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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
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パチェトーレRe03

鈴奈庵の易者

東方鈴奈庵4巻に登場した不審な死を遂げた易者。

幻想郷の実態を知って人間として生きることを惨めに思う。

小鈴に対する恨みの力で怨霊として甦るが霊夢により退治された。

本を読んでいた。

そう、私は私の穴倉でひたすら本の世界に浸っていた。

別に読む本にこだわりはなかった。

日々穏やかに本を読み続け、時に家主の我儘に駆り出される程度の生活でよかった。


一息ついて、私は窓の外を見る。

どうやら夕食後から部屋に籠ってから、気付かないうちに一晩明けていたようだ。

私の体は既に食事も睡眠も必要としていないのだが、友人とメイドにより簡素なスケジュールが決められていた。

まぁ、不要な習慣だからといって消し去る理由もない。

私は地下の穴倉から這い出して、地上階の食堂へと向かった。




「そこ、まだまだ散らかってるわよ」

「あーい……」


やる気のない声を出して、男はとぼとぼと次の瓦礫に足を進めていった。

事情を知らない他人から見れば奴隷か何かのように見えるかもしれないが、これは自分で蒔いた種を収穫させているだけである。


あの騒動から三日ほど経っているが、図書館の片付けは未だに終わっていなかった。

被害自体は大したことないのだが罰として一人でやらせているためだろう。

これでも生活環境はゲスト待遇なので感謝してほしいくらいだ。

私は監督のついでに本を読むために仮設のテーブルに向かうが、そこには既に来訪者が二名ほど着席していた。


「なかなか厳しいじゃないか?」

「乙女の柔肌を見たなら仕方ないぜ?」


紅魔館が城主、レミリア・スカーレット。

その対面には黒白の盗っ人、霧雨魔理沙が座っていた。

わざわざそんなことを言いに来たのなら、今日も紅魔館は平和なのだろう。


「まさか、家主として今回の事件について詳しく聞いておきたいだけよ」

「あいにく、興味津々で心が忙しいぜ」


そういうのを暇人というのだが、まあ良いだろう。

私はため息をついて一冊の本を取り出す。

あの日、彼が見つけた魔道書……すべてはこれが発端だった。


「これは凄い本なの?」

「中々分かりやすいが出鱈目で詰めが甘いところも多いな」

「あんたは似たような本を見ているはずよ?」


そう言われて首を傾げる魔理沙。

記憶の奥底にしまい込んだか、もはや記憶にないのか。

いや、少し待った所で思い出したようなので記憶には残っていたようだ。


「鈴奈庵の易者か」

「ミンカヨージュツ、とか言うらしいわね」


自分にとってどうでもいい部分を切り捨てて、都合の良い部分だけを自分のものとして利用する。

それによって本に封じられていた強い思いが怨念として甦るのだ。

もっとも今回のものは人里で起きた事件より悪質で、これは読者自身に怨念が取り付くものだった。

更にタチの悪いことに読者の心の奥底に居座るのだから真っ当な手段では対抗しようがないのだ。


「それで、あの大立ち回りで引きずり出したの?」

「その事だけどレミィ、あなた知っててやったわね」


最後の最後で怨念は直接攻撃という手段に出た。

流石にそれは私もお手上げだったので覚悟はしたのだが、それを止めたのは取り付かれた当人だった。

瀟洒な装飾の施された銀のナイフ、彼はそれで自分の腹を突き刺したのだ。

傷自体はさほど深いものではなかったのだが、ナイフ自体に宿った力は彼に取り付いた怨念に致命傷を負わせた。


「ああ、そういえば珍妙な運命が見えたから少しばかり遊んでみようかとは思ったね」


やはり、このナイフが彼の手元にあった運命は彼女が書き記したものか。

その時点で忠告してくれたら余計な手間が省けたのだが、長い付き合いとはいえ彼女の好事家ぶりも困ったものだ。


「しかしパチェくんとしては少し残念だったんじゃないのかい」

「どういう意味よ?」




「くそ……全然終わる気がしない」

「怪しい書物に無断で手を出すからよ」


夕食後、○○は自分の仕事の後を眺めながら愚痴をこぼしていた。

今日も一日の大半を瓦礫掃除に費やしたようだが、それでも図書館は散らかったままである。


「あー、もう自警団の仕事サボりっぱなしだよ」

「話ならついてるから、最後まで責任取ることね」


そう言って私は持ってきた茶と茶菓子を目の前に置く。

紅魔館では珍しい緑茶だが人里の者には紅茶より馴染みがあるだろう。

知識だけで淹れたお茶だが、香りは充分に出ている。


「あー、最近は紅茶しか飲んでなかったな」


やはり元の生活が懐かしいのだろうか。

私は柄にもなく少しの不安を感じた。




『しかしパチェくんとしては少し残念だったんじゃないのかい』

『どういう意味よ?』

『彼に抱かれたいとは思ってなかったのか?』


……何を言い出すか、この吸血鬼は。

後ろのメイドは顔を真っ青にしているし、隣りの魔女は顔が真っ赤になっている。

私が一睨みすると彼女は「失礼」と悪びれのない笑みを浮かべた。

この図書館にあるものは全て私の物だ。

書物、マジックアイテム、使い魔、そして私自身。


『どれもあんな怨霊もどきにくれてやるつもりはない』

『それはアレもかい?』


レミィが指したのは図書館の片付けに追われる男。

まったく、こういう時に限って勘が鋭いのだから呆れて何も言えやしない。


『程々にしてやれよ?』


同族ゆえに気になるのか、魔理沙が声をかけるが心配無用だ。

せっかく弱みを握ったのだからたっぷりと楽しんで私の傍に置いてあげるのだ。

人里の自警団から引き抜く方法は検討中だが、今は検討する時間すら楽しみに思えてくる。




「ほら、人間はそろそろおネムの時間だよ」

「もやしっ子もたまには寝た方がいいだろうよ」


そんな軽口を叩き合いながら今宵の茶会はお開きとなった。

さて、とりあえず片付けが終わったら司書としての仕事を一から百まで叩き込むとしよう。

人間であるにしろ、人外になるにしろ、私の片腕を務める程度になってくれなくては。

オリジナル要素を付け加えていくと途端にチープになるのがワタシ

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