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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
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マミトーレRe03

アリス・マーガトロイド

魔法の森に住む魔法使いで、主に人形を操る魔法を使う。

一人を好むが人見知りという訳ではなく、人形劇を開いたり、森の遭難者を助けたりと根は親切なようである。

もう、何度目になるだろうか。

私は地面に降り立って人里の入口を通り抜ける。

私が魔女だということは人里でも知られているし、人形を操ったり、空を飛んだりすることも周知のことだ。


だが、だからと言って節操無しに動いていいわけではない。

理由が無いのに里に長居をするつもりはないし、里の空を無暗に飛ぶことはしない。

そんな事をして騒ぎになれば面倒で、得るものは無いのに失うものが多すぎる。


力のあるものは紳士的に振舞う。

力があるものは自らの行いが何を引き起こすのか分かっている。

力をもつものなら上の立場で好き勝手に生きるよりも、対等な立場で接した方が手っ取り早いと知っている。


それが出来ない妖怪は巫女なり魔女なりに撃ち落とされるだろう。

もっとも、私は撃ち落とされずに返り討ちする側になるつもりだが。


人里の入口から大通りのわき道に入り、長屋のある場所を目指す。

そこは外来人長屋と呼ばれている。

幻想郷で成功を収めた外来人が同胞のために作った長屋で、入居者は外来人や外来人の家族が基本だ。

決して豪華で綺麗な造りではないのだが、プライバシーの保護や話の通じるものが集まってくるということで、外来人にとっては人気の住居である。


私の商談相手も外来人長屋で暮らしている。




私が彼の作品を見たのは人里の小物屋だった。

その小物屋では普通の小物以外にも魔法や呪術で使える小物が置いてあるのだが、彼の作品は一目で気に入った。

技術やデザインについては甘いのだが、私が求めている技術を見事に組み込んでいた。

以前に人里の職人に頼んだことはあったのだが、その時は細かい部分を勝手に解釈されてしまった。

丁度、諦めて既製品か自作で済ませようと思っていた所だったのだ。


私は店主に作者を聞いて、直接会いに行った。


自警団から出て来たのは不愛想な男だった。

仕事か私情か、彼の顔にはいくらか痣が出来ていた。

てっきり荒っぽい性格かと思ったが、私に対する態度から荒さは感じられなかった。


私は彼に質問をして、彼の技術が条件を満たしていると判断した。

店主から聞いていたのだが、どうやらトラブルに巻き込まれて金銭難のようだ。

私が出せる金額も大したものではないのだが、提示した金額は彼にとっては充分だったらしい。


彼の仕事は回を重ねるごとに上達していき、いつしか自警団を辞めてもやっていけるのではないかと思うほどに成長していた。

だが、彼は自警団を辞めることはなかった。

自分の腕に対する疑いか、あるいは職人という不安定な仕事より自警団の仕事の方が安心できるのか。


別に彼がどんな仕事を選ぼうが興味はなかった。

彼は小物屋へ納品する仕事は止めて、私の仕事に専念してくれている。

必要なのは私の要求に対して忠実な仕事をすることだ。


そんな関係が続いたある日、残念な話を耳にする。

彼が大怪我を負ったのだ。

ほとんどの怪我は永遠亭によって治療されたが、指先だけはどうにもならなかったと聞いている。

もし、それが本当なら彼に仕事を頼むことが出来ないかもしれない。

私は彼の長屋を訪ねることにした。




「そういうわけだ……すまない、アリス」

「仕方ないわよ、その指じゃ」


私を出迎えた彼の様子は変わっていないが、指先には包帯が巻かれていた。

ちゃぶ台の前に座ったり湯呑を掴む際に物に触れるのだが、彼の指はその度に一瞬だけピクリと止まった。

結局、彼の指は以前のような繊細な動きが出来るほど回復せず、私からの仕事は打ち切りとなった。

彼ほどに私の注文に忠実な仕事をする者がいなかっただけに、ひどく残念である。


「おお、客が来ていたとは気付かなんだ」

「お構いなく、そろそろ帰るわ」


奥から出てきたのは彼の妻だ。

最近に祝言を上げたばかりで、よく気が付く良妻だと彼自身が惚気ていた。

これ以上、話すこともなかったので帰ろうとするが、彼の妻が里の入口までついていく事となった。




「もう、お前さんの仕事を受けることは出来んだろうが、旦那と仲良くしてやってくれ」

「彼とは友人のつもりよ、それよりも……あんたでしょ、仕組んだのは」

「さて、何の話かの?」


流石は狸、とぼける仕草は様になっているが私は真相に辿り着いている。


「彼の怪我、実は私も翌日に見ていたのよ」


彼は全身に怪我を負っていたが、一つだけ気になったことがある。

指の怪我が執拗なものであるのに対し、体の怪我は凄惨に見えるようにつけられただけで後遺症などは一切残っていないのだ。

まるで、誰かが彼の指だけを狙ったかのように。


「ほほう、それは恐ろしい話じゃの」

「それともう一つ、あの場所に居酒屋なんてなかったわ」


私も友人が襲われた以上は危険な場所を野放しにするわけにもいかず、例の居酒屋を見に行った。

しかし、そこにあったのは今にも崩れそうなあばら家だった。

騒ぎを起こしたのが公になって店を畳んだのかと思ったが、厚く積もった埃はそれを否定した。

さらに二つほど、ハクタクと医者の証言だ。


『そんな騒ぎがあったのか?』

『そんな患者は診てないわ』




「それはそれは、奇怪な話よ」


あくまで白を切るつもりらしい。

話に夢中になって、気が付けば里の入口まで来ていた。

そんなに長く話した記憶はないのに、私まで狸に化かされたか。

そう思っていた時だった。


「それで、だったらどうする?」


狸の瞳が私を捉えていた。

彼の部屋で見た時の人懐っこさのない、まるで外敵を見るような生々しい目をしていた。

だったらどうする、彼女はそう聞いてきた。

しかし、私にどうにかすることは出来なかった。

彼と彼女は本気で愛し合っている。

それは、二人の様子を何度か見ている間に確信したことだ。


「……どうもしないわ」


私は踵を返して人里を後にする。

狸に飽きて捨てられたのなら、彼の愚痴にでも付き合ってやるのだが、この様子では彼が天寿を全うするまで続くだろう。

ならば良い夢を、私が心の中で呟いたとき、生暖かい風が人里を駆け抜けた。

基本的に加筆部分以外は大して変わってないので、加筆が多いと元の文との差があるかもしれない

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