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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
13/36

リアトーレRe01

紅魔館

湖の湖畔にある、吸血鬼レミリアの居城。

メイド長の能力で外観に対して迷路のように広大な内観である。

妖精メイド、ホフゴブリンなど幻想郷の中でも有数の大所帯。

湖の岸辺には紅い館がある。

悪魔の住まう館、霧に浮かぶ城、紅い吸血鬼の領地、その名も紅魔館。

そして、そこを治める者こそ幼き紅い月。

吸血鬼、レミリア・スカーレットである。


幻想郷縁起においては脅威の一角とされているが、実は阿礼乙女の考えあっての水増しがある。

城主は好奇心旺盛かつ紳士的。

機嫌さえ損なわなければ、そうそう人間に危害を加えることはないお姫様だ。

大勢の妖精メイドが住み込みで勤務し、最近はホフゴブリンが住み着いたことで幻想郷では有数の大所帯だろう。


そんな館は思い付きでイベントを起こし、気紛れに人間を招くことがある。

俺が最初に館を訪れたのも、そのイベントに招かれた里の要人の護衛に過ぎなかった。

ゲストも護衛も珍しい洋酒をハイペースで堪能する中、俺は「せめて自分だけは控えめに」と会場の隅でチビチビと飲んでいた。


そんな時だった、美しい少女が話しかけてきたのは。

ドレスで着飾っていることから、どこぞのお嬢様ということは分かるのだが、自分には面識のない顔だった。

しかし、それは本当に美しかった。

ルビーのような紅い瞳、ウェーブのかかった輝く銀髪、透き通るような白い肌。

美というものに疎い俺が明言できるほどに美しく、その一方で仕草は愛らしい。


それが幻想郷縁起に記載されていた最強生物だと知った時の俺の表情は中々に面白かったらしい。




そんなこんなで俺は紅魔館から呼び出しを食うこととなった。

時には自警団の勤務中でもメイド長が来訪するが、同僚から上司まで特別勤務として快く送り出してくれた。

紳士的とあっても悪魔の館に行くのは抵抗がある者が多いようで、人里としては厄介ごとを押し付ける相手が出来たと思っているらしい。

もっとも、こちらとしては平然と休める上に給料も出るので万々歳なのだが。


紅魔館での談話は一日で終わらないことも多く、帰りが翌日の昼になることも多い。

どうにも職場では生還すら絶望視されていたようだが、最近は図々しいと言うべきか、勝手に次の休日を代休ならぬ代勤にして勤務日数を調整する始末である。


一方の紅魔館では、俺はゲストとして手厚い待遇を受けている。

メイド長の護衛を受け、門番から正門を通され、ドアの向こうには妖精メイドが出迎え、裏方のホフゴブリンまでが会釈をする。

出された食事も人間用の豪華なフルコースと来たものだから、最初のころは必死こいてテーブルマナーを会得したものだ。


「チュパカブラの被害件数は1000件を超えると言われているが、大抵は皮膚の病にかかったコヨーテの見間違えとされている」

「あんなイヌもどきと間違えるなんて、外の世界の人間は抜けているのね」


俺は彼女のために外の世界の知識を仕入れるのだが、それを分かりやすく噛み砕いて話すのは中々苦労する。

しかし、彼女の見せる笑みは苦労の対価としては充分なものであった。

外の世界と内の世界、覚えている限りの美少女を脳内検索してみるが、笑顔の彼女に勝るものは無い。

恐らく記憶を完全に取り戻していたとしても、このランキングのトップは不動のものだろう。


「あら、どうかして?」

「今宵も地上の月が美しいものだから、つい見惚れてしまったよ」


そうかしら、と満面の笑みを浮かべる彼女。

常にそうなのか、はたまた俺の時が特別なのか。

彼女に対する褒め言葉の内容はストレートなものが喜ばれるが、内容を伝える表現は凝ったものが好まれる。

俺の脳内雑学辞典のページが尽きるのが先か、彼女との関係が終わるのが先か。




その日の俺は、その脳内辞典を補充するために地下を訪れた。

紅魔館には迷宮と呼んでも過言ではない地下空間が広がっている。

元々が広い館だが、どうやら複雑な内装をさらに複雑化しているメイドがいるらしい。

