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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
23/36

ガットーレRe02

人里のお菓子屋さん【オリジナル】

天城庵

人里でも老舗の和菓子屋で毎日の茶菓子にしようものなら破産必至。

看板商品は巴饅頭。


尾田爺の露店

大通りでも名店と名高い露店で幅広い客層から人気。

メニューは果物や野菜を練り込んだ大玉焼き一本。


大連堂

長屋の近くの路地に店を構える隠れた名店。

白糖の素朴な味わいを引き出した雪崩焼きが看板商品。

「おい、少し待っててくれ」


朝になって出勤してきた同僚と他愛ない会話をしている中、突然先輩に呼び止められた。

こちらとしては帰ってひと眠りしたいのだが、先日の女教師との会話もあって重要なことを聞き逃したくないので素直に待つことにする。


「気付いている者がいるかもしれないが、最近は妖精の動きが活発だ」


いきなり言われてドキリとした。

タイムリーにも程があると言うべきか。

しかし妖精が活発でも害はタカが知れているので問題ないらしい。

そう、問題は別にあるのだ。


「攻撃的な妖精がいるということは何らかの異変の合図だから注意しておくことだ」


異変と聞いて思い出すのは最近の天邪鬼討伐か。

異変といっても中身は多様。

人里に大きな影響を与える大々的なものから、天狗の新聞ではじめて認知されるようなものまである。

大した問題に発展しなければいいのだが。


「なあ、俺の机の中にあった大玉焼き知らん?」

「机の中なんか分かるわけないだろ?」


本当に大した問題ではないといいのだが。




「しかし、まあアレだな」

「はむっ……はぐっ……」

「ここまで堂々と出られると清々しいよ」

「そこまで気にされないと、こうなるものよ?」


あれから暫くの時間が経ち、俺と三人の妖精たちは会話をするくらいには仲良くなった。

彼女たちは一人で夜勤をしている時に現れ、菓子と茶をねだっては色々と好き勝手話して帰っていく。

妖精の話というのも意外と馬鹿にできないものだ。

未だに幻想郷の世界に戸惑う身としては、価値観の違う相手との会話は時に小さな発見をもたらす。

その発見が俺の人生を大きく変えるわけではないのだが、今までとは違った視点で物事を捉えられるような気がした。


「ああ、もう、指を舐めないっ」

「だってぇ……」


菓子の食べ方は三者三様で、サニーミルクはどんな菓子でも大きな口を開けて豪快に齧りついていく。

ルナチャイルドは一人だけコーヒーをねだり、それを堪能しているので話の最後まで食べ終わらないことが多い。

スターサファイアは知らぬ間に食べ終わっていて、ちゃっかりと一人だけ二個目三個目に手を伸ばしている。


しかし、よく食べるものである。

大連堂の雪崩焼きは素朴な白糖の味わいと安価で多量に買えることが魅力である。

値段によって小、中、大の三種類が用意されているが、小でも茶菓子としては相当な量が入っている。

だが、彼女たちは食べ盛りの子供のように僅かな時間で食べ切ってしまった。


「だって、お腹が空くんだから仕方がないわ」

「最近は気分がいいから、つい食べすぎてしまうの」

「きっとこれは私たちにご馳走しなさいってことね?」


気分がいい……妖精たちが何かの影響で活発になっているということだろうか?


