ようじょがあらわれた!
サブタイが熱血からかけ離れてる? 何、気にすることはない。
「オラァ、打てよォ!」
「ここで打てなきゃクビになっぞォ!」
男達の野太い野次が嫌に球場に響く。日本のプロ野球球団『ウェストサンダース』と『神田レンジャーズ』の二軍の試合。二軍戦にはそれほど人も集まらない。観客達のまばらな声の飛ぶその中で、サンダースの一塁側ベンチの隅で一人、選手が俯いて悔しそうに唇を噛んでいた。
『谷村 和樹』。かつて新人王を取り、ルーキーイヤーから二年連続で二桁勝利をあげ世間から“怪物”と称されながら、三年目のシーズンを怪我で棒に振り、復帰した四年目、そして五年目は二軍ですら良いピッチングをできない日が続いている。今日も今シーズン最後となった先発のマウンドを五回途中を六失点でKOとなっている。
打席に立っていた六番バッターが打球を打ち上げた。セカンドが手を上げた。試合が終わる。そして同時に谷村の今シーズンもまた、本人にとってまったく納得できないもののまま終わってしまったのだった。
「ハァ……」
溜息を吐いて、谷村は自分の住んでいるマンションの階段を昇る。夜中の一時を過ぎたこの時間、ご近所もすっかり静まり返った闇が谷村の憂鬱を一層掻き立てる。頭の中では今日の試合の自分の悪かったところが延々とフラッシュバックする。連打、フォアボールの連発、送りバント失敗。昨季、そして今季の谷村を象徴するような試合だった。
「もう駄目なのかなぁ、俺……」
心は折れる寸前だった。過去の栄光とかけ離れた現在の自分。その事実が彼の心を抉る。あの頃の自分のように投げることはもう出来ないのだろうか。監督やチームメイト、ファンに頼りにされ、そして自分自身が投げるボールを信じきることができた怪我前の自分。
今は違う。どの球を投げる時でも、心のどこかで自分の球を打ち返されるのではないかという恐れが顔を出すのが分かる。今まで人生で味わったことのないこの感覚は、谷村にとって屈辱そのものだった。
自分の部屋の前まで来た谷村は、部屋の電気が点いていることに気付いた。消し忘れかと一瞬思ったが、家を出る前にちゃんと確認した記憶がある。何となく嫌な予感がしてドアノブに手をかけると、容易く回った。鍵もしっかり掛けたことを確認した覚えがあった。
(まさか、空き巣に入られたか!?)
そんな疑念に駆られた谷村は、ドアを蹴飛ばさんばかりの勢いで乱暴に開けると、足音を立てて部屋の中へと入っていく。そして廊下を抜けて、リビングまで入ってきた谷村が目にしたものは……。
「ほえ?」
幼女だった。緑色の髪の幼女が、彼の部屋の冷蔵庫の中身を食い荒らしていたのだ。
「……えっと?」
この出会いが、彼の運命を(色々と)変えることになるとは、この時の困惑しきりの谷村には想像もできなかったのだった。
お久しぶり、又は初めまして、神護景雲です。
誰か見てくれてるのかも分からないけど、あらすじに書いた通りにのんびりまったり気ままに書いていこうと思ってます。
え? 熱血物じゃないのかって? 熱血ですとも。……多分、きっと。
それでは以降、宜しくお願いいたします。