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ゲンソウトーレ  作者: 黒須
10/36

マミトーレRe01

人間の里

幻想郷の人間にとって数少ない安全地帯。

為政者はいないが最低限の規律や名家、自警団が存在する。

里を訪れる妖怪もいるが大抵は紳士的である……こちらが手を出さない限りは。

14時間前、午後5時

幻想郷の山々に夕日が差し掛かる。

季節は初夏、ヒートアイランドなんか無縁な幻想の世界でもジワリと暑さが滲んでいた。

梅雨が明けてまだまだ空は明るいものの、それでも横から突き刺さる日差しは季節の夕時のものである。

寺子屋を終えた子供たちは遊ぶだけに限らず、親の手伝いをしたり、店番で小遣いを稼いだり、様々に動いている。

そろそろ、俺の仕事も終わりだ。

今日は休日前であり、自分と同じ日に休む同僚も気分が浮ついている。


「おい、今日はどうする?」

「どうするって、何がだ」

「馬鹿だな、今日は給料日だぞ」


給料日なんて言葉遣いをする辺り、彼も外から流れ着いた者である。

外の世界に比べて幻想郷の懐事情は中々に薄いが、同時に懐から出る数が少ないので、必要なものだけに手を伸ばしていれば遣り繰りは出来たりする。

しかし修行僧でもなければ聖人でもない我々は、必要以外のものに手を伸ばす。

働けど暮らしは楽にならず、楽しみのない暮らしなぞ有りはせんのだ。




12時間前、午後7時

俺は件の同僚とともに大通りの片隅の居酒屋に来ていた。

同僚が言うには大した味ではないらしいが、味覚に自信のない俺にとっては安くて落ち着く大衆酒場だった。


「俺が思うにはな、こんな店でちびちびと飲んでいるようじゃ駄目なわけでな」

「…………」

「すんません、川刺し一つ追加」


今宵の同僚は舌にワックスでも掛けたらしい。

滑りに滑る発言に目を光らせる店主が怖いので、あえて高価なツマミを頼む。

なに、少しばかり奴の財布から多めに出すので俺は平気だ。




10時間前、午後9時

俺が弱すぎるのか、同僚が強すぎるのか。

泥酔した同僚を一時間ほど寝かせただけなのだが、まるで不死者のごとく復活した。


しかし気分がハイなのは変わらないようで、店を変えて飲みなおすと言い出した。

酔っ払いの癖に何処にそんな力があるのか、酔っ払いだから力加減が馬鹿になっているのか。

支払いは全て任せるという条件を引き出して付き合うことになった。

まあ、どうせ俺も払うことになるのだろうが。




7時間前、午前0時

持つべきものは友とはよく言うが、馬鹿な友はバッサリと切るべきだと思う。

俺たちの目の前には大勢のやくざ者たちが並んでいた。

俺は悪くない、悪いのは奴だ、奴とは居酒屋で知り合った赤の他人だ。

……という言葉に耳を貸すような連中ではなさそうだ。


俺の目の前にはサイコロが置かれ「振れ」と無言の命令が重く圧し掛かる。

事の始まりは二件目の居酒屋にて、同僚がサイコロ賭博で負け無しと豪語したことからだ。

同僚が言うには二件目の居酒屋は一軒目に比べて美味いが客の柄が悪いらしい。

結果は見ての通りである。

奴は放心して涙も鼻水も駄々漏れである。

生きて帰れたら絶対に一発叩いてやろう。




0時間前、午前7時

目が覚めたら、ねぐらのボロ長屋の布団の中だった。

顔や体が所々痛む辺り、やくざ者から相当に乱暴な扱いを受けたらしい。

とりあえず布団から這い出してみるが、それにしても妙な話だ。

殴られたり蹴られたりはしたのだろうが、そのまま自分の部屋に帰れるとは思っていなかった。

回らない頭で必死に考えてみるが……


「おや、目が覚めたかの?」


聞きなれない女の声に邪魔された。


「さて、やる事もなかったから勝手に台所を使わせてもらったぞ?」


目の前に広がるのは質素ながらも見事な朝食である。

目の前にいる謎の女が出したのでなければ素直に喜ぶのだが、俺はそこまで太い胆を持ってはいない。


「えーと……失礼ですが、どちら様で?」

「なんと、命の恩人を忘れるとは太い胆の持ち主じゃて」


どうやら俺の胆は太かったらしい。

しかしこの口ぶりからすると、どうやらやくざ者から俺を救ったのは彼女らしい。

もっとも、でっち上げた恩を吹っ掛ける詐欺でなければの話だが。


「儂は金貸しのマミゾウ、やくざ者には儂のほうから色々と積んでおいたから心配するでないぞ」

「ボラン……慈善事業というわけじゃないんだろ?」

「ぼらんてぃあで済ますには、ちと高くついたからの」


そう言ってマミゾウは帳簿を開く。

一、十、百、千、万、億、兆、無量大数!!

俺の目玉は帳簿の金額にロックオンされて頭の中でほら貝が鳴り出した。

……と言うのは大袈裟な気もするが、とにかく俺の稼ぎからすれば遥かな大金が記されていた。

詐欺だと疑ったらなおさら払いたくない金額である。

まあ、どんな金額でも詐欺はごめんだが。


「疑っているかの?」


どうやら顔に出ていたようだ。


「そうじゃの、ならば今夜は件の店の近くを通ってこい」

「安全に帰って来れたら話はついていると?」

「来れたら、でなく来れるんじゃがの」


なんだか狐狸妖怪にでも化かされてるのではないかと思ってしまうが、このまま居座られても面倒だ。

化かされついでに試すのも悪くは無かろう、そう思いながらも朝食に手を付ける。


「ん、こいつは……」

「口の中が腫れてると思って、冷や飯と温い汁にしたぞ」




結論から言えば、マミゾウの言うことは本当だった。

わざわざ遠回りで居酒屋のある道を通り、更にはやくざ者の隣を通り過ぎたのだが何事もなく家に辿り着いた。

疑ったことに謝罪してはみるが、一つだけ残った問題があった。


「なるほど、それで木彫細工の内職か」

「それくらいしか思いつかなかったんだ」


自警団の仕事とは、忙しいときは恐ろしく忙しく、暇なときは恐ろしく暇なのだ。

しかし仕事を投げ出すわけにもいかず、自警団の稼ぎにプラスαを加えるとしたら手先の内職しかないのである。

最初はそんな都合のいい内職があるとは思ってなかったが、実は意外とあったものだ。


巫女や魔女のように目立ちはしないが里には妖怪退治を生業とする者がいる。

そういった者たちが木彫りの護符を求めるのだ。

もちろん里には腕のいい職人もいるのだが、そういった護符は高価なことが多い。

詰所で待機している間に僅かでも稼ぎを増やす、そこだけを狙ったから出来た儲けなのだ。


「しっかし、よく出来たもんだな?」

「ノルマのある仕事じゃないからな」


記憶喪失ではあるが意外と器用に手が動く。

もしかしたら、外の世界ではそういった趣味や仕事を持っていたのかもしれない。


「失礼、少しいいかしら?」


突如、詰所に響く女の声。

せっかく道具の刃がのってきたのに、渋々と入口を見る。

そこにいたのは美しい少女だった。

煌めくブロンドヘアに整った顔立ち、見た目はスラリと通っているが仄かな色気を纏っている。

彼女のことは幻想郷縁起に書かれており、自身も姿を目にしている。


アリス・マーガトロイド、人形繰りの魔女である。

オリジナルを執筆中といったものの中々に難しい

書ける人ってほんとすげーや

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