地上では雪の日はどのように過ごすのでしょうか?

   もちろん仕事も大切ですが、休暇は読書でもしてのんびり

   と過ごしたいですね。

   先日、あなたから頂いた小説ですが軽い文章の中に重厚な

   描写と人間ドラマが織り込まれていて、なかなかの良作で

   した。

   私は第三章で吉岡と鈴村幸三が対峙するシーンですが、や

   はり安易な暴力で解決するのでなく会話によって相手を追

   い詰める部分がこの小説の……

―――――――――――――――――――――――――――――


長いよ、数ページほどスクロールしたけど終わらないよ。

もうメールの規模を飛び越えて読書感想文に入ってるよ。


「なるほど、こんな感じに……」

「本のことになると食い付きいいですね」


ええい、もう少しまともなメールは無いのか。


―――――――――――――――――――――――――――――

Text :1411444*944440003115555

   444440005222114*4444922233888*1114444*44421122222533

   339990004*29

   100047777714115555522222666*0005533444412222*9990292

   222211111111155111117777711122222444445555

―――――――――――――――――――――――――――――

   

もはや文章ですらなかった。

しかし最初は文字化けでもしたのかと思ったが、よくよく思い出せばどこかで見たような気がした。

そして、俺は差出人の名前を見て結論に辿り着いた。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:去るの

From :チルノ

―――――――――――――――――――――――――――――


誤変換、恐らくは何かのはずみで入力が平仮名から数字に切り替わったのだろう。

1は「あ」4は「た」11は「い」といった感じだ。

恐らく件名も「さるの」と「ちるの」の間違いだ。

解読法は分かったのだが、解読する気力は全然湧かないので次のメールを見ることにする。

……というか、どのメールも読む気が無くなっていたのだが。

俺は「これで最後にしよう」と投げやりにメールを開いた。


―――――――――――――――――――――――――――――

Title:受信できてますか?

From :本居小鈴

Text :はじめてのメールだけど、ちゃんと送れてますか?

   私もこのガラケーに似た道具を持っているけど、あれは動

   かないので魔理沙さんから頂いたものを使ってメールして

   います。

   手紙を書くのは初めてではないのに、新しい手段というだ

   けでくすぐったい感じがします。

   まだまだ書きたいことはあるんですけど、纏まらないので

   今日はここまでにしておきます。

   また、メールしてもいいですか?

―――――――――――――――――――――――――――――


そうだよ、これだよ、これが一般的な女の子のメールだよ。

あまりにも感動しすぎて目から涙が滲みそうだが、考えてみれば久しぶりに細かい文字を見続けたせいかもしれない。

ここは一つ花摘みのついでに顔を洗って、ついでに茶のお代わりでも頂くとするか。

俺は阿求に一言告げ、硬くなった体を伸ばしながら廊下を歩いた。




―――――――――――――――――――――――――――――

当端末のメールに以下の設定を適用しますか?


・転送先 『YGK_akyu-H_box02』

・送信転送『送信したメールを複製して転送』

・受信転送『受信したメールを複製して転送』

・表示設定『以後、このメッセージを表示しない』


→Yes No

―――――――――――――――――――――――――――――


外の世界の道具とは使いこなせば中々便利なものね。

都合よく席を外してくれたおかげで、これからは彼の妖力ガラケーのメールが私の妖力ガラケーにも転送される。

外の世界の物語で見るに、電子メールの送受信の歴史とは端末所有者の人間関係や生活パターンの歴史に相当するといっても過言ではないようだ。

つまり、これで私は彼の歴史の一部を見ることが出来るのだ。


それにしても、これはどういう事か?

彼は私が把握している以上に女性との交友が幅広いようだ。

いけない、このような節操のない生活をしていたら何時か痛い目を見るだろう。

もちろん実害から学べることが無いとは言い切らないが、それでも不要な傷は避けるに限る。


これは早急に対策を練る必要がある。

彼に気付かれないように、そして彼が安心して暮らせるように。

具体的にはそう……人里における権力者の庇護の下で暮らす、など。




数か月後、稗田家に自警団の男が婿入りすることとなる。

元から見知った間柄だったようで当主本人の意向により婚儀は滞りなく行われたが、一つだけ彼の知人が妙なことを行っていた。


「何故かアイツと出掛けると稗田様とお会いする機会が多くなる」

「何故か二人で飲みに行ったときに相席した女のことを知っている」

「何故かアイツと仲良くなった女は数日後に余所余所しくなる」


その何故か?の真相を知るものは居なかったそうな。

一年前はメル画で活動していましたが、現在は停止中。

パソコンぶっ壊れて数十回分のストックがパーになったんだもの。

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