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煩悶する『色欲』

「まぁ、本日の目的はコレを伝えに来た、とでも思って貰えればいい。またしばらくは来れない日々が続くかとも思うが頑張ってくれたまえ」


 そして、ハッハッハと高笑いしながら、部長こと咲野凛太郎は軽やかにソファから身を起こして、背景に薔薇を散らちながら颯爽と部室を後にした。

 部屋に残ったのは三人の部員と微妙な空気。

 一呼吸置いて、僕はため息代わりに一言。


「嵐のような人だった……」


 この人と二人きりで部活をしていた先輩がやつれるわけだ。

 げっそりとした僕が口を開いたのにと呼応してこゆる先輩も部長の評価を下す。


「毎回、あんな感じで適当に自分を賛美して、適度に他人を評価して、適切に真摯な対応をして、適確に必要なことをいって自分が満足したら勝手に帰るから扱いに困るのよ……」


 ただの馬鹿なら、私もただ迷惑がるだけですむのだけど……、とこゆる先輩は幸せを漏らすように溜息を吐いた。その溜息、是非僕に向けて発射してほしいとおもったけど、そんなことを云える場面じゃなかった。


「確かに、言っていることのほとんどは無茶苦茶でしたけど、中には重要そうなことも言っていましたよね」


 主に部の活動内容についてだけだが。伝えたいことはしっかりと言葉にしているし、逆に守るべきところ、喋るべきかどうか迷う部分についてもちゃんと伏せているようだ。そのあたりもキチンとしているようだった。

 だてに生徒会長とこの部の部長を兼任してはいないということか。


「部長やって生徒会長ですよ、凄いですね」


 肩書きだけ見れば、だが。

 そう思い、同意を求めるも、先輩は「そうかしら?」と首を傾げていた。


「そうでもないと思うわ」


「そうですか?」


 充分、凄い気がするのだけど。もしかしてこゆる先輩も何か似たようなことをしているのだろうか?

 そう考えたりもしたが、続くこゆる先輩の台詞でその理由は明らかになった。


「ここ三年間、毎年生徒会長は大罪部の部長が勤めているから、私としてはあまり凄いという実感がないわね」


「へ?」


 あまりに予想外の言葉に僕は普段より2オクターブ高い「へ?」を出してしまった。

 ここ三年、生徒会長と部長が同じ人間?

 そんなこと本当に有り得るのだろうか?


「一応、聞きますけど、一年の時から部長が会長と部長をやっていたとかアニメにしかないような設定じゃないですよね?」


「勿論、そんな馬鹿げた話があるわけないじゃない。それに生徒会長の任期は彼らが三年生の時だけど、実際に選挙によって選ばれるのはその前の年なのよ?」


 そうか。つまり三年前に入学した一年生である咲野部長がその年の生徒会長になることは不可能だ。


「ってことは毎年、別々の生徒会長がこの部から選出されているわけですね」


 それはもうなんていうか。

 確かに凄い。単純な確率論でもないわけだし。いや、確率だとしてもそれはそれで凄いけど。

 それだけ人に影響を与えられる人材がこの部には揃っているということか。そうなってくるとますます部長の話にも真実味というか現実味が帯びてくる。


「というか、そもそもが生徒会長のためにあるような部活だからね」


「?……どういうことです?」


「まぁ、それはおいおい話すとして……兎も角、今日はこの辺でお開きにしましょうか。芽吹ちゃんには私から連絡を入れておくから帰っていいわよ。さぁて、それじゃ二人とも、また明日」


 そういって、自身の発言を軽く流し、先輩は強引に今日の部活をお開きにした。

 もうこれ以上は何も言わない、とでもいうように先輩は手にした分厚い本へと視線を落とす。先輩は帰らないのか、と思ったりもしたが、後に聞いた話だと先輩はいつも部員全員が出払ったあとに戸締りを確認してから帰るらしい。

 風雲急な本日の部活動終了に釈然としないまま、僕らは下校することになった。








 帰りも梅と一緒だ。

 が、流石の僕も帰路で同級生をおんぶは無理だった。

 そもそも校内で耐えられなかったのにより多くの人に見られる通学路とかたまったものじゃない。いや、それならばイチャイチャしているカップルに見えるだけかもしれないけれど、無理なものは無理だ。

 これじゃあ、まだまだ「色欲」名乗れないぜ!


