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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
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リアトーレRe02

吸血鬼

千年を超える歴史を持つ妖怪もいる幻想郷においては新参者ながら、膨大な力で幻想郷の一角を占める存在である。

かつて古参の妖怪と大きな騒動を起こしたが、それが切っ掛けでスペルカードルールが誕生した。

「それにしても、よく続くものね」


談話を終えた俺は地下図書館で読書をしていた。

レミリアはすでに自室のベッドの中だが、俺は彼女に付き合うために強引に睡眠時間を変えたので、いまいち眠気が来ない。


「アレでも吸血鬼よ?」


レミリアの外見は幼い。

幻想郷には少女の姿をした人外が多いが、彼女より幼いものとなると妖精の類がほとんどだ。

だが、それでも彼女は吸血鬼である。

無数の能力に長け、数多の妖怪を惹き付けるカリスマ的存在であり、無数の気紛れを起こし、数多の者から嫌われる暴君的存在。

吸血鬼が幻想入りした当時は古参の妖怪たちと大いに揉めた様だが、幻想郷でも若い世代とされつつも幻想郷の一角と謳われている。

しかし、彼女との談話は強大な力の印象を薄れさせていった。


「豚のような悲鳴を上げろ、とか言われても恐怖より別の意味で寒気がしそうだな」

「急に何の話よ?」




「オーテ、ヒシャドリ」

「誰よ、将棋×チェスなんて考え付いたの」


人里生活のおかげで辛うじて将棋のルールは覚えていたが、チェスは動きすら分からない。

自分は空を飛べないし弾も撃てないが、弾幕ごっこで言う初見殺しとはこんな感じなのだろうか。

ならばと気合い避けなるものに挑戦してみるも気合いは所詮、気合いでしかなかった。

粘りに粘ったら最後は王以外を全て取られて投了した。


「なかなか必死で滑稽で面白かったわ」

「そいつはどーも」


ケタケタと笑う様子は大悪魔というより小悪魔だ。

もっとも、明らかな負け戦にも最後まで付き合ってくれる辺り、勝者の慈悲というものがあるのだろうか。


「ああ、人間というものは愉快なものね」


勝負の一時を満喫したかのように、ぐっと背伸びをした彼女。

まるで子供のような仕草だが、その表情には慈しみの色が見えていた。

まあ、実年齢からすれば10倍以上のお婆ちゃんなのだから間違ってはいないのかもしれないが。


「人間と言っても数えるだけしか知り合ってないけど、あなたは今までに出会った誰よりも変わった人間よ」


ああ、このパターンはレミリア・スカーレットの武勇伝だ。

昔は幻想郷の妖怪との荒事から、最近は天邪鬼討伐まで。

散歩ついでに狼藉者を討ち取ったという話なら星の数ほどだ。

それは全てが同じ話ではないので、恐らく全ての話が実話だろう。

適当に聞き流しては後が怖いので、先に花摘みでも行っておくか。

レミリアに断りを入れて席を立った俺は、彼女の呟きを聞き逃していた。


「愉快なものは是非、手に入れてみたいわね」




「そっちに逃げたぞ、やれっ!」


針のような熱気が肌を刺す夏の日の午後、自警団は突然現れた妖怪の群れの対処に追われていた。

決して大群という数ではないが、言葉を解せぬ妖怪は人間にとって一方的な災いでしかない。

だが、博麗の巫女は動かなかった。

博麗が動くにしては規模が小さすぎたのか、はたまた獣の間引きは巫女の仕事ではないのか。

とにかく、出向いたのは自警団だった。


荒事は初めてではないが慣れるほども経験していない。

しかし、今回の相手は思いのほか簡単に終わりそうだ。

人里付近の森からスタートした妖怪退治は、足場の悪い水辺で串刺しという結末を迎えた。


ふと気が付けば、俺たちは薄い霧に囲まれていた。

注意して見回せば、遠くの方に紅い館が見える。

そう長々と追い回したつもりはないのだが、どうやら長々と追い回していたらしい。

人里ではないとはいえ、死骸を放置するわけにはいかない。

そう思って、仲間とともに妖怪の身体に手をかけた時だった。


「うわああああっ!」

「死ね、死ね、死ね!」

「一人やられたぞぉっ!」


詰めが甘かったというべきか、妖怪はまだ生きていた。

妖怪には予備の槍が突き刺さり、針鼠のような姿になっていく。

一人やられたというが、誰がやられたのか。

状況を確認しようと思った途端、腹に激痛が走った。

余りの痛さに声を上げようかと思ったが、痛すぎて声が喉を通らないほどだ。

湖の岸辺に倒れこんだ俺を仲間たちが囲んだことで、ようやく理解した……やられたの俺かよ。


運が良いのか悪いのか、血塗れになったのは俺だけで他は誰一人と巻き込まれていなかった。

ああ、流石にまずいな……

