主人へ淹れる紅茶の温度と、敵を制圧する速度。その計算、すべて完璧です。 駆け出しハッカーの女子大生を狙う巨大企業を、家庭用ロボットが家電連動と合気で返り討ちにする話です。
〜不要品家庭用ロボットにハッカーが『感情』という名のバグを注いだら、邸宅ごと最強の要塞にビルドされました〜〜不要品家庭用ロボットにハッカーが『感情』という名のバグを注いだら、邸宅ごと最強の要塞にビルドされました〜
第一章:不要品と呼ばれた家庭用ロボット
大学の門を出ると、夕方の柔らかな光がケイリーの髪を照らした。明るい茶色のポニーテールが揺れ、情報工学を専攻する彼女は、まだ駆け出しのハッカーだ。
その未熟さすら、彼女の魅力のひとつだった。
「はぁ……今日もレポート多かったなぁ」
両親が残した邸宅でひとり暮らし。
そんな彼女のスマホが震えた。
叔母のナナからだ。
「うちで使わなくなった家庭用ロボット、今日送っておいたから。大事に使いなさいよ」
一方的に電話は切れた。
ケイリーは溜息をつき、画面を睨んだ。
「またか……。ナナおばさん、今度は何を送ってきたのよ」
これまでもナナからは様々なものが送られてきた。
勝手に喋り出す超高性能冷蔵庫、床の材質を分析しすぎる掃除機、挙げ句の果てには温度管理が厳格すぎて一杯淹れるのに十分かかるコーヒーメーカー。
どれも機能過多で、設定が面倒なものばかり。
便利というよりは「生活を監視されている」ような気分になるのが、ナナからのプレゼントの常だった。
夕方、自宅に届いた巨大な木箱には**『家庭用人型ロボット・モデルA7 試作機』**というラベルが貼られていた。
木箱を前にして、ケイリーはふと視線を上げた。
埃を被った暖炉の上に、数枚の古い写真が並んでいる。
若かりし日の両親が、巨大なサーバーセンターのような場所で、難しい顔をして回路図を覗き込んでいる写真だ。
「……パパもママも、結局最後まで教えてくれなかったよね」
二人は高名な情報工学の研究者だったが、ケイリーが幼い頃、ある国家プロジェクトに関わったまま帰らぬ人となった。
その隣には、少し若い頃のナナ叔母さんが、油に汚れた作業着姿で笑っているスナップがある。
「……『私たちに何かあったら、ナナを頼りなさい。あいつは数字よりも、もっと大切なものを扱える唯一の人間だから』だっけ」
父が残したその言葉の意味を、当時のケイリーは理解できなかった。
ケイリーは意を決して、箱の中で静かに佇む、紺色のスーツ姿の人型に手を伸ばした。
ケイリーは深呼吸し、添付された黄ばんだマニュアルを読む。
アーサーの頭髪に隠れた電源ボタンを押した。
「……起動を確認。初期設定を開始します」 「えっと……あなた、名前は?」
「私は家庭用ロボット・モデルA7、
ご希望であれば、名称を設定できます」
ケイリーは少し考え、ふっと笑った。
「じゃあ……アーサー。執事っぽいし」
「名称を登録しました。私は“アーサー”です」
その瞬間、アーサーはほんのわずかに微笑んだように見えた。
彼は即座に邸宅の中をスキャンし、掃除、洗濯、料理の段取りを瞬時に組み立て始めた。
さらに、彼は自然な動作でケイリーの指に触れ、バイタルデータから健康チェックも行う。
「ケイリー。あなたの健康を考慮し生活リズムを最適化するため、いくつか質問してもよろしいでしょうか」
「う、うん……」
その質問は極めて丁寧で、所作の一つ一つがまるで本物の人間の執事のようだった。
だが、ケイリーは質問に答える途中で、ふと奇妙な違和感に気づく。
「……なんか、あなた……普通のロボットより“人っぽい”?」
それは、単なる「高性能」では説明がつかない、何か別の「意志」が混ざっているような感覚だった。
用語解説(中学生向け)
回路図: 電気製品の中にある部品の繋ぎ方を書いた、地図のような設計図。
初期設定: 機械を初めて使う時に行う、最初の準備のこと。
バイタルデータ: 心拍数、体温、血圧など、人間が生きていくために必要な「生命のサイン」のこと。
例: 病院でお医者さんが測るデータのことで、これを見るとその人が元気かどうかがすぐにわかります。
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