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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
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アヤトーレRe02

射命丸文

妖怪の山に住む鴉天狗にして新聞記者。

頭の回転は速いが狡猾で、種族柄なのか強い相手や取材相手には礼儀正しいが、弱い相手に対しては強気に出る。

「なるほどな……」


薄暗いランプの中で俺は新聞を読んでいた。

文々。新聞、昼間に彼女から渡されたものだ。

人里の資料を探しに立ち寄った彼女は小鈴が読んでいた見本誌を横から覗き見て、その礼として手元にあったバックナンバーを俺に渡していった。


一部の人間は出鱈目だと言っているが内容は分かりやすく、非難されている情報の大部分は失敗談や悪評である。

話題的には新聞というより情報誌を思わせるのは幻想郷に政治記事が無いからだろうか。


一方の鈴奈庵で見つけた他の天狗新聞のスクラップ帳を見てみる。

道具屋の店主の酷評程ではないが、確かに余分な情報が多い上に天狗の内輪ネタなので話についていけない所がある。

内輪で見せ合う程度なら外に分かる話である必要がないということか。

恐らく鈴奈庵に丸々一部が存在しないのも内輪であるから故か。


しかし困ったものだ。

これからの撮影の肥やしになるかと思ったのだが、ここまで情報が多いとは思わなかった。

天狗の新聞のように、情報とは多ければ多いほど良いというわけではない。

情報とは自分で噛み砕いて、自分の糧にすることではじめてプラスとなる。

百品の料理が一時間食べ放題と言われても、百品全てを食べた上で次の機会に活かす評価が出来るとは限らないのだ。


まさしく情報の胃もたれである……否、頭もたれか。




「置いてけ堀では以前にも謎の声が聞こえたので、もしかしたら現在も何者かが潜んでいるのかもしれないので注意すべし」

「おお、やっぱ写真があると見栄えがいいな」


見栄えだけで出来を判断されても困るのだが、一応は褒められているのだろう。

俺が仕事のついでに写真を撮っているのは既に知られているのだが、そのおかげで自警団の日替わり掲示板の執筆も受け持つこととなってしまった。

まあ、フィルム代は経費で落ちるので良しとするか。

しかし、すっかり筆仕事が板についてしまった。

原稿が用意されている上に字数も少ないので筆ダコこそ出来ていないものの、立ち上がった後に体を伸ばすのが気持ち良く感じてしまう。

これが齢を経るということか。


「なあ、ついでに報告書もあげといてくれよ」


調子に乗るな、言葉に出さないが掌を振って席を立つ。

このまま紙に向かい合っていたら関節まで音を立ててしまいそうだ。

昼飯を終えてから一度も休憩をとってないので見回りついでの軽食くらいならバチは当たらないはずだ。

今日は尾田爺の店で大玉焼きとするか。


「おお、盟友じゃないか。探したよ」


大通りに繋がる角を曲がると、そこには青い服の少女が立っていた。

緑の帽子に大きなリュックの少女、河童の河城にとりだ。

かつては人見知りだったと聞くが、最近は慣れて来たのか人里でも見かけることが多い。

そして、俺にとっては大切な仕事仲間でもある。


「『まれて』と『てみる』の仕事が上がったから急いで来たんだ」


まれてとてみるはにとりと同じ河童の少女で、俺のカメラの先代所有者である。

所有者といってもカメラで写真を撮ることはなく、カメラの改造とフィルムの増産を続けていただけなのだが。

ある切っ掛けで彼女たちと知り合った俺は、彼女が持っていた外来本の解説をした例にカメラを譲り受けたのだ。

最初は使い道のない機械を渡したつもりのようだが、今では俺の撮った写真の出来を見て次なる改造をするのが楽しみらしい。

実を言うと自分に写真撮影の腕は無い。

焦点距離だの倍率だの言われても「さんすうわかんね」である。

そんな俺が他人様に見せられる写真を撮れるのは、彼女たちの改造カメラのおかげなのだ。


「やはり道具の性能に胡坐をかくだけじゃ駄目か……」

