第二十二話 アユミのトラウマ
休憩時間になり、待ち合わせた喫茶店へと向かった。
男は店の前に立っていた。
喫茶店で待ち合わせたけど、五分じゃコーヒーが来る前に終わってしまうから、歩きながら話そうか。
声も三年前と変わってはいなかった。
低くて優しい男っぽい声だ。
嫌な過去への心の傷も忘れ、アユミは思わず懐かしくさえも思ってしまった。
でも、目を見ることも並んで歩くこともできなかった。
だから男のほうからアユミの横に立って歩いた。
「済まないけれど五分だけしかないから一方的に言いたいことだけ言わせてもらうよ」
と男は言った。
「アユと別れてから馬鹿なことをしたんだと気がついた。俺はアユのことが本当に好きだったんだと、後になって気がついたんだ。妻よりも、家族を捨ててでも、アユを選ぶべきだったんだって。俺にはアユが必要なんだ。すぐにとは言わない。俺がしたことを許してくれとも言えない。ひどいことをしたからね。でも、できればやり直したい。いまはもう離婚している。ひとから後ろ指をさされるようなこともないんだ。これ、俺の携帯の番号とメアドだ。アユならきっと削除して忘れてしまっていると思うから、メモに書いておいた。いつでもいい。よかったら連絡してほしい。待ってる」
五分も意外と長いな、そう言って男は時計を見た。
「また店に行ってもいいか?」
と男は訊いた。
「それは、困る」
とアユミは答えた。
「じゃあやめるよ」
と物分かりのいい顔で男は答えた。
答えてから、
「俺が妻と別れたのはアユとやり直したいからだっていうのが本心なんだ。愛してる」
そう残して去っていった。
愛してる。
男とアユミが不倫をしていたときに、情事のあとでアユミがそう言ってほしいとせがんだことがあった。
男が困ったような嫌そうな顔をして黙り込んだので、アユミは謝った。
そのときのアユミは盲目で、すべてにおいて男を優先していたのだ。
男を困らせた自分が悪いと、そう思ったのだ。
あんなに消したかった痛むほどの過去だったのに、メモを捨てることはできなかった。
12
アユミは四年制の大学を卒業してから前の会社に就職した。
そこで課長だったのがその男、橋爪鉄嗣だった。
アユミが入社して半年後、関係を持つようになった。
わりかしある話だ。
その八か月後、橋爪の妻に関係がばれ、アユミは自分が退社することで橋爪をかばったのだが、いいように言いくるめられて最後には連絡が途絶えた。
捨てられたのだ。
橋爪はずるい男だから、関係を持っている間、愛してるとも妻と別れるからとも言わなかった。
アユミが自分を好きになるように誘導し、アユミが自分に体を許したくなるように誘導し、関係が長く続き自分が美味しい思いをできるように誘導した。
関係を重ねて機が熟したとみると、橋爪はこう持ちかけてきた。
「固定○○○、させてくれない?」
アユミは受け入れた。
もちろん、○○○○ー〇―を使うのはそのときが初めてで、好きな男の望みなら、叶えてやりたいといういじらしい乙女心からだ。
そんな道具を使うのはいやらしいと思うと、いつもより○○になった気がした。
興奮した橋爪は、○○○を○○るように要求してきた。
アユミはそれも受け入れた。
上の〇で○○ながら、下の〇には○○○○ー〇ー。
まるでアダルト・ビデオだ。
「ああ」
アユミが声を漏らすと、橋爪の顔が歪んだ。
橋爪は手を伸ばし、アユミの〇〇に入っている○○○○ー〇―を○○に動かした。
アユミの反応を見て、また歪ませた。
○○する前に○○○を〇から離し、○○や○○○○〇を愛撫し始めた。その後、○○○○ー〇ーを抜き、〇○○ー〇をつけてから○○し、○○を変えながら動き、果てた。
それ以前もそれ以後も、アユミは橋爪の望むようにセ○○○をしていた。
そこに愛があると、愛があるからこその行為だと、アユミは思っていた。
「アユは可愛いな」
橋爪の囁きに、アユミは女の幸せを得たつもりになっていた。
浅はかな夢だ。
振り返って去来するのは、強い強い後悔の念だ。
アユミは自分が汚れていると思っている。
自ら進んで自らを、橋爪のような男に、〇で〇で弄ばせさせて、そこに愛があると信じて疑いもしなかった。
医者にそう診断されたわけではないので確かだとは言えないが、男性恐怖症のようにもなった。
カズマとのセ○○○がああいう仕方になるのはだからこそなのだ。
思い出したくもないのに浮かんでくる。
思い出そうだなんてしてはいないのに浮かんでくる。
セ○○○をするために優しくする橋爪の顔と言葉。
あんなものを、私は。
憎たらしい。
憎たらしい。
憎たらしい。
あいつも、自分も、何もかも。
泣きそうになったアユミが会いたいと思ったのは……。




