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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
22/36

ガットーレRe01

光の三妖精

気ままに暮らす妖精三人組で、魔法の森から博麗神社に引っ越ししてからは霊夢の手伝いをしながらも、やはり気ままに暮らしている。


サニーミルク

三人のリーダーで明るく表情豊かな、妖精らしい妖精。

光を操ることで姿を消したり、捻じ曲げることができ、八雲紫の放った光弾すら防いだ(光以外の弾幕は防げなかった)。


ルナチャイルド

コーヒーなどの苦味を好んだり、人工物に興味を持つ少し変わった妖精。

音を消すことが出来るが、範囲を器用に絞って使える割に消さなくていい音まで丸ごと消してしまうドジな一面がある。


スターサファイア

二人が働いている裏で一人だけ休んでいたりする要領の良い妖精。

動く者の気配を探る能力でいたずらを終えた後も悠々と逃げ出すことが出来るが、実は人間か動物かといった区別までは出来ない。

日が落ちる時間が少しずつ早くなり、夜中に寝汗を流すこともなくなった秋の夜道。

俺は自警団の夜勤で里を巡回していた。


若い外来人は「夜勤なんか楽勝」と豪語するが、楽勝で夜勤を続けらるものは少ない。

夜更かしして動画サイトやラノベを見るのとは訳が違う。

仕事だ、仕事をしているのだ。


詰所に残された報告書は上司や里の役員に提出しても問題ないレベルで清書しなくてはならない。

パソコンはおろかワープロすらない状態、おまけに同僚の字は下手くそを通り越して達筆に見えてしまうほどのもの。

恐らく、暗号解読検定でもあったら一級くらいは取れるに違いない。


もちろん机に噛り付いているだけでなく、外に出ては不審な点がないかと目を凝らさなくてはならない。

今の季節は気候が穏やかだから良いものの、時には熱帯夜や極寒の雪中行軍をしなくてはならない。

今宵も月が綺麗な秋の夜だが、先日の雨が残暑を洗い流したのか、空気は湿気の中に寒気を孕んでいる。

あと数日もするか、一雨でも降れば衣替えは確実だろう。


しかし、今日は昨日に比べて明らかに冷える。

自警団の備品である外套でも羽織っていれば気にならないだろうが、生憎それは押入れの中で夏眠している。

とりあえず朝から干しておけば次の夜勤までには使えるだろう。

新しい仕事が増えてしまったが、体調不良で欠勤が増えればツケは俺を含んだ他の団員にまわされる。

後の憂いを絶つということだ。

そんなことを考えながら、俺は巡回場所を確認していくのだった。




思えば何故に俺は秋の寒空を薄着で歩かなければならないんだろう。

夜勤ということは分かっている。

夜勤でないはずの俺が夜勤であるということが重要だ。

まあ、同僚が急に休みたいと言い出したのが原因なのだが。


……なんか腹が立ってきたので同僚の机に隠してある少々お高い茶菓子は俺が戴くことにしよう。

なに、病気で休んでいるのだから病み上がりに菓子なんて毒になるのがオチだ。

そうだ、これは腹癒せではなく人助けの一環なのだ。


なんにせよ、この人助けには準備がいる。

天城庵の巴饅頭の甘みを引き出すには茶が不可欠なのだ。

質素な台所にやって来た俺は湯を沸かす。

ほとんどの家が電気もガスも持たない幻想郷では、昔ながらの火打石や外の世界から入ってきたマッチなどのアナログな方法で火を点けている。


湯を沸かしている間は暇である。

故に俺は幻想郷に来てからのことを振り返った。

記憶を失い、人里で暮らし、自警団として働き、どれだけの時間が経っただろうか。

曖昧ながらも外の世界のことを思い出したが、それでも思い出せないことは多い。

ならば幻想の地に骨を埋めるかというと、いまいち実感が湧かない。


俺は両の掌で両の頬を引っ叩く。

何を湿っぽくなっているのだ、今は同僚を助けるという重大な使命が待っているじゃないか。

俺の胃袋が同僚の弱った体を助けるのだ。


俺は火の始末をしてヤカンを手に取る。

天城庵の巴饅頭といえば、茶菓子としては毎度手を出す気にはならないほどの値段がする。

そんな代物を口にしては体が驚いて具合を悪くするに違いない。

しつこいようだが、これは人助けなのだ。




茶葉の入った急須に熱湯を注ぎ、少し蒸らして湯呑に茶を淹れる。

猫舌なので早々に飲めないのが難点だが、これもまた一興と考えれば悪いものでもない。

外を見てみれば、空には少し明るみが射していた。

どうやら、自分が思っている以上に時は早く進んでいたようだ。


そろそろ良いだろう、と俺は湯呑の茶を一口ほど含んだ。

夜食以来、何も入れていない口に強い苦みが走った。

口の中の唾液は喉の奥に消えていき、饅頭の甘味が……広がることは無かった。

ついに減塩減糖文化まで幻想入りしたのかと思いきや、そうではない。

手に持っていたはずの饅頭そのものが無くなっているのだ。

どこかに落としたのかと床のほうに目をやるが、饅頭は影も形も見つからない。