「ええ、それは勿論」

「ひゅいぃっ!?」


にとりが面白い声を出して飛び上がる。

何かと周囲を見れば、そこにいたのは鴉天狗の彼女だった。

そう言えば天狗と河童は妖怪の山でも上下の関係にあると聞く。

ならば彼女の反応にも納得がいくというものだ。


「カメラの改造はまたの機会に~!」

「あらあら、ゆっくりしていけばいいのに」


堂々とする文から逃げるかのように走り去るにとり。

妖怪の山の構造が縦社会という噂は事実なようだ。


「本日は人間のカメラマンと河童のエンジニアの熱愛疑惑の真偽を確かめようとしたのですが」


にとり逃げろ、超逃げろ。

あ、でも俺も逃げないと意味無いわ。


「……嫌ですね、冗談ですよ冗談」


その間がいまいち信用できないが、だからと言って立ち去るわけにもいかないので用件を聞くことにした。




それから、しばらくの時間が経った。

個人新聞の執筆者と日曜カメラマン。

境遇の差があれど同じカメラで撮影する者同士で話が合ったのか、俺たちは度々写真に関する話をするようになっていた。

ある時は互いの記事や写真を見せ合ったり、またある時は情報誌で話題になった店を覗きに行ったり、今では仕事帰りや休日の恒例と化していた。


「人里の外まで行ってみませんか?」

「いや、昨日の仕事で行ったばかりだが」

「いえいえ、そういう外ではありませんよ」


どうやら、撮影に良い風景があるらしい。

隔週とはいえ最近は以前に行った場所の再特集が増えてきているので、有難い話であるのは事実だった。

宜しくお願いするよ、と言った途端に俺は店の外に出された。

次の瞬間、俺の体は遥か上空を舞っていた。

いや、舞っていたというのは間違いだ。

俺の体は俺より小柄な少女に抱えられて弾丸の如き速さで空を移動していたのだから。


あれだ、超高速で空を飛ぶのはバトルものの漫画やアニメでよくある出来事だ。

だが、実際にこの身で体験しても嬉しいとは限らない。

風の圧力は俺の体を容赦なく押し潰そうとするし、冷え込んできた秋の風は更に肌寒く感じている。

唯一の役得は布越しとはいえ、文の柔らかくも温かい体に触れていることか。

もっとも、超高速で下を流れる風景が目に入った時点でそんな事は欠片も気にならなくなったのだが。




どうやら人間を抱えて飛ぶ経験はあまりなかったらしい。

人間の中には空を飛べる者もいるが、彼女の知っている人間は皆が飛べた様で……

到着してから延々と頭を下げられると、流石にこちらも気まずくなってしまうので程々なところで止めてもらった。


気を取り直して周囲を見回してみる。

方角的に妖怪の山なのだろうか、確かにこの場所は一度も訪れたことのない場所だった。

周囲は大陸の掛け軸のような険しい岩肌に囲まれていて、見る者を圧倒しつつも穏やかで壮大な気持ちにしてくれる。

その一方で中央の湖は青空を反射する鏡のように輝いているが、浅瀬では光を通して細かな砂利を宝石のように輝かせている。


そう……文句なし、絶景中の絶景である。


「どうです、人間の猟師でも入ってこれない穴場ですよ?」

「ああ、素晴らしいとしか言いようがない」


魂を打たれる風景とでも言うべきだろうか。

しかし、ここまでの景色だと逆に心配になってしまう。

ここを撮影してもいいのか、と。

しかし文が言うには、天狗も滅多に来ない場所なので好きにすればいいとのこと。

随分と投げやりな回答だが、これでもカメラマンの端くれ。

許可が下りたのなら絶景はカメラに収めたくなる性分が身についてしまったらしい。


「さて、どちらがベストショットを撮れるか競争ですよ」

「ああ、構わんよ」


互いに意気揚々でカメラを構えるが、こちらの条件に合わせているのか文は飛ぼうとしない。

片や河童と科学のコラボカメラ、片や出自不明の天狗カメラ、そうなると残るは腕の問題である。

これでもあれから多少は勉強をしてきたので、カメラの性能を僅かながら引き出せている。

伝統の幻想ブン屋、勝てぬまでも食らい付くくらいはしてみるか。

久しぶりにフリーゲームにはまる

……いいわけではないよ

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