 なので、帰り路は普通に手を繋いで帰った。


 ……え? 普通じゃないって? 何いってんだよ。手を繋いで帰るとか登下校の基本だろ? 小学校の時に教わっただろ? 集団下校とか。

 結局、周囲の視線が痛かったけど、それはしょうがない。それくらいの痛みは快感として受け入れる度量が僕にはある。何事も過ぎたるは毒、これくらいがちょうどよい。


「にしてもなんだか変な部活に入っちゃったなぁ……結局、具体的なことは何一つわかっていないし」


 今更だけれど、実際口にしてみると悲壮感というか不安で胸がいっぱいになる。

 部長の発言は中二的というか己を主人公だと勘違いしている人間の発言だと一蹴することもできる。傲慢というのが部長の持つ業なのだし、そういった雰囲気を確かに部長は持っている。


 けれど。

 そうやすやすと否定して良いとは思えないし、思わない。


 共感できることもあるのだ。全てが全てバカらしいとは思わない。ただ、真意や秘密は仕方がないにしてもこうも曖昧に尽きると疑わしく思えてしまうのはもうしかたのないことだと思う。

 信用、以前の問題。

 もう片足はすっぽりなので、いまさら部活内容が校則違反にあたろうがただ駄弁るだけの非生産的部活だろうがそこに頓着はしないけれど、もうすこし詳らかにしてほしい。

 でないと、僕も色々と気になって頭の中をぐるぐると思考のピースが舞うことになってしまう。

 ピンク色以外のことを考えるのはどうにも苦手なのだ。


「たから、あんまりきにしない」


 気がつけば立ち止まってた僕の頭にほんのり温かい感触がある。

 目を向けると目一杯背伸びをした梅に撫でられていた。僕の胸あたりまで身長で無理をしているので実際には指先が触れる程度ではあるけれど、その梅の指先はとても柔らかくて、繋いだままのもう一方の手から伝わる感触や、その距離感に思わずどきどきしてしまう。おい誰だ。手を繋ぐのが普通だとかぬかしたヤツ!? 最高の御褒美じゃねぇかっ!

 それで、ふと、僕は我に帰る。

 

「……そうだね、ありがとう梅」


 いまはまだ、考えなくてもよいだろうか。

 問題を先延ばしにするのは良くないというけれど、僕もまだ学生、それも高校一年生だ。もう少し現状に慣れるまでこのままでもいいんじゃないかと。

 そう、思えた。


「よし、じゃあここからは僕が梅の犬となって、四つん這いで帰ろうか!」


 もはや人目や噂を気にしている場合じゃねぇ! この感動を心に刻みつけるためにもぜひ梅にまたがってもらい、夕暮れの通学路をランナウェイだぜ!


「……たから、ひとめはきにしたほうがいい」


 そういって、頭に伸ばした手だけでなく繋いだ手まで離した梅。

 なんだよー。照れるなよー。

 無表情な梅が本気で嫌がっているように見えるのは錯覚だよ、きっと!


「――よ」


「ん?」


 不意に。

 僕らの背後の方で声がした気がして振り返った。

 姿はない。


「……? たから、どうかした?」


「いや、いま誰かの声がしなかった?」


「?」


 首を傾げる梅。

 ……ふむ。僕の聞き間違いだったのだろうか?

 まぁいいや。


「じゃあ、梅。四つん這いが嫌ならブリッジしようか? その方が僕も色々とお得な気がするし!」


「……もう、たからといっしょにはかえらない」


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