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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
11/36

マミトーレRe02

二ツ岩マミゾウ

外の世界から来た化け狸でも強大な力を持つ。

賢く柔軟な考えを持ち、現地の妖怪の間や人里の一角などの幅広い場所で馴染んでいる。

夕方、知らぬ間に合鍵でもこさえたのか、マミゾウは俺の部屋に勝手に上がり込んでいる。

夜逃げを防ぐためだと当人は言っているが、その割にはなぜか夕食を用意して待っている。

まあ、そのおかげでフラフラと飲み歩くこともできず、結果として余分な出費は減らせているのだが。

マミゾウの作る食事は家庭的だがバリエーションが豊富で、自分の食生活はちょっとした食堂並みに豊かになっていた。


借金取りとは言え、彼女には感謝している。

その恩を返すにはどうすればいいかと以前から考えてはみたが結局のところ借金を早めに返すしかなかった。

そして自警団と副業の稼ぎを合わせても、まだ長い時間が必要だった。

そう、昨日までは。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……なんじゃ、これは?」

「借金の返済だろ」

「これは、ちと払い過ぎではないかの?」


俺が今日返済した金額、それは前回の返済額に比べて数倍に増えていた。

もちろん、強がったり無茶な切り詰めはしていない。

俺は数日前の出来事をマミゾウに話した。




「あら、私のことを知っているのね?」

「稗田の本と、それに人形劇も見かけました」


応接間なんてものは本詰所にしかなく、仕方ないので近所の茶屋に移動する。

今の俺にとっては茶の一杯でも懐が痛いので、客人への対応ということで経費で落ちてほしいものだ。


「なかなか、いい雰囲気のお店ね」

「え、ええ、そうですね」


知らんがな。

洋風のお嬢さんが和風の湯呑に口をつけているのに、少しもおかしく感じない。

どうやら、美少女とは何をやらせても様になるようだ。

しばらくして彼女は手持ちのカバンから何かを取り出す。

その何かに俺は見覚えがあった。


「これ、あなたが作ったのね?」


俺の作った木彫りの護符だ。

彼女は俺の腕について色々と質問を投げかける。

一つ作るのにどれだけ時間がかかるのか、木以外の材質でも作れるのか、どこまで細かい装飾が施せるか。

質問を終えた彼女はカバンから何かの図面と木片を取り出して俺によこした。

一週間でこれを仕上げてほしい、と。


結果から言えば、仕事は達成した。

今までの護符に比べて手順は増えたものの、時間に余裕がある注文だったので充分なものが出来上がった。

彼女は出来上がった護符を見て笑顔を浮かべた。




「まあ、そんなことがあったのさ」

「なるほど、そういうことか」


アリスとの契約は続いている。

最初は彼女も人里の職人に頼んでいたようだが、細かい注文が通らなかったと愚痴をこぼしていた。

週産一つというペースだが、彼女からすれば注文通りの品物が出来上がるほうが重要らしい。

とにかく、双方が得する仕事とは良いものである。


「そういうわけだから、夕飯とか気を使ってくれなくていいぞ」

「なんじゃ、急に?」

「これからはアリスとの打ち合わせも兼ねて外に食べたり遅くなったりするからな」

「別に儂は気にしておらんぞ?」

「俺が気にするんだ」


仕事のこととはいえ美少女とともにディナーとは世の中、捨てたものではない。

しかし、どうやら鼻の下でも伸びていたのか、マミゾウは不機嫌そうに突っかかって来る。


「外食なんぞ続けていたら体を壊すぞ?」

「コンビニ生活に比べたら充分に健康だ」

「急に羽振りが良くなると詐欺にでもあうぞ?」

「今回の件で金に纏わる話は徹底的に断っているよ」


「また、やくざ者に絡まれても知らんぞ?」




熱い、体中が痛い……

今更になってマミゾウの忠告をしっかり聞くべきだったと後悔する。

後悔先に立たず……俺はアリスと別れた後、帰り道でやくざ者に拉致された。


俺自身が何をしたのか見当もつかない。

連中は日本語とは思えないような滑舌の罵詈雑言を浴びせ、俺をひたすら殴り、蹴りつけた。

口と鼻を負傷したためか呼吸もままならない状態だが、この期に及んで俺は冷静だった。


いや、自分の不幸っぷりに呆れていたのだ。

マミゾウに助けられた命は、こんな場所で呆気なく終わるのかと思うと情けなくも感じる。

その時だった……


「見つけたぞ」


ボカン、と何かが破裂する音が聞こえた。

そちらの方に視線を向けると、やくざ者たちが盛大に吹き飛んでいた。

声のする方を見ると、そこには大きな尻尾の生えた女が立っていた。

そして、俺はその女を知っている。


「……っ?」

「喋らんでいい、口の中を切っておる」

「そこ、何事だ!!」

「やくざ者に絡まれた知人を助けただけよ」


マミゾウとは違う、女の凛々しい声が響く。

あれは寺子屋の教師にして歴史家、半人半獣の賢者だったか。

そうこうしている間にマミゾウは俺を軽々と抱き上げた。


「こいつを医者に診せたいから後始末は任せるぞ?」




俺はマミゾウにおぶさりながら永遠亭を後にする。

やや高めな薬を使ったものの、体の怪我は数日も経てば完治すると言われた。

しかし、指の怪我だけはどうにもならなかった。

そんな自覚はなかったのだが、俺の指は神経の繋がりすら危ういほどに痛めつけられていた。


「しかし、借金取りが化け狸とは驚いただろう」

「……すまない」

「……何の事じゃ?」


マミゾウは恍けているが知っているはずだ。

俺の指は一生、まともに動かないかもしれない。

そうなったら一番の稼ぎであるアリスとの契約を破棄しなければならない。

そうなったらマミゾウへの借金の返済がどれだけ続くのだろう。

そうなったら俺はマミゾウをどこまで待たせればいいのだろう。

俺は上手く動かない口で延々と呟くが、マミゾウから返されたのは意外な言葉だった。


「儂がどんな気持ちで夕餉を用意したか、お前さんには伝わらんかったかの?」

「マミゾウ……?」

「儂も女じゃ、あまりそういうのを語らせるでない」


これは自惚れなのだろうか、それとも狸に化かされているのだろうか。

まさか、女の背中の上でこんなことを言われるなど思ってもいなかった。

今ならわかる、俺がどんなに彼女に思われていたのか。

この瞬間までも俺に痛みを感じさせないよう、彼女は体を揺らさないように歩いている。


「マミゾウ、俺は……すごく情けないことを言う」

「…………」

「こんな状況だけど、でも、俺は今すぐに……」

「……言うてみ」


「マミゾウ、俺と一緒になってくれないか」

知人がLINEで色々な場所に行ってると報告をくれるのだが……どっか旅に出たいなぁ

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