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勧誘される『色欲』

「まぁ、話を要約するとキミは道端に落ちている十八歳未満閲覧禁止の本を読もうとして背後から襲われたわけだけど――」


「いえ、読もうとしていたのではなく持ち帰ろうとしていたのですけど……」


「襲われたということだけど!」


「はい」


 僕の訂正はあっけなく却下された。

 なんだよ、アンタ。編集者かよ。そんなにバッサリ切らないでくれよ。


「それ以前にキミはその光景と似たようなものを見てきたんじゃないかな?」


「似た光景……?」


 そりゃあ、数多くの名スポット(エロ本のよく落ちている場所)を押さえている僕にとっては日常だけれど。それだと何度というか何十回も見てきた。


 中学の同級生、仏頂面で有名な隣のクラス委員長、ついたあだ名は「石仮面」こと岡崎くんと偶然出くわした時はお互いが石みたいに固まってしまったのはいい思い出だ。

「石仮面」なら「UREEEEEEEEEEE」くらい言えよ。


「ほら、あの場所で落し物があったことってない?」


「……ああ、そういえば前にも一度ありましたね。確か入学式に見かけましたよ」


 あの時はちょっと他に用事があったし、一斉下校だったので周りに生徒もいたりしたので、ちょっと持ち帰るのには抵抗があったので、さりげなく拾い、あたかも『汚らしいモノが落ちていたので拾ってゴミ箱に捨てようとしている』体を装い、後日観賞できるように雨風凌げそうな道の脇に置いたのだった。次の日の朝確認したら、見事になくなっていたので後悔しまくったのでよく覚えている。


「そういえば、あの時とさっきの本の落ちていた場所は一緒でしたね」


 ということはあの場所はそういう場所なのだろうか。いわゆる名スポット。楽園、エデンとも言う。


「いや、その一度だけじゃないでしょ? その……他にも色々おちてたんじゃないか?」


「……?」


 他にも色々……?

 僕は考える。

 考える、という言葉からなんとなく「人間は考える葦だ」という有名な格言を思い出したけど、それは関係なさそうだ。関連して「考える脚」っていう単語とスカートの女性が足を組んでいるイメージが頭の中に浮かんできたけどこれも関係なさそうだ。関係はなさそうだけど、もうすこし詳しくイメージしてみようかな。色々と捗るので。


 とか、考えていたら突如脳裏に一昨日の光景が思い出された。


「そうだ、ストッキング」


 一昨日、僕は楽園でストッキングを拾ったのだ。


「そうだ、靴下も」


 先一昨日、僕は楽園で靴下を拾ったのだ。


「それに、髪留め」


 三日前、僕は楽園で髪留めを拾ったのだ。


 その前は美少女キャラのフィギュア、その前はグラビア雑誌、その前は壊れたリコーダー。思えば入学式から向こう七日間、毎日何かしらのお宝を拾っている。


「これは……なにかがおかしいっ!?」


「今の今まで気がつかなかったの……」


 もう完全に呆れられてた。

 その可愛らしい小さなお口があんぐりと空いている。

 あんぐりと形容はしたもののやっぱり小さなお口なのでピンポン玉も入らないくらいの大きさだけど。

 先輩の可愛らしい口に目一杯甘栗を放り込みたい衝動に駆られたが生憎持ち合わせの甘栗がないので断念した。


 さておき。

 なにかがおかしい。

 これはゆゆしき事態だ。


「先輩……」


「やっとわかったみたいね。そう、あの肌着や雑誌類は全て私が部員適正を見極めるために――」


「まさか、あの場所は多感なお年頃の少年の願いを叶えるパワースポットじゃないでしょうか。あの路地で南南西の方向を向いて願い事をするとそれが叶ってしまうという伝説の――」


「あれは私の手によるものよ!」


 僕の仮説は言い終わるまでもなく、見るも無残に打ち砕かれた。


 なんだ……伝説のパワースポットじゃないのかぁ……。

 今日の帰りは『ギャルのパンティをおくれ』という某国民的マンガ最初にして最高の願い事を叶えてもらおうと思ったのに。パフパフでも良い。


 ………………


 …………


 ……こほん。


「しかし、それにしてもなんでまたあんなことを?」


 普通に考えたら、先輩には何の得もない。


「さっきも言いかけたんだけど、あれは私が部員適正を測る為に設置したの」


 ずーん、と腕組みして仁王立つ先輩の胸が強調されてけしからんがごちそうさま。


「そういや、さっきから部活部活言ってますけど、結局先輩の入ってる部活ってなんなんですか?」


 もし、本当にあれらの宝物が春茜先輩からの施しだったとして、それが活動内容に繋がる部活というのは一体なんなのだろう?