蔵書が勝手に増える図書館や、主が勝手に抜け出す幽閉区域など、本格的にマッピングするとしたら一ヶ月はダンジョン生活になるだろう。


実は、俺が紅魔館の中で最も気に入っているエリアは地下図書館だったりする。

ジットリと冷えた空間、書を捲るだけの静かな雰囲気、馴染みの深いカビの匂い、余りにも落ち着きが良いので居眠りすることもあったほどだ。

それを図書館の主たる魔女に注意されたので言い訳として使ったこともあるのだが……


「でも、カビの臭いというのは褒め言葉かしら?」

「人里で借りている部屋は古い物件でね、自分の部屋に似た空気だから落ち着くんだろうよ」

「やはり褒め言葉には聞こえないわ」


恐らく「自室で漂う臭いより涼やかで落ち着いた匂いだ」と言っても意味は通じないだろう。

話もそこそこに読みかけの本に意識を戻そうとするが、そこで自分の紅茶が空になっていることに気付いた……が、いつの間にかカップは満たされていた。

この館には光よりも速く動けるというメイドがいるので、恐らく彼女の手によるものだろう。

しかし、この静かな時間は嵐の前の静けさだった。

テーブルの上に置かれたカップがカタカタと震え、振動は次第にドアを揺らすほどの大きさとなる。


「どうやら鼠が妹様に引っかかったようね」

「あの、行かなくて……」

「ひき肉になったり黒コゲになりたくなければ、もう少し大人しくしてなさい」


彼女いわく、メイドや魔女相手の手加減も、生身の一般人が食らえば安全は保障できないらしい。

自分も挽いて、捏ねて、加熱されてディナーの一品になるわけにいかないので、図書館でプチ籠城を決め込む。


しばらくするとドアが開き、ボロボロになった少女たちが入ってくる。

幻想郷でも有名な盗っ人魔女、霧雨魔理沙と幽閉吸血妹、フランドール・スカーレットだ。


「やれやれ……六枚落ちとは私も腕が鈍ったか?」

「あー、楽しかったぁ!」


ほがらかな顔で談笑しているが、服や帽子の端が焦げている。

彼女たちは先刻までごっこ遊びとはいえ、業火やレーザーを雨のように撃ち合っていたのだ。

それを弾幕ごっこで済ませる感性は今になっても理解できない。


「あらあら、随分と汚してくれたものね?」


やれやれと言った表情で入室するのは前々から述べていた瀟洒な万能メイドだった。

彼女がパチンと指を鳴らせば二人の汚れた服は小洒落た部屋着になり、乱れていた髪までセットされる。


「サービス旺盛なのは良いことだが、このヒラヒラした服は趣味が悪いんじゃないか?」

「その服なら館内を勝手に徘徊して物色することもないでしょう」


どうやらサービスではなく保険の類だったらしい。

いくら魔理沙が弾丸乙女だったとしても、この服で動き回るほど礼儀には欠けていないはずだ。


「それと○○様、そろそろお嬢様の部屋に顔を出さないと厄介なことになりますよ?」


どうやらこっちが本題だったらしい。

俺は本の片付けを小悪魔に任せて、早々と部屋の外に出る。

廊下は所々で焼け焦げていたが、俺にそれを気にする余裕は無かった。




窓の少ない紅魔館では日の傾きで時間を計るのが難しいのだが、どうやら今回は大幅な遅刻なようだ。

確証はないが、昼間のうちに着いたのに夕食時と言える時間に家主へ挨拶に向かうのだから、恐らくは遅いのだろう。


「女を待たせるなんて紳士の振舞いではないわね?」

「日本でも有数の武人は大切な決闘の際に相手を待たせたという逸話があったらしい」

「うちの武人は門番で充分だよ」


武蔵殿へ、どうやら俺に言い訳の才能は無いらしい。

しかし、思えばこれほど遅刻した経験は無かったりする。

彼女の顔を見れば意地の悪そうな、それでいて楽しそうな小悪魔の色が見えた。


「この埋め合わせは、期待してもいいかしら?」


どうやらプライスゼロの謝罪では済まなそうだ。

お手柔らかに、と頼んだところで本日の談話がはじまった。

ブックオフに行ったら読みたかったマンガが各巻100円でコンプ。

作者には悪いのだが、今は東方関連以外を新品で買うほど財布のひもが緩くない……

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