鎌鼬が新手の悪戯を考えたのかと思うが納得はいかない。

俺は思わず同僚の机を蹴りつけるが、奇妙な出来事はそれだけに止まらなかった。

蹴りつけた音がしないのだ。

注意して耳をすませば小鳥や虫の声すら聞こえなくなっている。

別に耳の病を患っていた覚えはない。

まるで俺の周囲だけ音というものが無くなってしまったようだ。


それに気付いたのは聴覚と同時に視覚にも気を配っていたからだろう。

詰所に並ぶ机の一つ、それが僅かに歪んで見えたのだ。

何というか、そう、蜃気楼いうやつにそっくりだ。

俺は自身で蜃気楼を見た覚えはないのだが、少なくとも人里のど真ん中で発生する現象じゃないことは想像がつく。

ならば魑魅魍魎の類か。

俺はその机へと忍び足で近付き、息を大きく吸って……


「わあっ!!」

「「「○△□×◇※―――っ!?」」」


意味不明の悲鳴を叫びながらドタバタと走り出す小さな影。

辛うじて分かったのは背中に羽が生えていることと、三人組ということだった。


「……妖、精?」




「ああ、それは光の三妖精だな」


……ってけーねがいってた、ではなく。

今朝の件が気になった俺は、帰宅してひと眠りした後で里の女教師を訪ねた。

光の三妖精……幻想郷縁起に個別のページがある辺り、妖精の中でも比較的力を持った類のようだ。


「意外だな、自警団の者なら幻想郷縁記は読んでいるかと思ったんだが」

「当面の知識として、危険度と友好度で読むページを選んでいるのさ」


実は幻想郷に定住することを決めた外来人には、こういった傾向が少なくない。

妖怪に対することもそうだが、根本的な警戒心が足りないのだ。

故に注意されても妖怪にホイホイ近付いていくし、警告されても危険な場所にズンズン入っていく。

まあ、そんな連中がいるからこそ自警団ではリストラも派遣切りも無縁であるのだが。


慧音の家にも置いてある縁起を探すこと一分、探し物は本の最初のページに纏まって収まっていた。

あの時は一瞬の事なので明確に思い出せないが、挿絵を見ることで「確かにこんなだった」と思い出す。


日光の妖精、サニーミルク。

月光の妖精、ルナチャイルド。

星光の妖精、スターサファイア。


「危険度は……低めだな?」

「運が悪ければ危険だが、大抵は悪戯程度の被害で済む」


用事が済んだ後は、慧音と軽く雑談して御開きとなった。

さて、これから長い夜勤のはじまりだ。

大した問題でも起きなければ良いのだが……


「なあ、俺の机の中にあった饅頭知らん?」

「机の中なんか分かるわけないだろ?」


本当に大した問題ではない。




しかし、可愛らしい子供とは言え人の饅頭を奪っていくとは良い気がしない。

……俺が食べようとしていたのだから、怒る権利は俺にあるのだ。


そんなことを考えながら今日も夜勤に励んでいると、いつの間にか朝日が昇っていた。

昨日もこんな感じだったかと俺は湯呑を置くが、そこであることに気付く。

湯呑を置いた音がしないのだ。

どんなに静かに置いたとしても木製の机と陶器の湯呑が当たれば何らかの音がする。


しかし、原因不明の事態ではなかった。

考えなくても分かる、彼女たちがやって来たのだ。

まさか翌日に再び現れるとは思っていなかったが、それなりの準備はしてきた。


尾田爺の大玉焼き、大通りの露店でも名店と名高い大判焼きの店だ。

弾幕ごっこの大玉にちなんで、生地に練り込んだ野菜や果物が色や淡い味付けとなっているのが特徴だ。

昨日の天城庵に比べて安価だが手軽でもあり、いわゆる庶民の味というやつだ。


俺はお菓子を皿に並べて机の上に放置して台所に引っ込んだ。

そして、忍び足のまま音を立てずに詰所の扉を閉めて準備は万端だ。


「こんな所にお菓子を捨ててくなんて、人間って勿体ないことをするものね?」

「これは捨ててあるというか、置いてあるだけのような気がするけど」

「このまま置いていたら痛んでしまうから、私たちが食べてあげましょう」


「それはそれは、お気遣いありがとう」

「「「○△□×◇※―――っ!?」」」


またしても奇声を上げて飛び上がる三人組。

バタバタと慌てて走り出し、机や椅子の回廊を通り抜け、入口の前に躍り出て……

んでもって盛大にぶつかった。


「うぁ、すげぇ鈍い音……」


俺は盗人たちの顔を暴きに近寄るが、その顔を見て驚いた。

挿絵からして幼いとは感じたが、自分が今まで会った人外の中でも一番幼いのではないだろうか。


そう思えば悪いことをしたものである。

確かに悪戯をしたのは事実だが、だからと言ってあそこまで脅かすのも大人のすることではない。

妖精といっても人里に生まれ付いた者にとってはお邪魔虫にしか見えないのだろうが、外来人にとっては小柄な童女にしか見えない。

思えば思うほど、まるで子供を苛めたような気がしてならない。


「どうしたものか……」

あー、歯の治療がおわんねえ!!!!

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