意識が途切れる刹那、覚えているのは猛烈に吹き荒れた突風だった。




「それじゃ、お世話になりました」


俺は久しぶりに履く自分の靴で玄関に立つ。

ここは迷いの竹林の永遠亭、妖怪退治で不覚をとってから既に一ヶ月が過ぎていた。


「お礼なら吸血鬼のお姫様に言ってあげなさい」


見送りの女医が言う通り、俺を永遠亭に運んだのはレミリアだった。

俺が意識を失った直後、最初は紅魔館の図書館に運ばれた。

しかし、紅魔館の頭脳は自分より永遠亭の方が適切だと言ったらしい。

直後、紅魔館から永遠亭に至るまでの道筋を暴風が駆け抜けた。


あらゆる能力を高いレベルで兼ね備えている吸血鬼はスピードにおいても天狗に匹敵するとされているが真偽は不明である。

だが、少なくとも人間の常識を超えた存在であることは身をもって再確認できた。

この超高速搬送がなければ、長くベッドの世話になっていたか、あるいは白くてスリムなバディで土の下に眠っていたか。


今日はゆっくり休んで、明日は彼女にお礼を言おう。

俺はリハビリを終えた足で地面を踏み締めながら竹林を歩くのだった。




翌日、紅魔館では夕食が振舞われた。

メイド長は入院中も様子を見に来てくれたのだが、それ以外の者とは久しぶりの対面となるので質問攻めにあってしまった。

妖精メイドが言うには快気祝いらしく、出された料理は今まで見たことのない料理だった。


「それにしても人間って、やっぱりヤワなのね」

「ヤワだからこそ生まれて増えて、色々な人間が出て来るのさ」

「そして、あなたみたいな人間も生まれたのね」


ワインを傾け、艶っぽい表情で微笑む彼女。

はじめて出会った時から思っているのだが、やはり彼女は美少女だ。

彼女の背にあるのは悪魔の翼だが、それが天使の羽だったら神々しさのあまりキリスト教徒も総出でひれ伏すだろう。

そんな彼女の微笑みを間近に見られるのだから、俺も相当な幸せ者なのだろう。


「でも……ソッチだけあっさりと消えて、コッチだけ在り続けるという運命は癪なものだわ」

「……うん?」


何やら言葉がおかしな方向に進み始めた。

雰囲気に呑まれて気付かなかったのか彼女の口元は微笑んでいるが、その瞳は明らかに別のものになっていた。


「考えたのよ、吸血鬼と人間が同じ時をどこまで共有できるか」


幻想郷における人間の平均寿命は聞いたことがない。

だが、高度な医療技術のない人里では現代社会に比べて短いのではないだろうか。

魔法や永遠亭の力があれば百を越えることも出来そうだが、そうまでして生きようとする者がいるだろうか。

恐らく、俺も天寿を全うするだろう。


「まあ、よく生きて残り三十年だろうな?」

「それは嫌よ、あなたには三百でも三千でも生きていてほしいもの」

「そこまで思ってくれてるなんて光栄だね」


軽い口ぶりでどうにか話題を流そうと考えるが、むしろ火に油だったらしい。

自警団として働いていた時でも滅多に感じない、人外の威圧感が食堂の空気を押し潰していく。


「招待してもらってすまないが……気が優れないので失礼するよ」


明らかに血が頭に上っている。

このまま話が長引けば、取り返しのつかないことになるだろう。

無礼でも失礼でも、何でも被ってやるから今日は帰ろう。

早足で食堂を出た俺は長い廊下を抜け、階段を降り、大広間から玄関の外へ……出られなかった。

いや、足が動かなかったのだ。

つま先からかかとまでが、まるで床に接着されたかのようにピタリと離れなかったのだ。


「あらあら、せっかくの食事を残すなんて行儀が悪いのね?」


そう思っていたら一瞬で元の場所にに着席していた。

またしてもナイフメイドの仕業か。


「勿体ないわ、すべて食べて行ってちょうだい?」


ナイフとフォークは軽やかに動いた。

確かに味は美味そのもの、きっと自分の想像もつかない稀少品も使われているのだろう。

気分が優れないというのは方便で、本当は食欲だってたっぷりと残っている。


「どう、おいしいかしら?」


レミリアは笑顔で訪ねてくる。

夢中で口に運ぶのだから傍目から見ても不味いようには見えないだろうが、それでも彼女は聞いてくる。


「ああ、生ハムのサラダなんて絶品だよ」

「ああ、そう……自家製だから嬉しいわ」


自家製、という言葉にフォークが止まった。

幻想郷に来てからは娯楽が極端に減ったので、読書に浸る時間は長くなっている。

つい最近に読んだオカルト小説を不意に思い出してしまったのだ。

常識的に考えろ、いくらなんでもないだろう、こんな想像をしている俺の頭の方がおかしいんだ。

そう、自分に言い聞かせるのだが、悪い想像が頭から離れようとしない。


「私の生ハムなんてレア中のレアだもの、食べたことのある人間なんてあなただけよ?」

時間がなかったのでほとんど加筆無し……

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