1月のラブレター・5
昨晩、レヴィンから不思議なことを言われた。彼がいなくなったら、ベッドサイドの引き出しを開けるようにと。
何か私を驚かせるような悪戯を仕掛けたのかもしれないと一瞬思ったけれど、あの時の彼はそんな滑稽なことを計画しているような顔ではなかった。とても重要なことを伝えるように、「約束だ」と呟いたのだから。
そしてつい先ほどレヴィンを見送り、私は今、ベッドに腰掛けながら引き出しの方を見つめていた。
何が入っているのだろうという素直な好奇心が沸いてくるが、もう開けてしまうのはもったいないような気もした。でもレヴィンとの約束を破るわけにはいかない。
「よし……」
まるで宝箱を開けるような気持ちで、ついに私は引き出しに手を掛けた。
そっと開けた引き出しの中を見ると、封筒に入った手紙と一つの小箱が目に入った。
「……?」
私はまず手紙を取り出し、便箋を広げた。少し癖のあるレヴィンの文字が数行、そこに並べられてあった。そしてこう記してあった。
“きみの眼に、私はどう映っている?
どんな風に映っていようと、これだけは変わらない。
この心には、君だけしかいないということ。
この言葉と共に、この首飾りを贈る。
レヴィン”
私は急いで、もうひとつの小箱の方を開けた。
「……うそ……」
そこに入っていたのは、一粒のダイヤモンドに銀のチェーンが付けられた首飾りだった。
私は震える手でそれを取りだした。
無邪気に誕生石の話をする、あの日の2人が私の目の前によみがえる。誕生日も結婚記念日も4月。4月は私たちにとって特別な月。そして4月の誕生石は、ダイヤモンド。
私は首飾りを手のひらに乗せた。
そのたった一粒の輝くダイヤに、彼の全てが詰まっているように感じる。私を愛してくれる気持ちも、守ると言った言葉も……。そう、これはまるで彼の分身のようなもの。
私は早速チェーンを外し、鏡の前でそれを身に付けた。ひっそりと、でもひときわ眩しく、それは私の首元で輝いていた。
「レヴィンがいる……」
思わずそんなことを口に出すと、本当に彼がすぐ近くに居るような気がした。“愛してる”と私の耳元で囁いてくれたような―――。
* * *
白磁の間に入って来た彼に気付くと、私は何も言わないまま微笑んだ。レヴィンも私につられるように笑った。ちょっとだけ、照れくささを隠すように。
私はレヴィンの方へゆっくり歩み寄った。きっと彼には、私の首に光るダイヤが見えているはずだ。
「……今日はずっと、あなたの事ばかり考えてた……あなたが、こんなものを贈ってくれたせいで」
私はダイヤモンドをそっと触りながら、わざとそんなことを言ってみる。彼は可笑しそうに吹き出した。
「それは悪かったよ。でも、早くそれを渡したかった」
「……私たちとって、とても特別な石」
「ああ、そうだ」
レヴィンは私の肩に手を置き、そのダイヤモンドを見下ろした。
「君の心を支えてくれるようなものを贈りたかった」
「……」
私はそっと、レヴィンの身体に抱きついた。
「いつもあなたが、ここに居るような気がする」
「“気がする”じゃなくて、居るんだよ。いつも君の胸に」
髪の毛の間に差し込まれた大きな手が、やさしく頭や首を撫でてくれる。私は彼の腕の中で少し顔を上げ、こんなことを訊いた。
「“ダイヤモンドの石言葉を知ってる?”」
レヴィンはその言葉に、すぐにピンと来たようだった。余裕な顔で彼は答えた。
「“永遠の絆”。私が忘れるわけないだろう」
私たちは懐かしい記憶と共に、2人で微笑み合った。
どんな困難が待っていようとも、永遠の絆は決して切れることはない。そんな風に確信できたのは、彼がここに居てくれるからだ。
「あ、ミュラーにドレスを変えたいって言わなきゃ」
「え?」
「ううん、何でもない」
このダイヤの首飾りには、胸元の広く開いた、あの淡い緑のドレスしか似合わない。