第八話 納得がいってリョウリ
アユミは手を止めた。
肩で息をしていた。
しかし、目には未だに敵意があった。
合わさった目線をすぐさま逸らして、カズマはまた、済みませんでした、と謝る。
それは、いままでの失敗から学んだ、最善の一手だ。
アユミはソファに腰を下ろした。
「私に殴られて、謝らされて、それでも私と寝たいの?」
「はい」
簡潔に答えた。
「もしもそれが私の気に入らない答えで、関係が終わりになったとしても、あなたは後悔しないで私と寝たいって答えられる?」
「いえ、後悔はします。でも、寝たいか寝たくないかで言ったら、もちろん寝たいです」
「……頭を上げなさい」
言われた通りに頭を上げたカズマの口に、アユミは○を入れてきた。一歩後退するほどの力で、だった。
何も言わなくていい。
いや、何も言わせたくない。
キスをしながら、アユミは服を脱ぎ、下着だけの姿になった。
そしてカズマのベルトを外してジーンズとボクサーブリーフを下ろし、迷っているカズマの手を、自分の〇へと持っていった。
これで躊躇うほうが馬鹿だ。
カズマは勢い、○○を揉んだ。
抱きついてくるアユミを○○のように抱えて、ベッドまで運んでいった。
しかし、リードするのはいつもアユミだ。
ベッドに座って足を開き、○○を〇〇るように要求した。
下着をずらして○○ながら、カズマは指でも○○する。これくらいのアドリブはありだ。
アユミの声が漏れる。
カズマの○○も固くなっている。
三十分余り後、カズマは○○した。
○○〇ズムに達した男性は、女性よりもかなり早く、興奮状態から冷める。
ベッドで横になっているアユミをそのままにして、カズマは昼食の準備に取り掛かった。
メインは豚肉のバルサミコ酢ソテーだ。
まず豚肉の脂身と赤身の間に数か所、切れ込みを入れる。
全体に塩コショーをしてから薄力粉をまぶす。
フライパンにオリーブオイルを入れて熱し、豚肉を中火で三分ほど、焼き色がつくまで焼く。
あらかじめ蜂蜜、バルサミコ酢、醤油、おろしにんにくを、適量、混ぜておく。
上下をひっくり返して火が通るまでさらに三分ほど、焼く。
余分な脂をキッチンペーパーで拭きとり、先ほど作った合わせ調味料を豚肉にからませて、少しとろみがつくまで煮詰める。
三十秒から一分ほどだ。
それで完成になる。
これが教わった作り方だ。
料理をしているとき、カズマは自然と作業に集中する。
だから余計なことを考える余地は一切ない。
上手に美味しい料理が作れたときの快感で顔がほころんでしまうのは、どの料理人でも同じだろう。
時計を見る。
遅くとも十一時過ぎには出たいのだが、もう時間がない。
声をかけたほうがいいのだろうか?
自分で閉めてきたドアを見ていると、物音がした。
間もなく、アユミが出てきた。
きちんと衣服を身に着けて、化粧も軽く直してきたようだ。
「もうできるから、あと二、三分、待ってね」
それに対してアユミは何の返事もしない。
カズマは手早く料理を運び、テーブルに並べる。
そして、食べ始める。
アユミが、ぼそっと言った。
「うん。美味しい」
「でしょ。上手くいったと思ったんだ」
タメ口はまだ早かったかもとドキリとしたが、アユミは怒りはしなかった。
ここから、何も言わずに食べ続けるか、何か雑談のきっかけになる話題を振るか、道はふたつに別れている。
そしてその正解は、アユミの機嫌によって決まるのだ。
迷うカズマ。
そうしている間にも時間は流れていく。
「弁当も、同時進行で作ったんだよ。こっちも自信作、なんだ」
「うん」
そして沈黙。
前者だったのかと思ったのだが、アユミは続けた。
「あなたの料理の腕は、信用してるから」
今度はカズマが
「うん」
と言った。
「ありがとう」
それへの返事はなかったのだが、アユミの顔を見て、カズマはこう読み取った。
いつも美味しいお弁当を作ってくれて、こっちこそ、ありがとう。
それで充分だった。
昼食が終わると、並んで食器を洗い、歯磨きをし(カズマ用の歯ブラシも置いてあるのだ)、十一時五分に、ふたりそろってアパートを出た。
渋谷で別れ、カズマはアルバイト先の洋食屋へ、アユミはまだ時間にならないので洋服を見に、軽い足どりで歩きだす。




