Seen you〜親友〜
これは私がサークルで撮ろうと思った映画の原稿をSS化したものです
結局ロケ地が揃わなかったのでせめて小説にしようと思い書きました
雑踏で溢れる空港の到着ロビー。
年中人で溢れ、様々な人間が行き交う場所。
その大きなエントランスの隅で携帯電話に耳を付ける若い男がいた。
「なんで出ないんだよ…」
彼の名は柳川修治。たった今一年間の海外留学から帰ってきたばかりだ。
一年前、彼が海外研修に出発してからもちょくちょく連絡を取っていた本村彰正という幼 馴染がいた。
二人は小学校来の親友で、彰正今は旅行代理店に勤めいる。
結局呼び出し音の後に聞こえてくるのは録音されたアナウンスだけで、舌を打ちつつ携帯 をポケットに押し込んだ。
辺りをもう一度見回し、可能性は極端に低いものの親友の姿を探した。しかし当然見つか るはずもなく、ため息だけをその場に残し、修治は空港を後にした。
修治は一人暮らしをしている。特に田舎でもないが、かといって都会でもないところだ が、居心地はいい。
「…ん……?」
久しぶりに習慣となっていた郵便受けを確認すると、請求書の中に差出人不明の封筒が紛 れ込んでいた。
心なしか違和感を覚えるが取り合えず彼はそれもまとめて手に取り、一年ぶりの自宅へと 入った。
流石に一年も経つと埃臭さで部屋が満たされていた。その状況に何よりも先に窓を開け る。
新鮮な空気が室内に舞い込んだ。
深く深呼吸をすると肺の隅々まで行き渡る懐かしい空気に心が少しだけ安らいだ。
リラックスしたのも束の間、彼は携帯を確認した。が、そこに目当ての文字が並んでいる 様子はなかった。
「彰正…」
諦めて携帯を閉じ、傍らに放り投げると郵便物の束の上に着地した。
つい意識をそれに向けてしまった彼は怪しいなと感じつつも先ほどの封筒を取り上げた。
その表には修治の名前。それ以外は何一つ読み取れる情報はなかった。
「何だろう…」
おそるおそる封を切る。
そして中身を取り出そうと封筒をひっくり返すと、何かが滑り出て、床とぶつかり金属質 の音を立てた。
何処にでもある普通の鍵。ただ、建物の名前らしき文字の書かれたタグがついている。
「何だろ…」
封筒の中身をもう一度確認すると紙切れが静かに収まっていた。確認していなかったら確 実に灰と化していただろう。
それには地図がプリントアウトされていた。ぱっと見た感じ修治の知っている場所ではな い。そして隅には…
「彰正…」
彼の親友の名前がはっきりと記してある。
地図上には印。修治は考えることもせずに財布と携帯とアパートの鍵。そして郵便物を手 にした。
「…行こう」
地図の場所は自宅から半日ほどの場所にあった。思った以上に遠かったため、辺りは黄昏 色に染め上げられている。
印の場所にはコテージがあった。築5年くらいだろうか?そこまで古くはない。
手中にある鍵を見つめる。
だからといって何かが分かるわけではないのだが、何となく鍵を疑いたくなっていた。
本当にここに居るんだろうな?居なかったらへし折って危険物で出してやる。
そんなくだらないことで一度頭を落ち着かせた。
修治は一度強く鍵を握り締めると鍵穴に挿した。
徐々に鍵が飲み込まれ、シリンダーに備えられたピンが歯型を読み取る。
ゆっくりと捻ると、無機質な音を立て開錠した。どうやら本物だったようだ。
妙な緊張感に包まれつつもドアノブを捻って扉を開いた。
扉を開くと同時に室内に光が入り込む。しばらく使われていないのだろう。宙に舞う埃が はっきり見えた。
家具は必要最低限しかなかった。レンタルコテージなのだろうか。
しばらく使わないのを見越してか、扉はすべて開いていた。
「彰正…いるのか…?」
必然か偶然か返事はなかった。修治はおそるおそる中に脚を踏み入れる。
