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April Diamond   作者: non
20/20

4月のダイヤモンド



 明日帰国するギルフォードのために、今夜は晩餐会が開かれていた。この宮殿で最も絢爛豪華なシャンデリアを頭上に、大広間の宴は愉快に進んでいく。

 王族一同、次々と酒を注ぎながら彼の帰りを惜しむ中、ケーラーはどこか無理をして明るく振る舞っているようだった。この後ギルフォードと2人きりになったときに、きっと妹は泣くのだろう。


 上座につく国王と王妃のすぐ近くで、僕もエリスと共にギルフォードとの思い出話を語り合っていた。


「父上、母上、どうかされましたか?」

 ふいに両親の視線を感じた。僕が声をかけると2人ともワザとらしく視線を逸らす。

「いや、別に何でもないのだが……なんとなく、お前たちの雰囲気が変わった気がした」

「雰囲気?」

「うまく言葉で言い表せないが、少なくとも良い方向に変わったように見える」

 僕はエリスと顔を見合わせた。ここ最近エリスとのことで嫌味を言われることが多かった分、この言葉は少し意外だった。


「以前、母上に言いましたよね、色々なことを乗り越えるのを見守ってほしいと」

「ええ」

「この数日の間に、2人で乗り越えた事があるんです。だから私たちは、もう以前の私たちではないのです」

 横にいるエリスも、力強く僕の言葉に頷いた。


「もう何があっても、きっと私たちは大丈夫です。この国を治める覚悟も、とうにできておりますから」

 僕はテーブルの下で、エリスの手をぎゅっと握った。僕たちは決意を湛えた目を彼らに向けた。

 すると王妃は僕たちにこう言ったのだった。

「それが聞けて、安心しました」

 

 そのときの王妃の表情は、僕たちの結婚式のときに見せた“母親の顔”と同じだった。門出を祝福するような、やさしい眼差し。その美しくも母性に満ちた顔を見るのは久しぶりな気がした。


「しかしひとつだけ言いたいのだが」

 今度は父上が口を開いた。

「世継ぎはまだなのか?」

「……」

 僕はため息をついた。


「ご心配なく。しっかり励んでいますから」

「ちょ、ちょっとレヴィンっ」

「なんだ、事実だろう」

「そんな事ここで言わなくていいの!」

 エリスが頬を赤くしながら、僕を制止しようとする。父上たちも、やれやれといった顔をしながら笑っていた。


 酒の力が僕をそうさせるのか、気分が高揚する。 

 僕は顔を赤らめるエリスの耳元で、追い打ちの一言を囁いた。可愛いければ可愛いほど、意地悪をしたくなるものだ。

「なんなら、この後つくろうか。そのドレス脱がせやすそうだし」

「! レ、レヴィン!」

 

 その後、拗ねた彼女の機嫌を取るのは大変だった。その様子を見て、ケーラーには「お義姉さまを苛めるなんて最低」と罵られ、バートレットには「また夫婦の危機か?」と面白がられた。ロジャーズに至っては、「それでこそ皇子ですよね」と、満面の笑みで皮肉を言われたし。


 でも、こうして集まった皆の顔を見ていると、どれだけ自分が様々な人に助けてもらっていたのかが良く分かる。僕がエリスとの絆を深められたのも、周りからの温かい目、温かい支えがあったから。そしてそれはこれからも変わらないのだろう。僕もそんな立派な人間になり、堂々と彼女の隣に立っていたい……。そう思いながら、相変わらずそっぽを向くエリスの横顔を見つめた。


 

 で、結局その後、僕は本当に彼女のドレスを脱がせたのかどうか。それは諸君たちの想像に任せるとしよう。


―――どちらにせよ、この上なく幸せな時間を過ごした事に変わりはないけれど。






   *   *   *






「母上はいつも、そのダイヤを身につけてる」

 今年で8歳になる息子が、不思議そうに訊いてきた。もう何十年も身につけているこの首飾りは、褪せることなく私の首で輝き続けていた。私はそっと、指先でダイヤを撫でた。

「父上からもらったの?」

 あの人と同じ、深い緑色の瞳が私の顔を見つめる。


「そうよ。これは、私たちにとって特別なものなの」

「ふうん……」


 広い庭園で、無邪気に走り回る夫と娘が目に入る。それを私は息子と一緒に眺めていた。我が家の大好物、シフェを頬張りながら。

 こんな、ごく当たり前の光景を私はいつも夢見ていた。レヴィンは私を愛して、家族をつくってくれた。こんなにも幸福で、穏やかな日常を与えてくれた……。


「エリス」

 娘を腕に抱きながら、夫がこちらの方へ向かってくる。

 

 以前のように、心が乱れることはなくなった。今目の前にいるこの人が、不気味な闇を取り除いてくれたから。



 万物が活動を始める4月。私たちは何度目かの結婚記念日を迎えた。何度季節が廻ろうとも、変わらないものがある。


“永遠の絆は決して切れることはない”。




あっという間でしたが、何とか終わりました(笑


拙い文章で、お恥ずかしい限りでしたが、ここまで読んで下さった方

本当にありがとうございました!

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