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仮初めの恋人のはずが、辺境伯家の令息の執着から逃げられない  作者: 水瀬みずか


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第17話

 その言葉に、なぜか少しだけ、安心してしまう自分がいる。

私は小さく首を振った。

契約上の関係なのに安心してどうするの。

利害関係があるから一緒にいるだけ。

――そう、分かっているのに。


「サラ。」


顔を上げると、アレクセイがこちらを見ていた。

逃げ場を探していたのを見透かされたみたいで、思わず視線を逸らす。


「夜会の返事は、いつでもいい。」

「え?」

さっきまであんなに強引だったのに、少しだけ声が柔らいでいる。

「ただし、来る前提で準備は進める。」

「それ、断れない流れじゃないですか……。」

思わず呟くと、アレクセイはわずかに口元を上げた。

「断る気があるなら止めるが。」

「ありますよ。」

「本当か?」


即座に返されて、言葉に詰まる。

あるはずなのに、さっきの言葉が頭から離れない。


――君が来ることには意味がある。

「……その意味って、やっぱり教えてくれないんですか。」

恐る恐る聞くと、アレクセイは一瞬だけ考えるように視線を外した。


「今はまだ。だが、危険があるのは確かだ。だからこそ、俺の目の届く場所にいろ。」

「……私、そんなに危なっかしいですか。」

半分冗談のつもりで言ったのに。

「そうだな。放っておくと、自分から厄介事に近づく。」

「そんなことありません!私はただ、気になっただけで……。」

そこまで言って、口をつぐんだ。

――気になっている荷のこと。

無視できない。


「ほらな。もう巻き込まれている。」

図星で何も言い返せない。

「だから来い。」


「……本当に計算高いですね。選ばせるくせに、逃げ道は用意してないじゃないですか。」

「必要ないだろ。逃がすつもりもない。」


一瞬、息が止まる。

(今の……)


顔が熱くなるのを感じて、慌てて視線を逸らした。

その時、遠くで再び荷馬車の音がした。

思わずそちらを見ると、リーデル商会の紋章のさっきとは別の馬車。


今までは気にも留めなかったのに一度気づいてしまうと、もう見過ごせない。


「サラ」

名前を呼ばれ振り返ると、アレクセイがすぐ近くにいた。

いつの間にか、また距離が縮まっている。

「不用意にアレには近づくな。」

視線は、荷馬車の方へ向けられている。

その横顔は鋭く冷静で、さっきまでとはまるで違った。


この人やっぱり、何かを知っている!?

「……分かりました。」

「いい返事だ。」

「じゃあ、夜会には来るだろ。」

「……まだ決めてません!」

慌てて言い返すと、くすりと笑われた。


けれど、さっきまであった不安は少しだけ、形を変えていた。

怖いが、何が起きるのか知りたい

そして、どうしてこんなことになっているのか。

アレクセイが、何を知っているのか。

その答えはきっと夜会にある。

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