「それより、この前の神社の宴会で出てきた料理が……!」

「ところで昨日拾ってきた変な置物なんだけど……」


妖精たちは気紛れで、次の瞬間もどうなるか分からない。

いつの間にか菓子を食べ終えた二人は左右同時に話しかけてくる。


「ふふっ、両手に花ね?」


一人だけ一歩下がった場所で見ているが、くすくすと笑っているだけで仲裁に入るようなことは一切しない。

結局、彼女たちとのぐだぐだな時間は朝日が顔を出すまで続くのだった。




「おーい、婆ちゃーん!」

「いたら返事しろー!」


ようやく友人が夜勤に復帰したこともあり、丸二日ほどの休暇を貰ったはずなのだが、なぜか俺は同僚たちと山道を歩いていた。

率直に言えば老婆が一人、行方不明なのだ。

この件の代休は貰えることになっているので、ここは真面目に働いておくべきか。

俺は義務感と責任感に任せて足を進めるが、どうにも霧がかかってきたようだ。

ここはしっかり注意しておかなければ二次災害となるだろう。


「気をつけろ、視界が悪くなってきたぞー!」




「すまんねぇ、すまんねぇ……」

「婆さんがいたぞー!」

「今日が天気のいい日で助かったよ」

「ああ、ここまで見通しが良いのも珍しいよ」




「こな……くそっ!!」


格闘技に縁のない身としては渾身の力を込めて蹴りつけた扉だが、蹴破るは愚か歪むことすら儘ならなかった。

窓、壁、床板と、出口になりそうな場所は片っ端から調べたが、普通に開くことも抉じ開けることも出来ない。

この屋敷に来てどれだけの時間が経っただろうか。

窓から光が差さないので日の光は射さず、空腹も眠気も感じないので体感でも計れない。


「……~♪……~♪」


遠くから何かが聞こえてくる。

いや、遠くでなく近くからかもしれない。

耳を塞いでも聞こえてくる、それは歌声だった。

甘く、艶やかで、愛らしく……魔性といっても過言ではない歌声である。

いや、こんな状況なのだ。

こんな状況で聞こえるものが真っ当なものであるはずがない。


ガチャリと音がした。

あれほど乱暴に扱っても開かなかった扉が軽々と開いた。

逃げるチャンスだ、と思ったが俺の体が動くことは無かった。

意識は冷静なのだが体は泥のように重い。

俺には目の前で何が起きているかを見届けることしか出来ないのだ。


そして、目の前に居たもの……それは可愛らしい見た目の少女たちだった。

フラフラと、そしてフワフワと俺は歩みを進める。

前を歩く少女たちは背中の羽を揺らしながら、俺の手を引いてちょこちょこと歩いている。

そう、彼女たちは妖精だった。




しばらくすると大きな広間に着いた。

そこにも多くの妖精がいて、恐らくロリコンやオタクにとっては楽園と呼べる世界なのだろう。

彼女たちは各々で自由に雑談していたが、俺の入室を見るや否や駆け寄ってきて、俺を輪の中へと組み込んでいく。


どこからともなく音楽が紡がれる。

注意して見ると部屋の片隅には古惚けたオルガンがあった。

妖精の力なのか、騒霊とやらがいるのか、とにかく演奏は始まった。

微妙に調子の外れたワルツが流れ、それに合わせて妖精の円はくるくると回り出す。

そして、その中にいた俺の体も妖精の流れに流される。


もしかしたら、のどかな光景に見えるかもしれない。

しかし、当人にとっては一種の恐怖体験だった。

わけの分からない状況でダンスを楽しめるなど、相当な能天気だろう。


「楽しんでるかしら?」


気が付けば音楽は終わっていて、目の前には一人の少女が立っていた。

他の妖精に比べて背が高く、雰囲気も一回り年上な感じがする。

くすくすと笑う彼女は少女のようで、どこか不思議な色気を放っている。

黒いドレスを着ているから黒妖精というのは失礼だろうか。


「あなたのこと知ってるわ、妖精たちと仲のいい人間さん?」

「妖精たち……ああ、そういえばそうだったな」

「ねえ、私たちとも仲良くしてくれる?」

「ああ、構わんよ……」


何だこれは、他に話すことは無いのか?

ここは何処なのか、君たちはいったい何なのか、なぜ俺を連れて来たのか、どこをどうすればそんな方向に行くのだ。

そう考えているはずなのだが、俺の声は全く別の言葉を出していく。


「嬉しい……これからはみんなで一緒に暮らしましょう」

「ああ、みんな一緒だ……」


ちょっと待て、何を言っている。

仲良くするのは構わんが、まずは人里に帰る事が先だろう。

職場の仲間たちは心配しているだろうし……近所付き合いは少ないが皆無というわけではないから同様に心配されているだろう。

しかし……そんな俺の考えなぞ知らずに……話はどんどん……前へと、進んで……

それにしても体が怠い……まるで、夜勤明けに部屋の掃除……半日したかのよう……


「そこまでよ!!」


ふと聞こえたかん高い声に、俺の意識が引き戻される。

そこにいたのは最近、度々会うようになった三人の少女たちだった。


「さあ、その人間は返してもらうわ!」

「あら、この人間は私たちと暮らすのよ?」


どうやら俺を巡って争っているらしい。

双方ともに美少女なのは嬉しいのだが、果たして俺にそこまでの価値があるのか。

未だに半ば呆けている俺の頭では、そんな間抜けな感想しか浮かばなかった。


「スペルカードは持っている?」

「私たちは……5枚で勝負よ」

「いいわ、私のカードは2枚よ」


そう呆けている間に、俺の目の前で幼き少女たちの決闘が幕を開けた。

ま、現実にロリに囲まれてキャッキャしても通報されるだけなんだけどさ

ああ、だから幻想なのか

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