 行動原理なんちゃらとか人間関係なんちゃらとか漢字四文字+なんちゃらのような堅苦しい感じの部活なんじゃないだろうか? なんちゃらとかちゃんちゃらおかしいな。

付属高校なので大学と一緒に行う部活動などもあるし、そういうタイプの部ならば有り得ない話じゃない。

 そういう部だったら、流石の僕もお断りするしかないだろう。

 いくら超絶美少女がいる部活に入部したところで全く内容がわからないのであれば、活動する意味がない。

 

 まぁ、ぶっちゃけ、そんな小難しそうなことをやっている部活に先輩以外に可愛い女子生徒がいる気配が感じられないのでやる気がでないというのもある。先輩しかいない、というのなら話は別だけど。


 即物的で俗物的なのだ、僕は。


 しかし、そんな僕のやる気のなさとは真逆に、先輩は「よくぞ、聞いてくれました」とでもいいたげに胸を逸らし、自信満々にこう答えた。だから、そのけしからん胸をどうにかしてくれないと僕がどうにかなっちゃうのでとりあえず揉みたい。


「私達の行う部活動はね、大罪部っていうの」


 これがマンガだったら背後に「どーん」とか「ばーん」とか「ちゅどーん」とかいう擬音が出てきそうだけど、生憎現実ではそうもいかなかった。っていうか「どーん」とか「ばーん」という擬音はその先輩の胸部にあるもののおかげで間に合ってる気がする。とりあえず揉みたい。揉みしだきたい。

テレビのバラエティみたいに笑い声や歓声を編集して組み込むなんてこともできないので、僕が無言で無反応である以上、教室内は沈黙に支配された。

 タイミングよく、野球部だろうバッティングの音がかすかに聞こえた程度だった。

 もっと快音を鳴らせよ、野球部。

 そんなんじゃ南ちゃんを甲子園には連れてけないゾ(注:南ちゃん……野球部顧問。某野球漫画のヒロインの名前とかけてこう呼ばれるが、その正体は40過ぎの筋肉質なおっさんである。南は名字)

 しかし、僕の願いもむなしく、その後も効果的な音声は一向に聞こえてこないので仕方なく僕が対応した。


「タイザイ部ってどういう字を書くんですか?」


「大きな罪の部活って書いて大罪部よ」


「うわぁ……」


 その時点でもうあまり良い印象は持てなかった。


 基本的に部の名前やクラブの名前はわかりやすいものだ。大抵は行う競技名なんかを持ってくるし、そうでなくても見ただけでわかるのが多い。野球部なら野球をやるし、演劇部なら劇で演じる。

 世界を大いに盛り上げる女子高生の団なら、とりあえず世界を大いに盛り上げるのが目的なんだろうと察しがつく。

 けどこれは何だ?

 大罪部。

 大罪なんてスポーツはないし、大罪なんて活動はない。

 大きく罪ればいいのだろうか?何だよ「罪る」って。

 罪る、罪れ、罪る時、罪れば、罪れ、罪ろ。ラ行変格活用。

 つみれとか予測変換じゃあ、漢字変換すらできないじゃないか。

 仕方がないので、また僕は質問する。


 美人と関わって、こんなにいやいや会話をするのは初めてだ。いや、美人と関わること自体そうないんだけど。そもそも女子との交流がほとんどない。おいやめろ。現実こっち見んな。


 本当に数多くの初めてを春茜先輩に奪われてしまったが、気がつけば本当にどうでもいい初めてばかりだった。肝心の「僕の奪って欲しい初めてランキング」上位にランクインしている初めてには手を出す気配がない。割と大安売りしているのに、だれも買ってくれないので正直持てあましています。……誰か助けてくれないかなぁ。


「で、その大罪部とやらは何をする部活なんですか?」


「好き勝手にやる部よ」


 明朗快活に先輩は即答した。


 ……いやいや。


「答えになってませんよ」


 だったら『好き勝手やる部』とかでいいじゃん。


「というか、そういうのってアニメやマンガなんかだとよくありますけど、実際はそんな部活がまかり通るわけないでしょう?」


 何かしらの実績を出さなくては。そもそも名称から活動内容が一切読み解けないようなものを学校側が承認するだろうか。

 ぼくがそう指摘すると、春茜先輩は白魚のような手を顎に添えて「ふむ」と小首を傾げる。


 そして、頭の中でまとめおわると僕へと視線を戻して説明を開始した。



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