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あの日に

作者: 朝井 宵

「私をひとりにしないで、1人で先にいかないで……」


その日は蒸し暑い夜だった。私とモナカは一緒に寝ていた。外では蝉がうるさく鳴いていて、なんだかいつにも増してうるさくて私はなかなか眠れないでいた。

ちょうどスマホを閉じたのが23時47分だった。その10分後くらいに悪夢は起きた。

下から突き上げるような揺れに地響きのような恐ろしい音がなり、次の瞬間には家具が全部床に倒れていた。私は突然の出来事になにが起きたか分からずパニックになりながらも、パニックになってキャンキャン鳴くモナカを追いかけ捕まえて机の下に隠れた。少しすると揺れはおさまり歩ける状態になったから、次が来る前にモナカにリードを着け車で避難所へ向かおうとした。私の家があるところは山がすぐそこで近いから道路は避難する車で混んでいて、家の前が渋滞で車を出せなくなっていた。このままでは間に合わないと思い私は、車を降りてモニカを抱えて避難所に走った。普段は通らないような道も走り疲れも汚れも気にする暇もなく走り続けた。普通正規の道で歩いて行けば50分はかかりそうな所に避難所はあるが、この時は20か30分ほどで避難所に着いた。走り続けてやっとの思いで避難所に着いたが、しばらく運動はしていないしこんなに必死に走ることなんてないから私はもううまく呼吸ができなくなっていた。避難所に着いた途端疲れがドッときて足の筋肉と、草むらにも突っ込んだから足を草で切って出血していてすごく痛い。肺と足が引きちぎれそうだ。蒸し暑くて今にも倒れそう、もうだめだ視界が真っ白になってきた平衡感覚を失う。モナカを抱っこしているのかもわからなくなった。


目が覚めたらなにやらざわざわと騒々しかった。どうやら避難所の中に運び込まれたようだった。

無意識に足元を見る。いつも寝る時モナカは私の足元で丸くなって寝ているから、モナカにおはようと言おうと足元に目を向けた。しかし、いつもいるはずの場所にモナカはいなかった。嫌な予感がした、どうしようもない不安が心を埋め尽くす。急いで近くにいたスタッフを呼び止め「モナカは、モナカはどこですか、犬ですモナカ色のトイプードルですちっちゃい、このくらいの..」と身振り手振り伝える。「もしかして、あそこの犬ですか?外に繋いでいる…、避難所にペットは入れられないんですよアレルギーや苦手な方もいらっしゃいますし」スタッフは外を指さして困った顔で言う。だが指を差した方にはなにもない、あるとすればピンク色の紐が柱から垂れているだけだ。そう、モナカは首輪から抜けていたのだ。避難してくる車も多く私が寝ている間にも一回また地震が来たそうだ。私はスタッフを払いのけて外へ飛び出した。

探し回って泥だらけになってもう諦めかけた時、近くでか細い犬の鳴き声がした。その声の元へ行くとそこには瓦礫に下半身を潰され生き絶え絶えの状態のモナカがいた。「もう嫌だ、こんな、こんなのひどすぎる 両親も15年前に旅行先で地震にあって死んだのに、モナカまで奪うなんてもう私からなにもとらないで」私は叫び泣きじゃくった。瓦礫を退けモナカを抱くが冷たいばかりで他はない。

「ひとりにしないで、モナカを1人でいかせたりはしないから。一緒に行こう家族のもとに」


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