一歩床を踏みしめる度に埃が舞い上がり、床は軋む。
暗かったのは玄関のみで、他の部屋は窓からの光で、視界を確保できる程度の光はあっ た。
辺りを散策しながら進む修治。だが、何処まで行ってもそこにいるのは鼠と蜘蛛だけだっ た。
「ん……?」
部屋の一番奥。そこにもひとつ扉があった。
だが、唯一他と違うのは扉が閉じていることだった。
「彰正…?」
修治は改めて親友の名を問いかけるが相変わらず反応はない。
修治はそっと扉に手をかけた。
「修ちゃん…?」
ドアノブを捻ろうと力を入れたその刹那、何の前触れもなく扉の向こうから声がした。
そしてその声は紛れもなく親友の声だった。
「お、驚かすなよ! ったく、いるなら返事くらいしろよ」
「あはは、ごめんごめん」
一年ぶりの親友の声。その懐かしい響きは修治の緊張を解き解した。
そして修治はドアノブに再び手をかけた。
「開けないで!」
大人しい性格であるはずの彰正が声を張り上げる。それに驚き修治も動きを止めた。
「何でだよ…?」
「あ〜…」
しばしの沈黙が辺りの空気を重くする。
「まぁ気にしない方向で」
いつもの彰正だ…多少の変化はあって当然だ。もう一年も会っていない。それが笑いなが ら答える彰正に対する修治の正直な気持ちだった。
「まぁ別にいいけどさ。それより何で連絡よこさなくなったんだ?」
扉にもたれるように座り込む修治。意識だけを扉に向けた。
「それは…」
再び訪れる沈黙。だが、修治はそれをもう違和感と感じることはなかった。
「相変わらずなんだな」
笑いながら質問を取り消す。
「うん…もう変われないよ」
「え?」
聞き間違いだろうか。修治は期待していた返事と違うような気がした。
「そうだ、修ちゃんに渡したいものがあるんだ。そこに戸棚があるでしょ?中見てみて」
その違和感を取り除く隙を与えられないまま、あぁと短く返事をする修治。そして言われ た通りに部屋の隅に置かれた戸棚に近付いた。
戸棚を開くと、そこには見覚えのあるものがあった。
「これお前のハープじゃないのか?」
ブルースハープだった。いわゆるハーモニカだ。
それを取るとあらゆる方向から見てみる修治。窓からの光に反射したその姿はどこか異界 のものにも見えた。
「世界一のハープ奏者になるんじゃなかった―」
のか? そういうはずだったが、振り返った修治の前には先ほどとは違う光景が広がって いた。
「彰正…?」
たった今まで閉まっていた扉が少しだけ隙間を作っていた。
嫌な汗がこめかみを伝う。
額には脂汗が滲んでいた。だがその理由は全く分からない。ただいい気分ではなかった。
とにかく扉の前に歩み寄る。だがなかなかそこから先に進めない。
どれくらいの時間が経過したのだろうか。一分にも一時間にも一日にも、一年までにも感 じてしまう。
いつの間にか口の中に溜まった唾液を飲み込む。粘っこい感触が喉を通る。
それを機に修治は意を決したかのようにノブに手をかけ、そして捻った。
扉を開くと、真っ先に鼻を突くきつい臭いがした。その臭いに顔を背ける。
が、瞬間的に入ったその光景が脳裏に浮かぶ。
修治は恐怖にかられながらも顔を前に向けた。
「彰正…お前…なんで……」
そこにいたのは紛れもなく彰正だった。しかしその姿はほとんど原型をとどめていないほ ど時間が彼の体を蝕んでいた。死後半年くらいだろうか?
梁から伸びたロープが彰正の首を掴んでいた。が、いつもげてもおかしくないくらいに腐 敗が進んでいた。
…彰正はその命を絶って尚、最後に親友に会いたい一心で現世にとどまっていたのだ。
『修ちゃん…親友でいてくれてありがとう……最後にに君に会えて嬉しかった………』
END
いかがだったでしょうか?
駄文で申し訳ありませんでした
もしよろしかったら感想など欲しいです